52 願い
◇◇◇
フィリップの意志は、長い、長い間、暗い闇の中を彷徨っていた。女神アリステア。魂の片割れ。フィリップの対となる女神。
創造の裏には破壊があり、破壊の先に創造があるように、片時も離れられない存在。女神も、女神の生まれ変わりであるアリシアも、フィリップにとって、唯一無二。それこそ、世界の全てだった。それなのに、彼女は失われてしまった。
──フィリップの目の前で。
人の身体があれほど脆く、壊れるものだなんて、知らなかった。背中から射抜かれたたった一本の矢が、アリシアの命を奪ってしまったのだから。冷たくなっていく身体が、流れる血が、怖くて。必死に呼びかけたけれど、その身体が答えることは無かった。
ああ、この世界はなんて愚かで残酷なんだろう。
彼女はこの世界を救うただ一人の女神だったのに。世界を生み出し、恵みを与え、ただ、全てを愛していたのに。
人間は、彼女を殺してしまった。
ならばもう、この世界に神はいらない。全てを破壊して、無に返そう。そう思ったのに。
「フィリップ、お願い、この世界を守って……」
一緒に滅びることさえ、許してくれない。
「きっと、生まれ変わって、会いに行くから」
本当に?
女神は絶望によって消滅してしまうけれど、人になった魂は、何度でも転生できるのだろうか。待ってさえいれば、あなたと、また会えるのだろうか。
回復魔法は、自分には使えない。どうして、回復魔法が使えないんだろう。壊すことしかできない。
「おい!あの女の体を持って帰るぞ!」
「王子、なぜこのようなことを!連れ帰るお約束では!」
「馬鹿を言うな。連れ帰ってあいつの血が正統と認められれば俺達は王位を取れないんだぞ」
ああ。こんなに愚かでも、あなたはまだ人を愛するのか。
きっと、僕にはもう、この愚かな人間たちを愛することなんて、できない。
最後の約束を果たそう。
守ってあげる。僕から。
そして、あなたを誰にも触れさせない。
フィリップは「キュウッ」と一声鳴くと、アリシアの体を取り込み、みるみる水晶に変わった。
あなたが目覚めるときまで。守るから。
そしてフィリップは長い長い間、この世界の瘴気を浄化し、魔力を与えるだけの存在であり続けた。
けれど。
懐かしい、聖なる魔力。遠くで、とても遠くで、ようやく生まれた、僕の片割れ。
深く沈んでいた意識が、少しずつ浮上する。
いつの間にか、身体は漆黒に染まり、沢山の魔力を失っていた。
クリスタルの封印から抜け出すためには、もっと多くの魔力が必要なのに。
会いたい……
その思いが、フィリップの心臓を動かす。失われた魔力が、フィリップに還っていく。
会いたい……
◇◇◇
「大変です!クリスタルに亀裂が!」
「どういうことだ!?」
「くっ、魔力が……」
ティアラがアリステアに足を踏み入れたその日、フィリップは確かにティアラの魔力を感じていた。
















