5 聖なる加護の使い方
◇◇◇
「ふーん、じゃあフェンに出逢って始めてリリアちゃんが神獣の巫女だとわかったんだな」
アデルは少し離れた場所で無邪気に蝶を追いかけるフェンを見つめる。こうしてみると、ただの獣人の子どもと何も変わらない。
「そうだ。リリアはテイマーでありながら、一度も魔物をテイムすることができなかった。そのことに早く気付くべきだったんだが……」
「いや、無理もないな。神獣使いは何百年も現れていないと聞く。神獣自体が伝説となっているし、神獣使いと神獣との関わりも詳しくは残っていないからな」
「そうか。レアだとは思っていたがそんなに。フェンがフェンリルだと分かればリリアは聖女に認定されるだろう。俺たちはそれを望んでいない。フェンが人化できるから安心していたんだが、まさか姫様に見破られるとは思わなかった」
ロルフからちらりと視線を送られ、ティアラはにっこりと微笑む。ティアラはティアラで、リリアと二人でなにやら話し込んでいるようだ。
「あー、まぁ、ティアラはちょっと特別な力があるからな。俺にはさっぱり分からなかったぞ。獣人には分かるのか?」
アデルの言葉にロルフは軽く首を振る。
「いや、フェンリルの姿なら分かるが人化してると分からないな。俺でも犬獣人と勘違いするだろう」
「そうか。なら冒険者になるには問題ないな。冒険者登録はできたのか?」
「ああ、冒険者登録は問題なくできた」
アデルはふむ、と頷く。
「なら俺に頼みたいことってのは?」
「フェンをアリシア国民として認めて貰えないかと思ってな。あれこれ出自を訊ねられるのはまずいが」
「ああ、なるほど。分かった。こちらで手配しておこう」
「すまないな。助かる」
基本冒険者はギルドカードがあればアリシア国内外で問題なく活動することができる。しかし、税金や住居の優遇処置、身元の保証、教育の無料化など、国籍を持つことで受けられるメリットも大きい。なにより、他国とトラブルになった場合国が身柄の保護のために動いてくれる。
また、アリシア国民になるためには本来いくつかの条件があるが、獣人の場合基本的に無条件で認められる。アリシア王国では、他国で迫害されることも多い獣人は積極的に受け入れる体制を取っているためだ。
ロルフのほっとした顔を見てアデルは爽やかに微笑む。
「お前、リリアちゃんのこと本当に好きなんだな」
「当たり前だろ?」
弟のように可愛がってきたやんちゃ坊主がいっぱしの男の顔をしている。アデルはロルフが長年の想いを実らせたことが嬉しかった。
◇◇◇
「じゃあロルフはこれからリリアちゃんとフェンの三人でパーティーを組むんだな?」
「そうだな。実はまだフェンがどの位力があるかは分かっていないんだ」
「ギルドでランクアップテストを受けなかったのか?」
「下手に目立ちたくないからな。フェンはEランクからのスタートだ。実をいうとリリアもまだEランクだしな」
「そうなのか?」
「まずは魔物をテイムすることを優先させていたせいで、薬草採取なんかの初心者向けクエストもやってないんだよ」
「あー、なるほどなぁ。じゃあ、今日一緒にやっていくか?」
「そうだな」
二人の話が落ち着いたのを見てティアラとリリアが近づいてくる。
「アデルお兄様、お話は終わりましたか?」
「ああ、待たせてすまないな。こっちは大丈夫だ。ティアラはリリアちゃんと何を話してたんだ?」
「フェンリルとの生活についてのアドバイスと簡単な魔法の使い方かな?」
リリアはなにやら真剣な顔で考え込んでいる。
「リリア?大丈夫か?」
「あ、ああロルフ!大丈夫だよ。ティアラ様から色々教えて貰ってたんだ!フェンのご飯とか、力の分け与え方とか」
「そんなのまで知ってんのか……すげえな」
ティアラはロルフににっこり微笑むと、
「フェン君おいでー!」
とフェンに向かって手を振った。フェンはしっぽをブンブン振りながらティアラの前にやってくる。
「よーしよしよし!いいこだねー」
目をキラキラさせて撫でられる様子を見ると、どっちが契約者だかわからない。
「なあ、神獣は契約者にしか服従しないんじゃなかったのか?」
ロルフがぼそっと呟くと
「僕は女神様の眷属です!女神様が最優先です!」
ときっぱり言い放つ。フェンの中でティアラはすっかり女神認定されているようだ。
「あはは、女神様じゃないよ。ティアラって呼んでね?」
ティアラがフェンの頭をなでながら優しくお願いすると、フェンは真っ赤な顔でこくこくと頷く。
「はいっ!女神ティアラ様!」
「ティアラだよー?」
「はいいい!!!」
「おい、フェン、姫様が好きなのはわかったから取りあえず落ち着け」
ロルフが呆れたようにフェンの頭をポンポンと叩く。
「えっと、リリアさん、さっき言ったことフェン君に試して貰えますか?」
「は、はいっ!フェン、ちょっといいかな?」
「なんですか?」
「フェンに聖なる加護を!」
リリアの言葉と同時にフェンの体が光に包まれる。
「これはっ!?」
「ほ、ほええ?僕、どうなったの?」
光はしばらくすると収まったが、フェンは、自分の手や体を不思議そうに眺めている。
「リリアさんはフェン君と契約を結んでいるけど、まだ加護を与えてないみたいだったから。契約者に加護を与えられることで契約者の能力も使えるようになるんだよ」
「リリアの能力?」
「えーと、やっぱり回復魔法が使えるみたいなの」
リリアがロルフにこっそり耳打ちする。
「じゃあ、フェンも回復魔法が使えるようになったってことか!」
思わず大きな声を出してしまったロルフにリリアが慌てるが、アデルはすでにセバスとエリックの元に行っており、聞こえてはいないようだ。ティアラはにこにこしながら説明を続ける。
「フェン君の場合は人の傷を癒すことはまだ無理だけど、自分の傷はある程度癒せるようになったと思います」
「それは凄いな……」
「フェンリルといえどまだ力の弱い子どもですからね。しかも一度与えた加護はフェン君が死ぬまで消えることはありません。神獣の巫女との契約はフェンリルにとってとても役立つんですよ」
「私にも役立てることがあって良かった。この先守って貰ってばかりじゃ心苦しいもん。ティアラ様!本当にありがとうごさいます!」
「あ、ありがとうございます!」
「フェン、リリア、良かったな。姫様、感謝する」
「どういたしまして」
話を終えたティアラたちは早速薬草採取のクエストに取り掛かる。すでにセバスとエリックがかなりの量を採取していたため、ティアラはリリアとフェンの分を手伝うことにした。
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