7 輝けっ!森の浄化計画
◇◇◇
「ティアラ?エリックと二人でどこに行くんだ?」
翌日の早朝、ティアラとエリックが冒険者ギルドから出てくると、ちょうどジャイルとミハエルが狩りを終えて戻ってくるところにいきあった。
「わっ!二人とももうクエストに行ってきたの?まだ早朝だよ?」
「ティアラと一緒に冒険しようと思って、早めにこっちのクエストを終わらせてきたんだよ」
今日の獲物は体長5メートルを越える鹿によく似た魔物だ。二メートル以上の巨大な鋭い角による攻撃は厄介で、毎年多くの犠牲者を出している。ただし、肉は食用になるほか硬い角や滑らかな毛皮も高額で取引されているため、冒険者にとっては実入りのいい獲物だった。
「すごく立派な角!これは高く売れそうだね!」
「だろ?滅多にない大物だぜ」
ジャイルとミハエルのコンビは想像以上に上手くやっているようだ。鹿の魔物はBランク冒険者でも手こずる相手のため、Cランク冒険者が二人で討伐するのは快挙と言える。
「二人ともお疲れ様!でもこんなに大きな獲物を仕留めた後だと疲れてない?私達はこれから森の浄化にいくんだけど」
ティアラの言葉にジャイルは分かりやすくむっとする。
「エリックと二人で大丈夫なのかよ?」
「?エリックは強いから大丈夫だよ?私もそこらへんの魔物には負けないと思うし……」
「違うよっ!エリックだけ抜け駆けだっていってんの!俺だって一緒にいきてーから頑張ったのにっ!」
「エリック様ずるいです!」
ミハエルまでほっぺを膨らませて拗ねている。
「え、え~?でも、今からギルドで査定でしょ?それ待ってると遅くなっちゃうしなぁ。出来れば瘴気の強い朝のうちに行っておきたいし……」
大型の魔物の場合、解体時間などを合わせると査定にはそれなりに時間がかかりそうだ。
「セバスのじいさんと師匠はどうしたんだよっ!」
「セバスは昨日中腰で作業してから腰を痛めたらしくて。さっき治してきたんだけど、念のため無理せず今日はお休みしてねって言ってきたの。アデルお兄様は今日騎士団のお仕事があるからお休みだよ」
「二人とも、心配しなくても大丈夫ですよ。普段大神官様と二人で行っている森の浄化作業をティアラに手伝ってもらうだけですから。今日は森の様子を見るだけですぐに戻りますよ」
穏やかに微笑むエリックの言葉にもジャイルは納得できないようだ。
「明日からは俺らも一緒にいくから!」
ジャイルの言葉にエリックは困ったように眉を下げる。
「私とティアラが二人でいるとまず魔物は出てこないのですが……」
「そうだよね……。二人はSランク目指して頑張ってるんでしょ?パーティーは組んだけど二人の邪魔はしたくないよ」
「邪魔なんかじゃねぇっ!」
相変わらずプンプンしているジャイルをよそに、ミハエルは軽くため息をつく。
「分かったよ。じゃあしばらく朝は別行動。ただし、昼からは一緒に冒険すること!アデル兄さんとセバスさんがいるときはちゃんと連れていってよね!」
ジャイルよりはミハエルのほうが大人の対応ができるが、言葉の割にはほっぺは膨らんだままだ。
「そんなにプンプンしないのっ!」
ティアラは二人の膨らんだほっぺを一人ずつえいっとつついた後、笑顔で手を振った。
「じゃあいってくるね!」
「エリックに気をつけろよっ!」
若干赤い顔をしたジャイルが大声で叫ぶ。思わず
「そこは魔物に気をつけろじゃないの?」
とつっこむと間髪いれずに
「エリックだっ!」
「エリック様ですっ!」
と返ってきた。双子の言葉にエリックはすっかり苦笑いしている。
「ジャイルもミハエルも失礼しちゃうよね!気にしないでエリック」
ティアラの慰めの言葉にエリックは小さく肩をすくめた。
「まぁ、私も婚約者に立候補しているので、お二人にライバル認定されるのは仕方がないですね」
エリックはエリックで難しい立場にいるらしい。
「結婚なんてそんな先の話わかんないよ。……それに、私は多分誰とも結婚しないから」
「ティアラ?」
「なんでもない。行こうかっ!」
「はい」
エリックはそれ以上追求せずに、複雑そうな笑みを浮かべたまま頷いた。
◇◇◇
森の入り口に立つと昨日よりもより濃厚な瘴気を感じる。瘴気は夜に最も濃くなり、森の浄化作用によって昼過ぎには薄くなる。朝は比較的瘴気が強くなりやすいが、入り口付近まで瘴気を感じるということは森の浄化作用がうまく働いていない証拠だ。
「やっぱり瘴気が濃いよね」
「そうですね。ここでも微かに瘴気を感じます」
「入り口付近は冒険者になりたての子ども達も多いから、放っておくと危ないわ」
「確かに……今日は様子をみるだけのつもりでしたが、入り口から奥に向かって少し浄化していきましょうか?」
「うん。せっかくだからそうしよう。大丈夫。妖精さんに頼んでみるよ」
ティアラが指先に魔力を集中させると、指先から魔力がこぼれ落ちる。虹色の魔力は色を変え白く輝きながら、雪のように真っ白なドレスを纏った小さな妖精を何人も生み出した。
「白い妖精さんたち。お願い!森の浄化を手伝って欲しいの」
妖精たちは小さくコクコクと頷くと一斉に羽根を広げて飛び立っていく。次は緑色の妖精だ。
「緑の妖精さんたち。森に元気を分けてあげて!」
緑の妖精たちもコクコクと頷くと元気いっぱいに飛び出していった。水の妖精、土の妖精と次々と妖精を生み出すティアラ。
「ふうっ!こんなものかな。後は妖精さんたちが頑張ってくれると思うよ」
「素晴らしいっ!さすがですっ!」
エリックはキラキラとした尊敬の眼差しで見つめている。
「じゃあ、私たちは森の中心に向かって歩いていってみようか?」
「はい」
二人は森の中をてくてくと歩き出した。早朝の森は瘴気が強いが、ティアラとエリックには全く影響がない。二人が纏う魔力は森の空気を素早く念入りに浄化していってしまう。まさに歩く空気清浄機といったところだろうか。
普段は好戦的な魔物も、強すぎる聖属性魔力を感じると警戒して姿を現さない。弱い魔物ならあっという間に浄化されてしまうからだ。
「ジャイルたちにああはいったけど、ほんとに魔物が出てこないねー」
「ですね。スライムや角ウサギなら慌てて逃げるでしょうが、Cランクハンターが相手にするほどの魔物なら出てきてもおかしくないのですが」
「ただ、やっぱり森の奥にいくほど瘴気が強くなってるよ。森の中心になにがあるんだろう」
「森の中心と言っても範囲が広いですからね」
「うん。特定できるといいんだけど」
森に入ってしばらくすると、少し開けた場所に出たので一旦休憩を取ることにする。
「ティアラ、疲れていませんか?」
「少し足が痛いかな。エリックも疲れたよね。ヒール!」
ティアラの指先から虹色の魔力がこぼれ出す。その瞬間、森の空気が変わった。
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