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処刑人は英雄を夢見る  作者: 田中凸丸
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1話:前途多難な入学

「本日付で、貴様を解任することとする。」


 広大な部屋で玉座に座る壮年の男性が、目の前で跪いている青年にそう告げる。玉座に座る男性の恰好や周りにいる鎧を着た人間達から、恐らくここは何処かの国の王城なのだろう。


 解任を告げられた青年に、国王らしき人物やその傍で控えている大臣、王子、騎士らしき人物達は皆侮蔑の視線を向けている。”何故お前がこんな場所にいる?さっさと消えろ”と口には出さないが、彼らの目はそう語っている。

 ただ一人、玉座の隣で佇む女性、王妃らしき二十代半ばの女性のみが悲し気な視線を青年に向けている。


 そして視線の針に貫かれている青年だが、その恰好は奇妙な物だった。まず身なりはボロボロで広間の清潔さに対しての違和感が激しい。何より青年はその顔を隠していた。包帯で顔をグルグル巻きにして、陶器で作られた仮面を被っている。外見で唯一判別できるのは包帯の隙間から漏れている白い髪の毛と仮面の奥から覗く赤い目だけだ。


「さて、貴様のような存在でも我が国に仕えた事には変わりない。何か望みはあるか?聞くだけ聞いてやる。」


 嫌々と明らかにわかる態度で国王が青年に、これまで国に仕えてきた褒美に何が欲しいかを聞いてくる。だが青年に向けた視線と先程の台詞から聞いて終わりだという事は明白だ。


「・・・と。」


「ん?」


「騎士に、、、成りたいです。」


―――――


 8時を告げる鐘の音が、目の前の大きな建物から鳴り響く。豪奢な門、建物へと続くレンガ道を歩く同じ制服を着た若者たち。


 彼らに合わせて、同じ制服を着た一人の青年も建物へ向かって歩き出すが周りの人間は彼を見た瞬間、知り合い同時でヒソヒソと話し始める。

 青年は顔に包帯を巻き、仮面で顔を隠していた。


 ”ねえ、何あの仮面?それに包帯もまいて、不審者?”


 ”おい、あの髪の色、グルム人じゃねえか?何でグルムがこんなところにいるんだよ。”


 ”誰か警備の人呼べよ。”


 ”いやね。グルムとなんて関わりたくないわ”


 やがてヒソヒソがザワザワという効果音に変わっていく。流石に門の近くに立っていた警備員も黙っているわけにはいかなくなったのか、青年に詰め寄る。


「おい待て、お前。お前此処の生徒か?もし生徒だったら学生証を見せろ!」


 警備員に詰め寄られた青年が背中に背負っていたリュックから、学生証を取り出し警備員に見せる。


「今日からこの駆動鎧騎士学院に入学することになった。カシム=グールです。」


「学生証は本物のようだが、お前グルム人なのか!?何でグルムが此処にいる!此処は歴史ある中央駆動鎧騎士育成学院だ!お前みたいな奴が来て良い場所じゃないんだよ!」


 青年から学生証を受け取った警備員は、学生証に記載されている青年の出身をみた瞬間怒鳴り散らし、カシムを突き飛ばす。彼らにとって青年の出身は大きな問題らしい。


「そう言われましても、此処に校長からの推薦状もあります。」


「何!!」


 青年が推薦状を警備員の目の前で掲げると、警備員は目を見開きながら内容を確認する。間違いない校長の印がされている正式な推薦状だ。

 ”チッ!”と舌打ちをした警備員は青年をしょっ引くことが出来ないのが残念なのか、学生証を投げ渡すと肩を怒らせながら門へと戻っていく。


「・・・」


 失礼極まりない態度だが、彼らを責めるわけにもいかない。この国、ヴァンドルフ王国では彼らが正しいのだから。

 例え彼が今日から、この学院『中央駆動鎧騎士育成学院』の新入生として、歓迎される立場であったとしても。


―――――

『本日をもって君達は我が中央駆動鎧騎士育成学院の生徒となる。友と競い合い、やがて我がヴァンドルフ王国を守護する騎士となり、歴史に名を刻むことを私は期待している』


 校長の新入生に対しての長い祝いの言葉や新入生代表の答辞など、様々な挨拶が終了し全校生徒は、各々自身の教室に戻って行き、新入生も割り当てられたクラスへと向かう。


 新入生である一年生の教室に割り当てられた一階、廊下にいくつもの教室が並ぶ中の一つの教室で、数十人もの生徒がある一人の生徒を睨んでいる。

 まるで晒し者にされているような気分になり、睨まれている人物、カシム=グールは居心地が悪かった。

 確かに顔に包帯を巻き、仮面を巻いている自分は目立つかもしれないが、彼らが向けてくる視線には奇異や不信感だけでなく、侮蔑や嫌悪の感情も混ざっておち、校門での出来事と合わせて少しだけうんざりしてくる。


