5 アリステアへ!
◇◇◇
「この世界が滅びるって……」
「なんでそんな大げさな話になるんだ?確かにドラゴンの力はとてつもないものかもしれないが、大地に実りを与えるようないいドラゴンなんだろう?」
ミハエルとジャイルの言葉にティアラは深く頷く。
「フィリップはもともと神獣だから、強大な魔力を持っているの。本来ならそれは、瘴気を浄化し、大地に力を注いで人々のために役立つ力だわ。でも、私の知るフィリップは、白金の翼に琥珀色の瞳を持つドラゴンだった。神獣はね、色に特徴があるのよ。……もしフィリップの姿が漆黒に変わってしまったのなら……瘴気を取り込みすぎて闇にのまれているのかもしれない」
「ドラゴンが闇にのまれる?それって、魔物になってるってことか?」
ティアラはジャイルの目を見て小さく頷いた。
「可能性は……ないとは言えない。だって、500年もの間たった一匹でこの世界を護り続けていたんだもの。すべての神力を使い果たして魔物になっているのなら、それはこの世界にとって一番の脅威となりうる存在だわ。そのまま解き放ったとしたらこの世界がどうなるかわからない……」
「別のドラゴンという可能性はないのですか?」
エリックの声にティアラは小さく頭を振る。
「この世界に存在したドラゴンはみんな、フィリップの生み出した眷属なの。クリスタルに閉じ込められたドラゴンがフィリップが生み出したドラゴンだったとしても、漆黒のドラゴンが生み出されたのなら放っておけないわ。……フィリップの魂が闇に堕ちてしまったのなら、私が助けなきゃ。私にしかできないの」
「お前にはなんとかできるっていうのかよ」
「してみせる」
ティアラの言葉に迷いはなかった。
「ねえ、それって危なくないの?」
ミハエルが心配そうにティアラの手を取る。
「もし、ティアラの身に危険があるのなら、僕は賛成できない。みんなも同意見だと思う。そうだろう?」
ミハエルの言葉にエリックとセバスが深く頷く。
「ティアラ……無茶をしようとしているのではありませんか?」
「姫様……姫様の身に何かあれば、皆様悲しまれますぞ」
「でもっ!私じゃなきゃダメなのよ!私にしかフィリップは救えないの!」
思わず叫んだティアラの手をジャイルが掴む。
「わかった。だったら俺も連れていけ。お前ひとりじゃ行かせられない」
「ジャイル!?何言って……」
「僕もついていくよ」
「ミハエルまで……」
ジャイルとミハエルの真剣な表情にティアラは言葉を失う。
「それに、アリステア王国のドラゴンをどうにかすることができたら、この戦争自体を回避できるかもしれないだろ?」
「僕もそう思う。これは、僕たちの国のためにもなるんだ」
二人の言葉にティアラは何も言えなくなる。
「わたしもお連れ下さい。きっとお役に立ちますから」
「よもや爺を置いてはいきませぬな?」
誰もがみな難しい立場にいる。このままではいずれ、国と国を掛けた戦いになるだろう。時は一刻を争う。このまま手をこまねいているわけにはいかない。できればみんなを巻き込みたくない。でも……
ティアラの心中を見抜いたようにジャイルが不敵に笑って見せる。
「俺たちは同じパーティーの仲間だろう?それに、戦が始まる今ならまだ、俺たちも自由に動ける。行くなら今しかない」
「僕たちのことは心配しないでいいよ」
「あなたに出会ったその日に、私の信仰はティアラ、あなたに捧げています」
「姫様。わしは絶対についていきますからな!」
力強く宣言するパーティーの仲間たちにティアラは深く頭を下げる。
「みんな、私のこと信じてくれてありがとう。一緒に戦ってくれる?」
「ああ」
「もちろん」
もしフィリップが闇に飲まれているなら、そのときは……ティアラは静かな決意を胸に前を向く。
「行こうみんな。アリステアに!」
















