表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

54/91

14 怒らせちゃだめな人

 ♢♢♢


 その日トムは知った。やはり人間は恐ろしい存在であるということを。そして、世の中には決して怒らせてはいけない存在があるということも。


 虹色の光の渦によって一気に空に舞い上がった冒険者達は、木の葉のようにクルクル宙に舞い、そのまま派手に落下した。死んではなさそうだが、気を失ってしまったのか、さっきからピクリとも動かない。


 湖の周りは大きな亀裂が入り、あちらこちらに巨大な岩が転がっていた。力自慢の獣人が何人かかってもとても動かせないような代物だ。


(な、な、なんだべあの虹色の光の渦はっ!?でっかい大男が五人もいたのにあんなに呆気なく……オーラかっ!?あれが兄さ達が言ってた、戦うオーラだべかっ!)


「あーあ、また派手にやったな」


 ジャイルが呆気なく気絶した男達を手際よく縛り上げる。


「ま、このくらいで済んだら御の字じゃない?」


 ミハエルは手早く冒険者達から武器や装備品を取り上げた。


「ふーん。こんなもんか。どれも安物だね。せいぜいCランクってとこかな。こいつらどうします?」


 ミハエルの言葉にアデルも思案顔だ。


「こんな屑ども生かしておく値打ちもないが、手に掛ける価値もないしな。身ぐるみ剥いでギルドに引き渡しておこう」


 そういいつつ、アデルが産み出した人間大のゴーレムが冒険者達をぐるりと取り囲む。トムはいきなり現れたゴーレムたちにまたもや目を見張った。


「土からっ!モンスターがっ!」


 慌てるトムにアデルは優しく笑いかける。


「ん?ああ、これは土魔法で作ったゴーレムだ。俺の言うことにしか従わない。危険な魔物じゃないから安心していいぞ」


「ま、魔法……じゃ、じゃあさっきのティアラさんのも魔法だべか……魔法ってなんでもできるんだな。すげぇもんだな……」


 キラキラした目で納得した!と言わんばかりのトムだったが、アデルは思わず苦笑してしまう。


「ん?んー、あれな。正確に言うとあれは魔法とはちょっと違う。あれはただの魔力放出だ。威嚇みたいなもんか?」


 そう、ただの魔力放出。しかし、それだけでここまでの威力だとは。正直勇者と呼ばれるレベルではないだろうか。Sランク冒険者である自分でさえ、精々後ろに下がらせる程度だ。地割れを起こし、岩や人が舞い上がるようなことにはならない。


「ただの威嚇でこんなことに……」


(絶対怒らしちゃ駄目な人だべーーーー!)


 この世のものとは思えないほど美しい少女、まさに女神!?と思っていたら中身はとんだ魔王だった!しかも、


「お兄様待って。まだお仕置きは終わってないから」


 凄みのある笑顔で言い切るティアラを見てますます震え上がった。


「姫様、お説教はほどほどにのう……」


 のんきなセバスの声にティアラは苦笑いを漏らす。


「わかってるって。そんなに待たせないから」


(み、みんな倒れてるのにこのうえ何を……トドメ!?トドメを刺すだか!?)


