36 ほんのちょっとの手助け
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瞬く間に集結したルート侯爵の私兵団は、一切隙のない隊列を組んで冒険者ギルドを速やかに包囲した。
煌びやかな鎧に身を包んだ歩兵の数、ざっと300。多くはないが、特徴的なローブに身を包んだ魔道士も数人確認できる。脅しをかけるだけにしては、明らかに過剰な戦力だった。
「おーお。あいつらこんな市街地で、戦争でも始める気か?」
「でしょうね。見せしめのために民衆の前で皆殺しにする気でしょう」
ジャイルの軽口にエリックが真顔で答える。
「こわっ!アリステアの貴族こわっ!」
「血の気の多さで言ったら、戦闘民族のノイエ国軍も負けてないでしょう」
ノイエ王国も、かつては軍事力にものを言わせ、領土を広げることに躍起になっていた国のひとつだ。
「あー、まぁなぁ。でも……俺もミハエルも何かを奪うための戦いに手を染める気はないぜ?戦うとしたら、大事なもんを守るためだ」
「ティアラの側にいれば、自然とそうなりますよね」
エリックの言葉にジャイルも肩を竦める。
「ああ。あいつが悲しむ顔は見たくねぇからな」
冒険者ギルドの屋根の上から、進行を続ける軍隊を冷ややかに見下ろす二人。
「それで?どうするエリック。お前のとこの貴族だけど」
「これほどの戦力差があるのですから、少しぐらい手助けしても構わないのでは?」
「だな」
バチバチと手に雷光を纏わせるエリック。
「それに、急な悪天候は良くあることです」
言うが早いか、雷鳴が轟く。エリックは、同胞であるはずのアリステア貴族を害することに、何の感傷も抱かない。ただただ民衆を武力で抑え付けようとする、その傲慢な姿勢に嫌悪感を覚えていた。
「国と、信仰……そろそろ私も、身の振り方を考える時期に来てますね……」
エリックの小さな呟きは、轟音にかき消されていった。
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命令に従い、粛々と進軍を続けていた私兵団の騎士たちは、急な雷鳴に天を仰いだ。
「な、なんだ、雨も降ってないのに、雷鳴が……」
突如軍隊の間を縫うように降り注ぐ雷光。
「ヒッ!た、隊長!ここは危険ですっ!」
重い金属の鎧を着ていては、満足に逃げることも叶わない。たちまち軍列に乱れが生じる。
「おーお、可哀想に。無数の雷がいきなり落ちてきたら、そりゃおっかないよなぁ」
混乱する騎士たちに畳み掛けるように、今度はジャイルが炎魔法を飛ばす。
「せいぜい踊れよ」
激しい落雷に加え、無数の火の玉が飛んでくるのを見て、完全にパニックになる騎士たち。
「ま、俺たちが手伝うのはこれくらいかな」
「そうですね。自分達の手で掴みとらなければ意味のないものですから」
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「おい、外が騒がしいみてえだが、本当に大丈夫なのか?」
ジムの言葉にアデルは軽く頷いた。エリックとジャイルの撹乱作戦が成功したようだ。圧倒的大人数を前に戦うには、手段を選んでいられない。
「そろそろ頃合いだな。ジム、アリステアの騎士どもに目にもの見せてやれ」
「はははっ、ずいぶん高く買ってくれてるんだな。ま、どうせ拾った命だ。ここで散ることになんの後悔もねぇよ。俺の後に続くやつはごまんといる。そうだろ?お前ら」
「おうっ!!!だが俺たちが無駄死にすると思ったら大間違いだぜっ!」
「一人でも多く道連れにしてやらぁ!」
覚悟を決めたジムと冒険者たちの姿にアデルはニヤリと微笑む。
「冒険者はこうでなくちゃな」
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