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41 ノイエ国王との密談

 ♢♢♢


 一方その頃。アデルたちは、ティアラ抜きでノイエ国王に謁見していた。極秘会談と言うことで、国王の傍には宰相のみが同席を許されている。


「そうか……エスドラドがすでにアリステア王国の手に落ちていたとはな……戦争は既に、始まっていたと言うことか」


 国王の重々しい言葉に対し、ジャイルがさらに言葉を重ねる。


「ああ。あの様子じゃ、周辺の弱小国も同じ状況かも知れないな」


 あまりにも呆気なく国を乗っ取られてしまったエスドラド。明らかに異常な事態であることは間違いない。第二、第三のエスドラドがあってもおかしくないと言うのは、パーティーメンバーたち共通の認識だった。


「エスドラドは元々アリステアの属国とはいえ、ろくに反抗もしないまま国を明け渡したと言うことでしょうか」


 考え込むような宰相の言葉に、ミハエルは首をふった。


「反抗しなかったんじゃない。出来なかったんだ。強力な魔物の異常発生によって国力が落ちたところに、ポーションの供給停止。さらには教会の横暴で回復魔法も使えない状況だった。……そのせいで、戦う余力が無い状況だったよ。元々あの国に正式な軍隊は無いしね。あるのは精々自警団ぐらいだ。唯一戦力になりそうな冒険者ギルドの連中は、連戦に次ぐ連戦で酷い状態だったよ」


「なんと。侵略前に魔物の異常発生とは!悪い運が重なったと言うことでしょうか」


 宰相は気の毒そうに肩を落としたが、アデルはずっと、ひとつのことが気になっていた。


「果たして、偶然だろうか……」


「と言うと?」


「確信は無いが、あまりにも出来すぎている気がする。魔物の異常発生が、偶然では無かったとしたら?」


 アデルの言葉に、その場の空気が凍った。


「アデル殿は、アリステア王国が魔物の異常発生に関わっている。そう言いたいのか」


 ノイエ国王の問いに息を呑む一同。アデルは静かに頷く。


「その可能性は高いと思っている」


「魔物の異常発生を引き起こすなど、一体どうやって……それに、アリステア王国も、魔物の被害に苦しめられているはずです。そもそも、そのために侵略戦争を仕掛けようとしてるのだから!」


 宰相の言葉にアデルは大きく頷く。


「ああ。俺たちの調査でも、そう言う報告が上がっている。アリステア王国では、異常気象による不作、さらに魔物の異常発生によって国力が落ちて疲弊していると」


 カミールの手の者による信頼できる筋からの情報だ。その事に、アデルも疑問はない。しかし……


「魔物を操れると言うなら、自らの国が苦しんでいる状況はおかしくありませんか?」


 なおも続く宰相の言葉に、アデルは口をつぐんだ。言い淀んだアデルに代わり、エリックが静かに口を開く。


「アリステア教会が、関わっているかも知れませんね」


「教会が……」


 思わず息を呑む国王。


「エリック!確信もないのに迂闊なことを言うなっ!」


 アデルは珍しく大声を出した。アデルが言葉を濁したのは、エリックの立場を思ってのことだった。


 アリステア王国の第二王子でありながら、アリステア教会の聖人としての立場も持つエリック。この場において、エリックの立場は酷く危うい。迂闊なことを言えば、アリステア、もしくは教会のスパイとして、捕らえられかねない。


「いや、いい。エリック殿のことは息子たちから聞いている。信頼に足る人物だと。何を聞いても、誓って、エリック殿をどうこうすることはない」


 思慮深いノイエ国王の言葉に、アデルは胸を撫で下ろす。


「……ご配慮に感謝致します」


「それに、ワシがどうこうしようものなら、アデル殿だけでなく、お前たちも黙ってはおらんだろう?」


 ノイエ国王が、息子二人に向ける目は意外なまでに優しい。


「はんっ、エリックは卑怯な小細工するような奴じゃねえからな」


「エリック様のことは、信頼していいと思いますよ」


 ここ近年は特にアリシア王国で過ごすことの多い二人だが、離れていても親子の絆は確かに深く結ばれているようだ。

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