9 大魔王様の憂鬱
◇◇◇
「おい、お前らすげー噂になってるぞ」
一仕事終えたティアラとエリックが仲良く昼食を取っていると、ジャイルとミハエルがなんとも言えない複雑な表情で近づいてきた。
「あ、ジャイル、ミハエル、待たせちゃってごめんねっ!もうお昼ご飯食べた?座って座って!ところで噂って?」
ジャイルとミハエルはテーブルにつくと、のんきに食事をしている二人をみてため息を付く。
「お前ら他の冒険者達から『殺戮大魔王と破壊の天使』ってすげぇ二つ名で呼ばれてるぞ?」
「は?はぁ!?」
ティアラが飲んでいたジュースを吹き出し思わず声を上げて立ち上がると、周りの冒険者達がビクリと肩を震わせる。ティアラは周りをきょろきょろと見回し、その明らかに怯えた態度に呆然とした。
「え?え?なんで?私たち何も悪いことしてないよ?」
「いや、森を完膚無きまでに破壊したよな?」
「え、まぁ、そうね?」
「ティアラとエリックがいた一帯は凄惨な状況だったからね。たおされた魔物の数も類を見ないほど多かったし。しかも変に状態がいいから、一体どうやって狩ったのか噂が噂を呼んでるみたいだよ」
エリックをみるとへにょんと眉根を下げ、申し訳無さそうな顔をしている。
「いやいや、でもね、あれは仕方ないことだったの。なんといっても大量の魔物が産み出されるところに遭遇しちゃったんだからっ!」
「それは本当か?」
「あ、アデルお兄様!」
ティアラとエリックに代わってギルドと素材の買い取りなどについて相談を終えたアデルもやってきた。
「魔物が産まれる瞬間に遭遇したのか?」
「うん。たまたまだけどね。大量の魔物に一斉に囲まれて、逃げられない状況だったの。何匹いるか分からないくらいの数だったし、私は攻撃魔法があまり得意じゃないからエリックが戦って守ってくれたんだよ?」
「エリックが……ありがとう。妹を守ってくれたこと、心から感謝する!」
アデルにがしっと手を握られてエリックは小さく微笑んだ。
「いえ、お役に立てて光栄です。しかし、森を破壊してしまったこと、申し訳無く思います」
エリックの言葉にアデルは首を振る。
「いや、魔物が一度に大量発生した場合モンスターパレードが起こる可能性が高かった。そうなれば王都がどれほどの被害を受けたか分からない。いい判断だった」
「恐れ入ります。正しい状況判断ができたのは、全てティアラのおかげです」
「そうか。ティアラもえらかったな!よく頑張った!」
アデルはティアラの頭をよしよしとなでる。10歳になっても安定の小さい子扱いである。
「しかし、魔物の大量発生か。魔物が発生する仕組みはまだ良く分かっていない。大量発生から間もないこのタイミングならなにかつかめるかもしれないな。二人とも、この後の調査に協力してくれるか?」
「はい」
「もちろん!」
アデルは二人の返事に満足そうに頷く。
「ジャイルとミハエルも頼めるか?なるべく広範囲を調査したいから腕の立つ冒険者が欲しい」
「ああ、任せといてくれよ!」
「僕の開発した魔道具が役立つかもしれません」
「そうか。そいつは頼もしいな!」
「はぁ、それにしてもこれから変なあだなで呼ばれるのかなぁ。イヤだなぁ」
憂鬱そうに顔をしかめるティアラと困ったように眉を下げるエリックを見てアデルが首をかしげる。
「どうしたんだ?」
ジャイルやミハエルから詳しい話を聞いて、アデルは思わず大声で笑い出した。
「ぶはっ!『殺戮大魔王と破壊の天使』とは、大層な二つ名だなっ!」
「もう!笑い事じゃないんだからっ!」
プンプンするティアラを涙目でよしよししながらも、アデルはなかなか笑いが止まらない。
「いや、悪い。でもまぁ、いいじゃないか。二つ名が付くってことは名の知れた冒険者の証みたいなもんだぞ?」
「こんなんで有名になりたくなーいっ!」
「まあまあ」
「そういう師匠はどんな二つ名なんだ?Sランク冒険者なら当然あるんだろ?」
二人のやり取りを見守っていたジャイルがふと疑問を口にする。
「そうよね。アデルお兄様の二つ名はなんなの?」
「僕も知りたいです!」
ティアラとミハエルが興味津々で尋ねるとアデルはすっと笑いをおさめ、そーっと目をそらした。
「えーと、俺のは別に面白くないって」
なぜか話したがらないアデルにティアラ、ジャイル、ミハエルの三人から大ブーイングが起こる。
「知りたい知りたい知りたい!」
「教えてくれたっていいじゃねーか!けちっ!」
「どんな二つ名があるか参考までに知りたいですっ!」
「私は聞いたことがありますよ?」
お茶を飲みながらさらりというエリック。アデルが慌ててエリックに口止めしようとするがもう遅い。
「エリックが知ってるぐらいだから有名なんでしょ?みんな知ってるのに私には教えてくれないの?」
ティアラからうるうるした目で見つめられ、アデルは遂に覚悟を決めた。
「暁の戦鬼とか、煌の勇者とか」
アデルがボソッと呟くとジャイルとミハエルが目を輝かせる。
「ふおおおおお!かっこいい!」
「勇者!勇者なんですかっ!」
どうも男子二人には非常にかっこ良く感じられたらしく、キラキラとした尊敬の眼差しを向けられている。
一方ティアラと言えば、ほっぺが膨らみっぱなしだ。
「ずるい……」
「ティアラ?」
「アデルお兄様はちゃんとした二つ名なのに、私のはかわいくないっ!」
「あー、でもほら、カミールなんかもっと凄いしな?『氷華の貴公子』とか『冷徹の王子』とか呼ばれてるぞ?ティアラも天使って可愛いじゃないか」
「破壊のって入ってるもん!」
ワイワイ言い合いを続けるティアラたちにエリックはボソリと呟いた。
「まぁ、私は『殺戮大魔王』ですけどね。仮にも神職であるのに大魔王。今にも世界を滅ぼしてしまいそうですね?ふふっ」
意外と一番気にしているエリックなのであった。
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