24 アデル、頑張る
♢♢♢
「アデイラ姉さん?」
「……ここよ」
アデルが急いで向かった先に、顔をしかめ、洞窟の奥を睨み付けるアデイラがいた。
「どうした?って、この匂いは……」
洞窟の奥は行き止まりとなっており、そこに置かれた壊れた魔道具からは、脳が痺れるような甘ったるい匂いが立ち込めている。
「身体を麻痺させる効果がある麻薬の一種ね。特に鼻の効く獣人には効果が抜群よ」
忌々しそうに吐き捨てるアデイラ。
「魔道具を破壊したらますます匂いが濃くなっちゃって。失敗したわ。臭くってこれ以上進めないのよ」
思いがけず足止めされてしまったらしい。
「ああ、これは俺でもちょっとキツいな。幸いこの上の壁は人の手が入った跡がある。地下の岩盤をぶち破るより、天井の脆いところに風穴を開けたほうが早そうだ。ゴーレムを使う。出来るだけ離れててくれ」
「わかったわ!」
アデルは巨大なゴーレムを生み出すと、岩盤の脆いところに穴を開けるように命令する。
ゴーレムが何度か拳を叩きつけ、天井にぽっかり穴を開けると、籠っていた匂いがいくぶんかましになった。
「ちょっと上の様子を見てくるわ!」
言うが早いか、アデイラが軽やかにゴーレムをかけ登っていく。穴からひょっこり顔を出したアデイラは、およそ監獄とは思えないほど、煌びやかな室内を見渡した。
「ここはちょうど塔の中みたいね。でも残念ながら窓が無いわ。何かの隠し部屋かしら……ちょっと待ってて!空気が逃げやすいように建物の壁にも穴を開けちゃうから」
いそいそとマジックバッグから愛用のモーニングスターを取り出すと、力一杯振り上げる。
「そぉーれぇーーーー!!!」
♢♢♢
上からドゴーン、ドガーンという軽快な音が響き始めると、アデルは思わず頭を抱えた。
「なっ、ちょっ……はぁぁぁぁ、マジか……」
アデルは溜め息を付くと、一気に地下洞窟内を駆け回り、捕らえられていた獣人たちを救出する。
「お前ら悪い!急いでこのポーションを飲んでくれ」
「う、うぐ……?」
重傷者には急いでポーションを飲ませ、身体が痺れて動けない獣人たちは、小型のゴーレムを使って次々に運び出して行く。
「よし!急げ!下手すると上の建物が崩れてくるぞ!」
上からは引っ切り無しに、ドガーンズガーンという破壊音と、ミシミシという嫌な倒壊音が聞こえてくる。
(全く、アデイラは加減を知らねーから困るんだよなぁ……)
カミールとアデイラ、アデルはSランクパーティーとして長年一緒に活躍してきた仲間だ。カミールと結婚して義姉になっても、その関係性は変わらない。派手な外見とは裏腹に、優しく強く、情に脆いアデイラ。アデイラの暴走を止めるはいつもカミールの役目だった。
(ま、そこが良いとこだけどな)
今頃カミールは、いつまでも帰ってこない妻を真っ青になって探しているだろう。いつまでたっても新婚気分の抜けない、ラブラブの二人なのだ。アデイラに何かあれば、カミールが黙っていない。
先程から魔力の使いすぎで少し目眩がする。想像以上に魔力の消費が激しい。しかし、ここで倒れるわけにはいかない。アデルは溜め息とともに小さく気合いを入れ直した。
♢♢♢
「よし、お前ら待たせたな!一緒に脱出するぞ!」
地下牢の入り口近くまで戻ったアデルは、先程助けた人たちに声を掛ける。
「あ、あの、さっきから変な音が聞こえてくるんですが……大丈夫なんでしょうか」
「あー、うん、ここまでは……多分?」
しかし、天井にビキビキと亀裂が入り始めたのを見て、アデルは顔色を変える。
「くっそっ!やっぱりもたねぇ!ちょっと待ってろ!」
いつも読んでいただき本当にありがとうございます(*^^*)
















