8 殺戮大魔王と破壊の天使爆誕!
◇◇◇
ざわりと気持ちの悪い空気が肌を刺す。この感覚は前世出逢った懐かしいもの。そして、現世では初めて感じる感覚だ。
「エリック……」
ティアラは身構えたままエリックに小さくつぶやくと、エリックもまた戦闘体制に入る。
「はい。囲まれていますね」
どこからともなく満ちる瘴気の渦。それは、魔物が産まれる前触れ。今まさに森に満ち溢れた瘴気から魔物たちが誕生の瞬間を迎えていた。目には見えないものの、徐々に周囲の空気が重くなり、息苦しさを感じてくる。
「10、20、もっと。魔物が産まれているわ」
「近いですね。この場所を囲むように次々と産み出されています。こんなこと、初めてだ」
エリックの顔に焦りが滲む。魔物は瘴気の渦から産み出されると言われている。しかし、一度にどのくらいの魔物が産み出されるか、どの程度の強さの魔物が産み出されるかは誰もわからない。なぜなら、魔物が産み出される瞬間に立ち会って生きて帰るものが少ないからだ。
「ティアラ、いざとなったら私が道を開きます。後ろを振り返らずに全力で逃げてください。こんなことなら二人と合流すべきでした。いや……まきこまずに済んで良かったと考えるべきなのか……」
ティアラは油断なく周囲を警戒しながらエリックに微笑んでみせる。
「だめだよ。一緒に帰るんだから。家に帰るまでが冒険でしょ?」
「ティアラ……」
「エリックはありったけの雷撃を。私はエリックに魔力を供給し続けるから」
「分かりました」
エリックがしっかりと頷くと、一段と瘴気の強い一角に向き直る。
「本来森の破壊は好ましくないのですが……そうはいっていられないようです」
エリックの体から紫色の魔力が立ち上りパチパチと放電していく。
「ライトニングサンダー」
エリックが静かに詠唱を行うと、その静かさとは真逆の激しさで、辺り一面にいっせいに雷撃がほとばしった。空をかける雷撃は矢のように地上に絶え間なく降り注ぐ。それはまるで世界の終わりのような光景だった。
「凄いね……」
生き物のように雷撃を操るエリックをティアラはじっと見つめた。エリックは目を閉じ、空に向かって両手を掲げているが、攻撃の凄まじさなど微塵も感じさせない神々しい煌めきを纏っている。
ティアラはエリックの背中に手を置き、少しずつ自分の魔力を融合させていく。
やまない雷撃がある程度続いた後、エリックはそっと目を開けた。辺り一面の木は黒こげになり、その多くがなぎ倒されていた。エリックの放った雷撃のもの凄さが伺える。
「ああ、森の木々がこんなことに……」
悲しそうに眉を下げるエリックの背中をティアラがポンと叩く。
「大丈夫。後で一緒に再生しよう。それよりも、油断しないで。くるよっ!」
ティアラの言葉にハッと振り向くと、エリックの足元が急激に盛り上がる。素早く飛び退くと、そこから現れたのは体全体をゴツゴツとした岩に覆われた巨大なトカゲだった。
「それは……岩竜。このような場所に難易度Aランクの魔物が出現するとはっ」
「体は凄く堅いけど、動きはそれほど素早くない。ただ、地面に潜られるとやっかいだよ!」
「はいっ!」
エリックが素早く雷撃をお見舞いする。しかし、二発当たったとこで地面に潜られてしまう。
「ウォータースクリュー!」
ティアラが地面にすばやく手をかざし、地面に水流を叩き込む。水に追われ、慌てて飛び出してきた所をエリックの雷撃で狙い撃ちにした。岩竜はその巨体をぐったりと地面に横たえピクリとも動かない。
「やったかな?」
ティアラが近づこうとすると、エリックがそっと前にでる。
「私が確認してきます。ティアラはここを動かないで」
エリックが完全に倒したことを確認すると、二人はほっと息をついた。
「はぁ、なかなかの大物だったね!」
「本当に。まさか冒険者になった翌日にこんな大物を相手にするとは思いませんでした」
「でもさすがエリック。強いね?」
「とんでもない。ティアラの足元にも及びませんよ」
肩をすくめるエリックにティアラはフフっと笑いかける。
「さてと、あとはこれをどうするかだよね~?」
辺り一面は激しい雷撃によって焼け野原になっており、雷撃によってたおされた魔物が至る所に倒れている。
「エリックの雷撃で倒してるから、素材の状態はいいと思うんだよね」
「そうですね。ただ、これを全て運ぶとなると一苦労ですね」
うーん、と二人が悩んでいると、
「お、おい!あんたたち!大丈夫かっ!」
町の方から続々と人が現れた。
「あなたたちは?」
ティアラがこてんと首をかしげる。
「凄い雷が立て続けに落ちたから、王都にいた冒険者は全員ギルドから緊急派遣されてきたんだ。怪我はないかっ!わ、わぁ!岩竜!なぜ、こんなところに……」
駆けつけた冒険者たちはAランクの魔物を目にして唖然とした。危険度Aランクの岩竜は普段森の奥深くに生息しているといわれており、このような場所ではまずお目にかかることのない高ランクの魔物だ。実際に目にしたことのある冒険者の数も少ない。とそこに、アベルの率いる騎士団のメンバーも到着した。
「王国騎士団だっ!けが人はいないかっ!……姫様にエリック様?どうしてこんなところに……」
「なに?ティアラ?エリック!これはいったい……」
冒険者の後から現れたアデルと騎士団のメンバーも呆然と立ち尽くす。口も利けないほど困惑する大人たちをよそに、二人は顔を見合わせてにっこりした。
「助かっちゃったね!」
「本当に。これも女神のお導きですね」
こうして、エリックとティアラの倒した魔物たちは冒険者と騎士団のメンバーによって、全て冒険者ギルドに運ばれることとなった。
「まじか……」
そこに居合わせたメンバーはみな、信じられないようなものを見る目で二人を見つめていた。しかし二人は、貴重な素材を無駄にすることなくギルドまで運ぶことができたことにご機嫌で気付かなかった。
そのため、あとからとんでもないあだ名を付けられて、飲んでいたジュースを吹き出すこととなる。
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