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12 双子のジレンマ

 

 ◇◇◇


「なぁ!最近ティアラとエリックばっか一緒にいると思わないかっ!?」


「僕もそう思う!エリック様はぼんやりしてるようで油断がならないよ!ああいう聖人ぶった人ほど変態が多いって言うし……」


「だよな!?俺達だってティアラと一緒にいたいのにずりーよな?」


「このままだと純粋なティアラがエリック様の魔の手に……」


 冒険者の森が立ち入り禁止措置になっている間、ジャイルとミハエルは騎士団の連習場で共に稽古に励んでいた。双子とは言え、ジャイルとミハエルは戦闘スタイルがまるっきり異なる。ジャイルが剣や体技を用いた戦闘スタイルを好むのに対し、ミハエルは自作の魔道具を巧みに用いた遠距離攻撃が得意だ。


 炎属性と風属性の二人はパートナーとして非常に相性が良く、二人の息のあった連携プレーは高ランクの魔物討伐に欠かせない。そのため、暇さえあればこうして二人揃って訓練に精を出していた。


 エリックに対して嫉妬を隠そうとしない二人だが、お互いもまたライバル同士でもある。隙あらば抜け駆けしようとするのをお互いが牽制しているため、いつもエリックに出遅れてしまうのだ。共通の敵としてエリックを掲げつつも、相棒に譲る気はさらさらない二人だった。


「なぁ、俺達ちょっと休戦しねぇ?」


「そうだね。このままだとエリック様に出遅れちゃうよ」


「んじゃ、取りあえずは打倒エリックなっ!その後俺達二人、どっちが選ばれても恨みっこなしでいこうぜ?」


「いいよ。ただし、ジャイルには負けないからね!」


 こうしてジャイルとミハエルの間に、打倒エリックのための休戦協定が結ばれた。


 ◇◇◇


「ティアラ!ほらこれ、前ティアラがみたいっていってた花」


「わ、ありがとうジャイル!ノイエ王国にしか咲いてない花なんでしょう!?すごい、いい香り……」


「枯らさないように、鉢植えで運んで貰ったんだ。自分の魔力を与えることで枯れることなく咲き続けるんだぜ」


「素敵ね!これはもしかしてジャイルの魔力を与えてくれたの?綺麗な赤……ジャイルの炎の色だね」


「まあな!ティアラの魔力を与えると色が変わると思うぜ」


「ありがとうジャイル、大切にするね」


「お、おう……」


 ティアラがジャイルににっこり微笑むと、ジャイルは少し眩しそうに目を細める。まだ10歳。だけど、ジャイルにとっては二年前初めて出会ったときから変わらず一番魅力的な女の子。誰にも譲りたくない特別な女の子だ。


「私も何かお礼がしたいな!ジャイル、何か欲しいものとかないかな?」


「俺が欲しいものは、二年前からずっと変わってねーよ」


「そうなの?何なに?私があげられるものかな?」


「お前からしか貰わねえ」


「何だろ?」


「そのうち、な。今はまだ、これでいいや」


 ジャイルはティアラの手を取ると軽くキスを贈る。


「ひゃっ……じゃ、ジャイル!?」


「なんだよ?ティアラだって姫なんだから手にキスされる事ぐらいあるだろ?」


「そ、そんなにないよ!」


「そうなのか?」


「そ、そうだよ!」


「ふーん」


 ジャイルは少し悪そうに笑うと、今度はティアラの髪を一房とり、そっと口付ける。


「ま、また!」


「なんだよ?髪くらいいいだろ?」


「う、うー!そんなの!他の人にされたことないもんっ!」


「へぇ?じゃあ、俺が初めて?」


「な、なんかジャイル今日変じゃない?急にどうしたの!?」


「俺は別に変じゃねーよ。お前がお子ちゃまなだけだ」


「も、もうっ!しょうがないでしょ!」


「早く、大きくなれよ。でも、もっとずっとこうして一緒にいたい……」


 いきなりぎゅっと抱きしめられ、思わず息を飲むティアラ。腕の中で真っ赤になるティアラを見てジャイルは思わずぷっと噴き出した。


「なんつー顔してんだよ。その花みたいに真っ赤だぞ?」


「か、からかわないでよ!」


「からかってねーよ。俺はお前が好きだ。お前が大人になるまで待ってる。俺もいまよりもっといい男になるから、ちゃんと覚えとけよ?」


「じゃ、ジャイル……」


「エリックには負けてらんねーからな。と、いけない。うるさいのが来たみたいだな」


 遠くからやってくるアンナの姿を見て、抱き締めた体をそっと離す。


「じゃあな」


「あ、ありがと、花、大事にするね」


 ヒラヒラと手を振るジャイルを真っ赤になって見送るティアラ。


「姫様?ジャイル様とご一緒でしたか?まぁ、これはもしやノイエ王国の幻の花では?」


「あ、ええ、ジャイルが贈ってくれたの」


「まぁ……確か王宮でのみ栽培されている特別な花で、王族しか手にすることが出来ないと聞いてますわ。そのような特別な花を姫様に……」


「そ、そうなの?ノイエ王国にしかない珍しい花があるって聞いて、私見てみたいって言ったの。そうしたら今日これを頂いて……」


「そうですか。心のこもった贈り物、大切になさってくださいね」


「うん。大事にするよ」


 ルビーのように、煌めく赤い花びらはジャイルの瞳の色にも似ている。花を見つめつつ思わず赤くなるティアラをアンナは不思議そうに眺めていた。



♢♢♢


四月咲香月様に素敵なFAをいただきました♪


挿絵(By みてみん)


キャラデザイン:四月咲香月さま


さらに!ウバ クロネ様よりジャイルの素敵なFAをいただきました!


挿絵(By みてみん)



いつも読んでいただきありがとうございます♪

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