 そのとき男達がわずかに呻き声をあげ、意識を取り戻した。「あ、俺たちなんで……」「い、生きてるっ!?」トムはとっさに冒険者達の前に立ち塞がる。


「ま、ま、ま、待ってほしいだっ!こ、殺さないでやってけろ!」


「トム。そこをどいて」


 その笑顔が怖い。


「こ、こいつら確かに悪人だが、い、命だけは助けてやってけろ!」


 トムの必死の嘆願に、状況を理解した冒険者たちも慌てて地面に頭を擦り付けて懇願する。


「す、すみませんでした!ゆ、許してくださいっ!」


「お、お願いします!金でもなんでも払います!い、命だけは見逃してくださいっ!」


 泣きながら口々に命乞いする冒険者達を、虫けらを見るような冷たい目で見つめるティアラ。


「駄目よ。許さないわ。私は獣人が大好きなの。もふもふの敵は私の敵よ」


「そ、そんなっ……」


 絶望にうちひしがれる冒険者達の前でトムも必死に嘆願する。


「お、おねげぇしますだ……おらに、おらに免じて!こ、今回だけ……」


 ティアラ以外のメンバーは、ティアラとトム、冒険者達のやり取りをただじっと見守っている。


「トム。どうしてそいつらを庇うの?ひどい目にあったのは、あなたでしょう?こいつらが憎くはないの?仕返ししたいと思わない?」


 ティアラの静かな声にトムは歯を食い縛る。


「憎いだっ!憎くて憎くてしかたねーだっ!でも、でも……」


 ポロポロと涙を流すトムをみて、冒険者達も息をのむ。


「お、お前、俺たちのために……ご、ごめん、ごめんなぁ。ほんとは、ほんとは助けて貰って感謝してたんだ……で、でも、上のもんには逆らえなくて」


「う、うう、ごめんなぁ」


 一緒になってわぁわぁ泣き崩れるトムと冒険者達をみてティアラもため息を付く。


「……アデルお兄様、あとはお願いできる?」


 アデルはティアラに近づくと頭をくしゃっと撫でた。


「ああ。まかせとけ。おいお前ら。お前らはこのままギルドに引き渡す。何があったか、きっちり喋ってもらうからな」


 冒険者達はアデルとゴーレムに連れられ素直に立ち去っていった。


「ばーか」


 ジャイルがツカツカとティアラに近付くと、顔をしかめるティアラの額に素早くでこぴんをする。


「痛っ!ちょっとジャイル!馬鹿ってなによっ!」


「おめーに悪役なんて似合わねーよ」


 その言葉を聞いて地面にうずくまっていたトムはハッと顔をあげた。


「……うるさい」


「はいはい。じゃあ、アデル様が帰ってくるまで、一緒に後片付けしよっか」


「……みんなにも……迷惑掛けてごめんなさい……地面、割れちゃった。みんな怪我、しなかった?」


 ミハエルの優しい言葉にしょんぼりするティアラ。


「トムも、怖がらせてごめんね」


 優しく微笑むティアラにトムは思わず飛び付いた。


「ティ、ティアラ様ぁぁぁぁ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋する辺境伯シリーズ
落ちぶれて捨てられた侯爵令嬢は辺境伯に求愛される~今からは俺の溺愛ターンだから覚悟して~
俺の婚約者が可愛くない
話題の新作
亡くなった夫の不義の子だと言われた子どもを引き取ったら亡くなった婚約者の子どもでした~この子は私が育てます。私は貴方を愛してるわ~
悪役令嬢リリスの華麗な転身~婚約破棄ですね。わたくしは別に構いませんけど、王になるのはわたくしです~
無実の罪で投獄され殺された公爵令嬢は私です。今から復讐するから覚悟してくださいね。
しましまにゃんこさん累計ポイントランキング
総合評価:29,248 pt
ジャンル:異世界 〔恋愛〕
短編(全1話) 9,089文字
あらすじ等
わがまま姫と評判の公爵令嬢が選んだ結婚相手は貧乏伯爵家の三男坊!? 激高する王子に突きつけた婚約破棄の真相とはっ!? 婚約破棄からはじまる正統派ラブストーリー! 作品はすべて、カクヨム、アルファポリス、エブリスタ、ノベルアップ+さんでも掲載中、または掲載予定です。
キーワード: 身分差 ヒストリカル ラブコメ 貴族 騎士 わがまま令嬢 溺愛 ハッピーエンド 婚約破棄 ざまあ キルタイム異世界大賞 貴族学園 アイリスIF3大賞
投稿日:2021年4月12日
最終更新日:2021年4月12日
総合評価:26,324 pt
ジャンル:異世界 〔恋愛〕
短編(全1話) 1,683文字
あらすじ等
冤罪で王子から婚約破棄され、屈強な男でも三日と持たないと言われるほど過酷な炭鉱送りになった悪役令嬢のリリアナ。 ───三ヶ月後、彼女は最愛の父に近況を書いた手紙をしたためる。その驚きの中身とは? チートな爆炎魔法を使える悪役令嬢が、過酷な環境もなんのその、ちゃっかり幸せを掴むお話です。手紙形式になっています。 シリーズ化しました! 「リリアナちゃんとゆかいな仲間たち」 作品はすべて、カクヨム、アルファポリス、エブリスタ、ノベルアップ+さんでも掲載中、または掲載予定です。