 そんな空気を払しょくする為か、もしくは授業を進めたいのか手を叩き、髪を横に束ねた三十代前半の女性教師が生徒に注意をする。


「皆さん。既に学院の生徒としての生活は始まっているんですよ。勿論、爵位を持つ貴族のご子息達も通う歴史あるこの学院に、忌むべきグルムがいるなど吐き気も催しますが、いずれは王国を守る騎士として一分一秒も時間を無駄にしている暇はありません!」


 生徒を叱っているように見えながらも実際はカシムを否定し、生徒を擁護している女教師。そんな彼女の態度を見て、生徒も満足したのか視線をカシムから外す。


 それからは各生徒の自己紹介が始まっていく。多くの生徒が名前と得意な事や趣味などオーソドックスことをしゃべっていくが、一部の生徒は自身が貴族である事を自慢げに紹介していた。


「カシム=グールです、、、」


 いよいよカシムの番が来たのだが、周りの空気を読んで名前だけの紹介に留めて着席する。そして数分後、別の生徒の自己紹介が始まるのだが、その生徒が立ち上がった瞬間、女子生徒からは黄色い歓声が沸き、男子生徒は興味津々と言った感じでその生徒を見つめる。

 クラスメイトに注目されているのはカシムと同じだが、その視線は好意的で彼とは真逆だった。注目されている男子生徒が自己紹介を始める。


「セルギス=ヴァンドルフです。名前でお分かりかもしれませんが、ヴァンドルフ王国の国王であるグラン=ヴァンドルフの息子です。一応立場としては王太子ですが、そんな立場など気にせずに話しかけてくれると嬉しいです。特技は剣術や駆動鎧の操作などが得意です。皆さん宜しくお願いします。」


 艶やかな長い髪をたなびかせ、甘い顔立ちで笑顔を女子に振りまくセルギス。女子生徒は赤面し、男子生徒は”敵わないなぁ”とでも言いたげな表情を浮かべている。

 その後、残りの生徒の自己紹介が続いていくが、セルギスという大物の紹介が終わっていたためか、誰も興味は持っていなかった。

 

―――――


 最初の授業として行われたのは歴史の授業、ヴァンドルフ王国の成り立ちから技術の発展、他国との争いの歴史などを学ばせ、何故このこの学院が作られたのかを生徒に理解させる為らしい。


「嘗て我が王国はエルフ、ドワーフなどの亜人種と友好的な関係を保ち大陸に存在する五つの国の中で最も発展をしていきました。しかし三十年前、とある野蛮な流浪の民族が愚かにも我が王国に侵略を仕掛けてきました。さて、カシム君。その民族の名前はご存じですか?」


 笑顔でそう言ってカシムに回答を求める女教師、恐らくわざとカシムを選んだのだろう。指名されたカシムが立ち上がると後ろから、ペンや消しゴムの千切った破片などの文房具が投げられる。


「ダメですよ皆さん。そんな事をしては資源の無駄になってしまいます。ゴミにはゴミをぶつけるべきです。それでカシム君早く答えてください。」


「王国に侵略を行った民族の名はグルムです、、、」


「愚かな、が抜けていますよ。愚かなグルム人であるカシム君?」


 女教師がそう言った瞬間、教室中でカシムに勝って嘲笑が向けられる。皆口々に”愚かな民族””下等生物””能無しの末裔”などカシムを罵倒していく。


「王国に侵略を行った”愚かな”グルム人ですが、彼らは通常の人族とは異なる特徴がありました。それは何かわかりますか?セルギス殿下?」


「はい、彼らは自らの体内に眠るエネルギー”マナ”の保有量は、赤子の頃から成人男性の数倍と言う驚異の保有量を持っていますが、逆に大気中に漂うエネルギー”エーテル”を体内に取り込むことを苦手としておりました。また身体的特徴として屈強な肉体を保持しています。後は髪が白いことと紅の瞳を持っている事ですかね?」


 女教師が「素晴らしい!!」と大げさに拍手をし、周りの生徒も彼女に同調しセルギスに拍手を送り、贈られた本人は実に誇らしげに着席をした。


 ”マナ”と”エーテル”この二つは世界において、人々の生活や軍事力を支えてきたエネルギーの俗称で、一見違いは名前だけのように思えるが、その実真逆のエネルギーであると言える。


 ”マナ”は人間の体内で生み出され循環されるエネルギー、それは食事などを摂取することで生成され、然るべき手段で体内に循環させる事で免疫能力や身体能力を向上させる他、自らの肉体を介して、金属などの無機物に流す事で強度を上げたり、逆に柔らかくして展性を付加することができ、保有量が多い人間は優秀な戦士として同じくマナを使用した武器を使っていたという。


