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19 ギルドマスターとの対決

 ♢♢♢


「ギルドマスターはいるか?」


 冒険者ギルドに入るなり声を張り上げたアデルに、ギルド内にいた冒険者たちの視線が一斉に集まる。しかし、すぐに目をそらし俯く冒険者たちの姿にアデルは違和感を覚えた。


(なんだここは。動けないような怪我人ばっかじゃねえか)


 身体のあちこちに包帯を巻いた冒険者たちは、誰も彼も疲れはて、精気に欠いた目をしている。


「あ、あのう。冒険者の方ですか?ギルドカードはお持ちでしょうか」


 バタバタとカウンターの奥から出てきた小柄な受付嬢が恐る恐る話し掛けてくると、アデルは黙ってカードを差し出した。


 大陸中でも数える程しかいないSランクのギルドカードを見て、受付嬢が顔色を変える。


「し、失礼致しました!す、すぐに応接室にご案内致します!そちらにギルドマスターを呼んで参りますので……」


「いや、ここで待つ。すぐに呼んできてくれ」


「で、でも……」


 受付嬢は拘束されている冒険者たちをチラチラと眺めている。


「悪いな。急いでるんだ」


「か、かしこまりました!」


(恐がらせちまったか……)


 アデルの言葉に怯えながらバタバタと走り去っていく受付嬢の後ろ姿をみて、アデルは小さく溜め息を漏らす。どんなにイライラしていたとしても、あの子には何の罪も無いのだ。恐がらせるつもりはなかった。


 しばらくすると、とてもギルドマスターとは思えないほどでっぷり肥え、やたら着飾った男がやってきた。


「お前がSランクとかいう冒険者か?で、このギルドに何の用だ?私は忙しいのだ。さっさと用件を言って貰おうか」


 男の傲慢な物言いに、アデルのこめかみがピクリと動く。


「……このギルドでは、Sランク冒険者に対する敬意が無いようだな?」


 アデルの言葉に真っ青になった受付嬢がギルドマスターを慌ててたしなめる。


「ギ、ギルドマスター!Sランク冒険者様はただの冒険者ではありません!ギルドとして最大限の敬意を払わなければ失礼……」


「うるさいっ!平民の分際でこの私に口答えするなっ!」


 いきなり受付嬢に腕を振り上げるギルドマスター。「ひっ」受付嬢が思わず目を瞑って顔を手のひらで覆うのと、アデルが素早くギルドマスターを拘束したのがほぼ同時だった。


「おいおい……お前今この子に何しようとした?」


 地を這うような低い声に周囲の空気が凍りつく。


「はぁ?離せっ!お前誰に向かってこんなことしているのか分かっているのか!私はアリステア王国の貴族だぞ!処刑するぞっ!」


「ほぉ……アリステア王国のお貴族様がなぜエスドラドのギルドにいるんだ?」


「ふんっ!この田舎者めがっ!ここは完全にアリステア王国の領土となったのだっ!もはやエスドラドなんていう国は存在しないっ!そして栄えあるアリステア王国の貴族として、この私、シャーリー男爵が直々にギルドマスターを勤めているのだっ!」


「ほぉ……」


「分かったら離さんかっ!この愚民がっ!」


 アデルはますますシャーリー男爵の腕をねじあげる。


「ギルドマスターというからには、冒険者としての実績があるんだろうな?解いてみろよ」


「ぐう……う、うるさいっ!お前たち!何をやってるんだっ!全員でこの男を捕らえろ!」


 アデルが離さないことに焦ったシャーリー男爵がわめき散らすと、遠巻きに見ていた男たちがへらりと笑った。


「ハハッ、冗談だろ?Sランク冒険者なんて、俺たちがどんなに束になっても勝てやしねーよ。それこそ国が滅ぶレベルだぞ」


 男たちの言葉にますます激昂するシャーリー男爵。


「うるさいっ!わ、私に手を出すのは、アリステア王国に刃向かうということだっ!そんなことも分からないのかっ!愚か者めっ!」


 ジタバタともがくシャーリー男爵を冷めた目で見つめるアデル。


「良いだろう。俺の質問にちゃんと答えたら拘束を解いてやる。コイツらを知っているか?」


 アデルがクイッと顎先で拘束された冒険者たちを指すと、シャーリー男爵がゴミを見るような目で嘲笑った。


「ああ、なんだ。クズどもじゃないか。おいっ!新しい獣人奴隷は捕まえたのか?奴隷を捕まえてくるまで戻るなと言ったはずだが?」


 シャーリー男爵の言葉に冒険者たちが殺気立つ。


「貴様っ!」


「ハハハっ!おい、私に逆らうと、前ギルドマスターがどうなるか分かってるんだろうな?お前らの家族や、恋人はっ!今も鼠の這う牢でカビの生えたパンを食ってるだろうなぁ……ハハハ……ほら、お前らからも言ってやれ!この私に逆らうとどういう目に合うのかをなっ!」


「ちくしょう!お前なんかギルドマスターじゃねぇ!俺たちのギルドマスターを返せっ!俺たちの家族が何したって言うんだっ!」


 怒りに震え口々に叫ぶ冒険者たちは、シャーリー男爵への憎悪を隠そうともしない。


「なるほどな。これがお前たちの事情ってやつか」


 アデルは今日何度目かになる溜め息を付いた。

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