キーワード: 異類婚姻譚 身分差 ヒストリカル 悪役令嬢 日常 ラブコメ 女主人公 溺愛 獣人 ハッピーエンド 婚約破棄 追放 ほのぼの キルタイム異世界大賞 リリアナちゃん アイリスIF3大賞
投稿日:2022年5月2日
最終更新日:2022年5月2日
総合評価:14,060 pt
ジャンル:異世界 〔恋愛〕
短編(全1話) 2,631文字
あらすじ等
貴族学園の入学を祝うパーティーの席で、いきなり婚約者である第三王子に突き付けられた婚約破棄! 「お前のような野暮ったい女と結婚するくらいなら、生涯独身のほうがまだマシだっ!」 「承知しましたわ。今日からは、自由の身です!」 学園生活が始まる前に婚約破棄されちゃった公爵令嬢が、したたかにミラクルチェンジしてハートをズッキュンするお話です。 作品はすべて、カクヨム、アルファポリス、エブリスタ、ノベルアップ+さんでも掲載中、または掲載予定です。
キーワード: ヒストリカル スクールラブ ラブコメ 婚約破棄 地味令嬢 華麗に変身 美少女 ほのぼの ハッピーエンド 学園 ギャップ萌え 女主人公 ネトコン11感想 異世界恋愛 【短編】
投稿日:2022年4月4日
最終更新日:2022年4月4日
総合評価:13,832 pt
ジャンル:異世界 〔恋愛〕
短編(全1話) 4,632文字
あらすじ等
ダイナー公爵令嬢シルフィーは、聖女ユリアナを殺そうとしたという無実の罪を着せられ、投獄の上一族そろって処刑されてしまう。死の間際、シルフィーは自分と家族を殺した者たちに復讐を誓い、もし生まれ変われるなら、復讐を果たす力が欲しいと神に願う。 だがシルフィーは、虐げられる薄汚い孤児として転生していた。前世の記憶を取り戻し、力のない現状を嘆くシルフィー。しかし、そのとき彼女の胸に、聖女の紋章が浮かび上がる。 「ふふ、あはははははは!」 力を得た彼女の復讐が、今ここに幕を開けるのだった。 作品はすべて、カクヨム、アルファポリス、エブリスタ、ノベルアップ+さんでも掲載中、または掲載予定です。 ...
キーワード: 身分差 悲恋 ヒストリカル 悪役令嬢 ネトコン11感想 冤罪/処刑 聖女/復讐 婚約破棄 ざまぁ ハッピーエンド
投稿日:2023年7月22日
最終更新日:2023年7月22日
総合評価:13,712 pt
ジャンル:異世界 〔恋愛〕
完結済(全8話) 10,193文字
あらすじ等
賑やかなパーティー会場から離れ、一人バルコニーに佇むエリーゼ。 公爵令嬢である彼女は、今日も浮気な婚約者に悩まされていた。 エリーゼに見せつけるように、他の令嬢と戯れるアルバート。 本来勝気なエリーゼは、自分よりも身分の低い婚約者に対して黙っているようなタイプではなかった。しかし、エリーゼは不実な態度を取り続ける婚約者に対して強気な態度をとれないでいた。 なぜなら、うっかり聞いてしまった友人たちとの本音トークに、自分自身の足りなさを知ってしまったから。 胸元にそっと手を置き嘆くエリーゼ。 「いいわね、見せつけるものがある人は……」 女の価値は胸の大きさにあると豪語する婚約者の言葉に、すっか...
キーワード: 貴族令嬢 婚約破棄 浮気 コンプレックス 溺愛 ざまぁ ハッピーエンド イケメン王子 女主人公 真実の愛 ネトコン11感想 貴族学園
投稿日:2022年10月20日
最終更新日:2022年10月20日
おすすめの新作
無実の罪で投獄され殺された公爵令嬢は私です。今から復讐するから覚悟してくださいね。
公爵閣下!私の愛人になって下さい!〜没落令嬢の期間限定恋人契約〜
公爵閣下の溺愛花嫁~好色な王の側室になりたくないので国で一番強い公爵閣下に求婚したら、秒で溺愛生活がスタートしました~
王太子殿下に優しくしてたら公爵令嬢と婚約破棄をすると言い出したのでちょっと待ってほしい
初夜に「別にあなたに愛されたいなんて思っていない」と告げたところ、夫が豹変して怖い
裏切られ捨てられた竜騎士は天使な美少女に恋をする〜ねぇ、これって運命の恋だと思わない?〜
意地悪な大聖女の姉と美しいだけで役立たずの妹~本物の聖女は隣国で王太子殿下に溺愛されているというのは内緒~
ヘッダ
新着順① 総合評価②順 エッセイ③ 詩④ 異世界⑤ 貴族学園⑥ リリアナちゃん⑦ つよつよ短編⑧
フッダ


ヘッダ
わがまま

わがままはお好き?
― 新着の感想 ―
[良い点] >中身はとんだ魔王だった! めっちゃ笑いましたー! そしてティアラちゃんの悪役演技と、そのあとのフォローにホンワカ……(*´ω`*)♡ トム君の憎しみや恨む心、変な方向に暴走する不安は…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