 一方の”エーテル”これは、人間の体内では生み出されず、自然環境の中で発生するエネルギーで、一説には人も含めた動植物の体内に収まらなかった”マナ”が大気中に分散し、変化したものという説がある。こちらは”マナ”と異なり、体内に取り込んでも免疫能力や身体能力の向上には使えないが、取り込んだ”エーテル”を然るべき触媒を用いることで熱や光などの各種エネルギーに変換できること、体内の保有量に左右され、”マナ切れ”が発生する”マナ”とは異なり、外部から吸収する事で半永久的に使えることなどから、殆どの人間が”エーテル”を優れたエネルギーとして使用している。


 総じて、”マナ”は人間の基礎能力を上げたり、物質の基本的な特性を強化するエネルギーであるのに対して、”エーテル”は人間や物質に新たな機能や拡張性を付与するエネルギーであると言える。


 また”マナ”と”エーテル”をぶつけ合わせると、元の掛け合わせたエネルギーの十数倍にも匹敵するエネルギー量まで膨れ上がるが、非常に不安定な状態となり少し扱いを間違えるだけで爆発に近い現象を起こす。

 その為、”マナ”を使った身体強化や物質への伝搬と”エーテル”を用いたエネルギー変換は同時に行ってはいけないというのが大陸に住む人間にとって常識となっている。


「侵略を行った”愚かな”グルム人と対抗する王国によって戦争が勃発しました。当初は”マナ”保有量が多く、身体機能に優れたグルム人に押されていた我が王国でしたが、やがてエルフ、ドワーフなどの亜人種と協力して”エーテル”を用いた進化した鎧、”駆動鎧”の開発とそれを操る”騎士”の存在により、形勢は逆転します。長期間の戦争による”マナ切れ”を起こしたグルム人と”エーテル”により、半永久的に動き続ける”駆動鎧”を駆る騎士、どちらが勝つかなど明白でした。そして戦争が始まってから七年後、我ら王国は遂に”野蛮で愚かな”グルム人との戦争に勝利したのです!その後戦争に負けたグルム人ですが、捕虜の兵士は全員処刑、戦争に参加できなかった女子供は各地に散らばり、以降グルム人は”愚か者の象徴””忌むべき存在””下等生物”として扱われることになります。」


 女教師がそう告げると同時に授業終了のチャイムが鳴る。女教師は「いったん休憩です。十分後に授業を再開します。」と言って教室から出ていく。


 休憩時間になったことで、各生徒が席から離れて各々クラスメイトと話し出すが、クラスメイトの大半は主に二つに分けられていた。


 一つはセルギスに話しかける者、王太子殿下である彼と知り合いになって、安泰な将来を得ようと貴族、平民関係なく必死にセルギスに話しかけている。

 女子生徒は側室を目指し、男子生徒は王族直下の騎士団への配属とそれぞれの野望を隠しながら近づいているが、セルギスはそんな彼らの野望に気付いているのか、気づいていないのか笑顔で対応している。


 もう片方は、厭らしい笑みと侮蔑の視線を向けながらカシムに近づく男子生徒達だ。全員ガタイが良く、普段から己に厳しい特訓を課している事が見て取れる。

 ”見るからに嫌な予感がするなあ”とカシムは思わずため息を吐いてしまうが、そんな彼の態度が気に喰わないのか、男子生徒の中でも一番体格が良い男、リーダー格で髪を逆立てた男がカシムの顔面を殴り、彼を椅子ごと吹き飛ばす。


「何舐めた態度取ってんだ!”下等生物”のグルムの癖によ!そもそも何でグルムがこの学院に居るんだよ!」


「この学院は歴史ある学院だぞ!テメーみたいな”下等生物”が足を踏み入れて良い場所じゃないんだよ!さっさと失せろ!」


「分かんねーのか!ただでさえグルムが居て皆気分が悪いのに、その妙な仮面と包帯のせいで女子が怯えてんだよ!邪魔なんだよ!消えろ!」


 男子生徒の言う通り、女子生徒は気味悪がってカシムに近づかず、隅で固まっている。そんな彼女達を怯えていると考えたのか、男子生徒は騎士道精神を発揮してカシムに絡んできたのだろう。

 最も殴られたカシムに言わせれば、そんな理不尽なことを言われても、と言ったところだろう。


 その後も男子生徒はカシムに暴言を吐き、地面に倒れている彼を踏みつけていく。制服が汚れているし、体の節々も痛くなってきたのだが、誰も助けず、カシムも抵抗しない。


 彼は知っている。ヴァンドルフ王国では、いや大陸全土でグルムは嫌われ者であるという事を。だから誰も助けてはくれないし、抵抗をしてもいけない。それが世界の常識で、15年間王国に縛り付けられて生きてきたことで悟った処世術なのだから。




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