50 辺境の街ドニ
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アリステア国内に入ったティアラたちは、早速街の調査を開始した。アリステア国の最南端。辺境に位置するドニの街は、これまでもたびたび他国との武力衝突が起こった場所。いわば防衛の要とも言える街だ。戦争に備えて強力な軍隊が配備されていてもおかしくない。メンバーの間にも緊張が走る。
だが、予想とは裏腹に、ドニの街は活気なく、閑散としていた。街の住人から話を聞けば、男手は全て首都に集められ、兵役に駆り出されているという。土地はやせ衰え、住民たちは明日食べるものにも困る有様。残された年寄りと女子どもだけが、少ない食料を分け合うようにしてひっそりと暮らしていた。
「これは……思っていたよりひどいな」
「ああ。各国を見て回ったが、アリステア王国に入ってから明らかに大地に力がない」
(大地に施した加護が、ほとんど消えかけてるせいだわ……)
ティアラは土地の状態を見て、国中の魔力が不足していることに気が付いた。大気中の魔力量も少なく、立っているだけで息苦しささえ感じる。
この世界は魔力を循環させることによって大地に恵みを与えている。そのため、魔力量が少なくなれば、土地が痩せ、天災が起こりやすくなるのだ。魔力の源たる神力を持つティアラとフィリップがいなくても、国中の土地を潤すぐらいの魔力は常に生まれ続ける。
実際に、ティアラの暮らすアリシア王国は常に魔力が満ち足りた状態であり、周辺領域もそれほど魔力の低下は見られなかった。そのため、海を渡った大陸の大半を統べるアリステアがこのような状態だとは思っても見なかったのだ。これでは国が荒れ、王族たちが追い詰められるのも無理はない。
(でも、どうしてアリステア王国だけ……この状態は明らかに異常だわ)
ティアラは持っていた魔石を埋め、大地に加護を施そうとする。しかし、魔石に込めた魔力は、加護を施す前にあっという間に失われてしまった。
(どういうことなの!?)
「ティアラ、どうした?」
「アデルお兄様。魔石を使って大地に加護を与えようとしたんだけど……魔石の魔力が消えてしまったの」
「魔力が消える!?それは、いったいどういうことだ」
「分からない。でも、このままじゃ加護を施すことができないわ。土地をよみがえらせることができない」
「そうか……念のためもう一度やってみてくれるか?」
「ええ。分かったわ」
同じように魔石を埋め込んでみると、やはり魔力が失われていった。まるで大地に吸い取られているかのように。そのとき、セバスの体がぐらりと傾いた。
「じいさん!大丈夫か!?」
「も、申し訳ござらん。どうもこの国に入ってから体が重たくて……」
「僕もさっきから体がだるくて。まるで魔力を無理やり奪われてる感じ」
ミハエルの訴えに一同は顔を見合わせる。
「よし、一回撤退しよう。じい、飛竜に乗れるか?」
「面目ない」
こうしてようやくアリステアに入国した一行は何もできないまま、一度撤退することになったのだった。
















