32 もふもふ協定
♢♢♢
「貴女は?」
「このギルドで受付をしているマリーと申します。獣人の皆さんを酷い目に合わせたのは全部アリステアの警備隊です。ディランさんたちじゃありません!」
ティアラが五人組に視線を送ると、若干涙眼でこくこくと頷いている。
「ディランさんたちも警備隊やギルドマスターに脅されながら、何とか獣人の皆さんが捕まらないように考えていたんだと思います」
きっぱりと言いきるマリーを見て、ティアラは小さく溜め息を付いた。
「そう。獣人誘拐犯は本当にあなたたちじゃないのね」
「「「はいっ!」」」
「でも、獣人の皆のこと獣って言ったことと、私のこと化け物女って呼んだことは絶対に許さないっ!」
「「「す、すんませんっしたっーーーー!!!」」」
♢♢♢
「それで?今はどういう状況だ?」
必死にティアラの機嫌を取ろうとする冒険者たちを呆れた目で見ながら、アデルはマリーに話を振る。
「それが……冒険者の皆さんが、このままアリステア王国から国を取り戻そうって話してて。アリステア王国の貴族と神殿の神官たちを追い出すって息巻いてるんです」
「アリステア王国の貴族は分かるとして、どうして神官まで?」
アデルの言葉に冒険者たちが口々に騒ぎだした。
「アイツら神官なんて名ばかりの金の亡者だっ!」
「俺たちから大金を巻き上げておいてろくな手当てもしてくれなかった!」
「回復魔法なんて使ってくれたことねぇよっ!」
冒険者たちの言葉にエリックは顔を曇らせる。
「エリック……」
心配そうにエリックの服の裾を掴むティアラに、エリックは力なく微笑んだ。
「国と、教会の腐敗は、一体どこまで進んでいるんでしょうね……」
呟いたエリックの言葉にティアラは返す言葉もない。
(昔からあの国は変わらないのね……)
「アリステア王国の貴族は、今この国にどれくらいいるんだ?」
「この国は元々アリステア王国の属国でしたが、今回ルート侯爵を名乗る貴族の領地になったとかで。ルート侯爵の一族が主要なギルドの要職に付いて、支配している状態です。冒険者ギルドのギルドマスターになったシャーリー男爵もその一人です」
「なるほどな……だが、追い出すといったって、具体的にどうするんだ?」
「全員叩きのめす!」
「全員地下牢獄送りにしてやります!」
冒険者たちの無謀な返事にアデルは頭を抱えた。
「お前たちだけでどうにかなる問題じゃないだろう。すぐにアリステア王国から援軍が来るぞ」
「じゃあ、このまま指を咥えてこの国が滅茶苦茶になるのを見てろって言うのかよっ!」
「俺たちはもうアリステアに支配されるのはうんざりなんだよ!」
アデルは冒険者たちの言葉を、腕を上げて止める。
「まぁ待て。俺に良い考えがある」
「良い考えって何ですか……」
不安そうにアデルを見つめるマリー。
「まずは、お前たちの中でこの国の代表者を決めろ。そして、独立国家を宣言するんだ。その後、アリシア王国と協定を結ぶ」
「アリシア王国と……」
「お前たちにも言っておく。今後この国の獣人は全てアリシア王国が保護することになった。アリシア王国の王太子妃であり、獣人たちの王であるアデイラが決めたことだ。そして、俺たちはそれに従う」
アデルの言葉に驚く冒険者たち。
「アデイラって……あの姐さんかっ!」
「あの人が獣人の王……」
「アリシア王国の王太子妃……」
「そうだ。獣人たちは、とりあえず森が回復するまでアリシア国内で保護することになった。だが、やがてこの国に戻りたいと願うものも出てくるだろう。それまでに、獣人と人間が対等の立場で共存できる国を作って欲しい。そのための協力は惜しまないつもりだ」
突然の提案にも関わらず、喜びの声が上がる。アリシア王国と言えばあのポーションの生産国。近年メキメキと頭角を表し、大国の一角を担っている。最後の楽園と呼ばれる美しい国……。
「それが本当なら願ってもない話だが、あんたたちは一体……」
「いや、俺は聞いたことあるぞ。アリシア王国の王族はなんでも皆、すごい魔法の使い手で、王子たちはSランク冒険者としても活躍してるって……」
「するってぇと……」
「俺はアリシア王国の王族だ。約束は守る」
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