10 セバスの特技
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ティアラとエリックが協力して浄化作業を行う間、アデル、ジャイル、ミハエルの三人は近隣の調査に出掛けることにした。一方、残ったセバスはテキパキと野営の準備に取り掛かる。
「さてと。姫様を元気づけるためにも腕をふるいますかなっ!」
毒の湖からある程度開けた場所にテントを張ると、マジックバックから新鮮な水と食料を取り出す。出発前市場で充分に準備しておいたにも関わらず、城中の食料をこれでもかと持たされたお陰で、水も食料もたっぷりある。なんなら料理長が腕によりをかけて作ったスイーツまである。旅の最中の楽しみにとこっそり頼んでおいたのだ。
この先現地調達は難しいかもしれないので、食料の不安が全く無いのは本当に心強い。全くマジックバッグ様々である。それぞれの皿に野菜や果物を盛り付けると、手早く火を起こし、豪快に肉を焼き始めた。
セバスの作る料理は一見豪快でありながら、素材の味を生かした繊細な味付けが特徴だ。これまでの冒険先で振る舞われた数々の料理で、すでにティアラ達の胃袋は鷲掴みにされている。
今回の旅でも、料理担当はあっさりセバスに一任された。「わしが付いておる限り、姫様達にひもじい思いなどさせませんぞ!」セバスの自信たっぷりの頼もしい言葉に、王と王妃が満面の笑みを浮かべたのは言うまでもない。
育ち盛りの子ども達にお腹いっぱい美味しいものを食べさせる。それこそがセバスの楽しみのひとつでもあるのだ。
小さく煙が立ち上ぼると、辺り一面に肉の焼ける香ばしい匂いが広がる。
「おいしそう……」
匂いに釣られてしまったのか。背後からポツリと聞こえた小さな声に、セバスはにんまり微笑んだ。
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「お、おいしい!こんなの初めて食べた!」
興奮を物語るように、ふさふさとした尻尾がブンブンと揺れ、頭の上にピンと立った耳がピコピコとせわしなく動く。
「そうかそうか。よし、これはどうじゃ。こっちもうまいぞ」
「全部おいしい!」
ティアラとエリックが浄化作業を終えて戻ってくると、そこにはいい笑顔でいそいそと子どもに料理を振る舞うセバスの姿が。
「か、かわいい!」
「……獣人の子ども?どうやってここに……」
思わず目をキラキラと輝かせたティアラだが、エリックは戸惑いを隠せない。ぼろきれのような服は辛うじて体に纏わり付いているが、体は傷だらけ。よほどお腹が空いているのだろう。痩せた頬が痛々しい。
しかし、必死に肉にかぶり付いていた子どもは、突然現れたエリックとティアラの姿を見て、あたふたと慌て出した。ご機嫌に揺れていた尻尾が緊張でぶわっと広がる。
「はうっ!あわわわ!新たな敵がっ!」
肉を片手にオロオロとする子ども。そこにアデル達も戻ってきたからさあ大変。
「ティアラ、そいつは?」
「君は……犬の獣人かな?」
「可愛いな……」
でかい男達に囲まれてすっかり涙目になってしまう。
「は、はわわわわ……肉に釣られたばかりにこんなことに……」
一生の不覚!とばかりに頭を垂れる子ども。観念したのか、尻尾もすっかり股の間に挟まっている。一方セバスはのんきなものだ。
「おや皆様早かったですな。ちょうど良かった。この坊主にクリーンとヒールをかけてやってくれませんか。ずいぶんくたびれてるようで」
「まかせて」
言うが早いか、子どもの体が虹色の光に包まれる。
「な、なにす……え、え!?」
突然光に包まれたと思ったら、傷がすっかり癒えてしまった。その上薄汚れてしまった体も服も洗い立てのようにさっぱりしている。
「あ、あなた達は一体……」
















