28 森の王の帰還
♢♢♢
「おーい、昨日は悪かったな。こっちは変わりなかったか?って、凄いな……」
翌朝一連の後処理をなんとか終えたアデルは、アデイラと一緒に救出した獣人たちを連れて森に戻ってきた。
帰還した獣人たちと、手に手を取って喜び合う村人たち。
「あ、兄さぁぁぁ!し、心配しただぁぁぁ」
「ああ、お前たち!よう戻ってきた!怪我はねぇか?腹は減ってねぇか?」
「うう、えがった。えがったなぁ」
誰もがお互いの無事を喜び、声を掛け合う。
「アデルお兄様お帰りなさい。獣人の皆を助け出して来てくれたんだね。良かった!皆あんなに喜んで……お兄様、本当にありがとう。アデイラお姉ちゃんも、ここで逢えるなんて思わなかった。嬉しいなぁ」
ティアラが思わず涙ぐむと、アデルは軽く肩を竦める。
「ま、何だかんだあったが、取り敢えずこいつらが無事で良かった。こっちも大変だったみたいだな」
ひび割れた大地に焼けた木が散在していた湖の周りは、一面真っ白な花畑へと姿を変えていた。
「凄いわね。これ全部、例の瘴気を吸収する花でしょ?」
アデイラもその光景に驚きを隠せない。
「ふふ。皆で協力して植えたんだよ。そうだっ!アデルお兄様にひとつお願いがあるの」
「俺に?」
「実は、この湖や花畑を守るためのゴーレムを一体作って欲しいの」
「ゴーレムを……別にいいが、込めた魔力を使い果たしたら、土に戻るぞ?」
「うん。だから、ゴーレムにこれを使えないかなって思って……」
ティアラが取り出した魔石を見て、アデルは思わず表情を固くする。
「ティアラ!これは……」
「分かってるよ。悪用されたら大変なことになるって。でも、このままじゃ皆のことが心配で……」
そのとき、長老がアデルとアデイラの前に進み出てきた。
「村の者達から聞きました。お二人が地下監獄から危険を犯して助けて下さったと。なんと、なんとお礼を言っていいか」
「……ああ。無事皆が戻って良かったな」
「はい。はいっ……」
アデルの言葉にホロホロと涙を流す長老。そして、アデイラに向き直ると、おもむろに跪いた。
「王よ。森の王よ。我ら一同、ご帰還を、心よりお待ち申しておりました!」
♢♢♢
「つまり、姉さんの一族が、元々この国を治めてたのか?で、姉さんにこの国の王として戻ってきて欲しいと。そう言うわけだな?」
「そうみたいね」
事も無げに言ったアデイラに頭を抱えるアデル。二人の前には、村人たちがズラリと並び、頭を垂れている。
「しかし、ギルドマスターが、ここはすでにアリステア王国の支配下に置かれてると言ってたよな……どうなってるんだ?」
「この森は、代々森の守護者様が神獣フェンリルと共に治めて来ました。しかし、王とフェンリルが大賢者様と共に国を追われ、守護者不在の森となってしまったのです。森は少しずつ衰退し、すっかり形を変えてしまいました。残された我らでどうにか守ってきましたが、とうとうこんなことに……」
長老の話を黙って聞いていた獣人たちが悔しそうに涙を流すのを見て、ティアラは胸を痛めた。
(私のせいだったんだ……)
アリシアが追放されたあのとき、全ての獣人がアリシアに付いてこれたわけではない。残された獣人たちのために森に施した加護も、500年の月日と共に弱ってしまったのだろう。
(ここは、神獣の森だったのね……)
森の加護を失い、すっかり様変わりした様子に気付くことができなかった。
かつて戦乙女と言われた、ティアラの大切な友達。フェンリルが守る神獣の森は、獣人たちの楽園だった。
終わりが見えないほどどこまでも続く豊かな森。そこでは、様々な種類の獣人たちがそれぞれに村を作り、穏やかに暮らしていた。そして、森全体を、森の守護者たるアデイラの一族が治めていたのだ。
それなのに、フェンリルも、アデイラの一族も森を去り、アリシアを支えることを選んでくれた。
「でも困ったわね。私今、アリシア王国の王太子妃だから、私がこの国の王になったら困ったことにならない?」
アデイラの言葉に長老は目を見張った。
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