最終話 祝福は続いていく
◇◇◇
白い光が、ゆっくりと消えていく。
崩れ落ちるように空から落ちてきた少女を、最初に受け止めたのはジャイルだった。
「……ティアラ……!」
腕の中の温もりに、ジャイルは思わず息を詰める。
確かに、そこにいる。
失われていない。
「……無事、だ」
その声は震えていた。
「ただいま」
ティアラは、少し困ったように微笑んだ。
「心配、かけちゃったね」
「かけすぎだ……馬鹿」
力が抜けたように、ジャイルはその場に膝をつく。
ミハエルも、エリックも、セバスも、誰一人、言葉をすぐには発せなかった。
そして。
「……キュウ」
小さな声。
ティアラの肩に乗った、真っ白な小さなドラゴン。
一瞬の沈黙の後。
「……は?」
ミハエルが、間の抜けた声を出した。
「いや、ちょっと待って。え? なに? その……可愛い生き物」
「フィリップよ」
「いやいやいやいや!!」
ミハエルが両手を振り回す。
「さっきまで世界を滅ぼしかけてたやつだよね!? 邪神! 漆黒! 絶望!」
「今は小さいから平気でしょ」
「そういう問題じゃない!!」
「キュウ……」
フィリップが小さく鳴くと、ミハエルは一歩後ずさった。
「……睨まれたんだけど」
「気のせいよ」
「絶対違う!!」
そのやりとりに、エリックが小さく笑う。
「……本当に、戻ってこられたのですね」
「ええ。完全に」
ティアラは空を見上げた。
かつて魔力を吸い尽くされ、死にかけていた大地。
今は、柔らかな光に包まれ、ゆっくりと息を吹き返している。
「創造と破壊が揃えば、世界はまた巡り始めるの」
「……なるほど」
エリックは深く頷いた。
◇◇◇
数日後。
アリステア王国は、静かに崩れた。
魔力に守られていた王権は、その源を失い、
神殿は解体され、教会の権威は地に落ちた。
長きにわたって歪められてきた「女神の名」は、ようやく本来の意味を取り戻したのだ。
王族は失脚し、国は再編へと向かう。
だが、それを裁くのは神ではない。
人が、人の手で行うことだった。
「……終わったね。なんだかあっけないくらい簡単に」
冒険者ギルドの一角で、ティアラが呟く。
「自業自得だよね」
ミハエルは肩をすくめた。
「もう、国としてとっくに限界を迎えてたんだろうから。あとは、この国の人間が決めることだよ」
「そうだね」
ティアラは笑う。
肩の上で、フィリップが「キュウ」と鳴いた。
「……あのときは、本当に死ぬかと思ったぜ」
ジャイルが椅子に深く座り込みながら言う。
「空から落ちるわ、魔力なくなるわ、世界が終わるかと思ったわ」
「ごめんってば」
「あれだけ仲間だって言ってんのに、結局一人で突っ走るしよ。反省してる顔じゃねーな?」
「してるよ?」
「嘘だな」
「キュウ……」
「おいコラ、やんのか!?」
「フィリップをいじめないの!」
「俺がいじめられてる!!」
その騒がしさに、ギルドの中から笑い声が広がる。
◇◇◇
こうして。
ティアラ一行は、再び旅に出た。
冒険者として。
世界に必要な場所へ、必要なだけの加護を与えながら。
肩には、相棒の白いドラゴン。
胸には、かつて失われ、そして取り戻した想い。
世界は、今日も不完全で、愚かで、優しい。
だからこそ。守る価値がある。
「行こう、フィリップ」
「キュウ!」
創造と破壊の神は、今はただの旅人として、
仲間たちと共に、歩いていく。
――祝福は、これからも続いていく。
完
















