23 エリックは王子様!?
◇◇◇
ティアラがカミールと一緒にパーティー会場に入ると、すでに会場入りしていた人々から一斉に注目が集まった。パーティーの主役であるティアラはもちろん、第一王子であるカミールもまた、注目の的だ。
(うわわわ、緊張しちゃうよぉ)
注目を浴びたことで軽く体を強ばらせ、指先に力が入ってしまうティアラ。カミールはくすりと笑い、そっと扉の近くに目配せする。
「ティアラ」
入り口の扉近くで待っていたアデルが、ティアラにゆっくりと近付き、そっと右手を差し出した。
「とても、綺麗だ」
「ありがとうございます。アデルお兄様」
ティアラはアデルの姿をみてホッと胸をなで下ろした。普段一緒にいるお兄様達が側に居てくれるだけで心強い。アデルにもにっこり微笑みながら淑女らしい礼をする。アデルはその愛らしさに軽く呻きながら左胸を押さえた。
ティアラは、(もしかして左手で胸の辺りを押さえるのが男性のマナーなのかしら)などと的外れなこと考えながら、カミールに右手、アデルに左手を預けてパーティー会場の中央まで進む。この後招待客の前で挨拶をするのだ。
「皆様にご紹介致します。アリシア王国第三王女、ティアラ王女です」
宰相の紹介の声と共に二人の手を離れ、淑女の礼を取ると、会場の招待客に向けて挨拶を行う。
「アリシア王国第三王女、ティアラです。以後、お見知りおき下さい」
ティアラのみずみずしい美しさと、蕾が開くようなその微笑みに、会場のあちこちから感嘆の声が漏れた。
「お聞きしていた通り、とても可愛らしいわ」
「これは、将来が楽しみですな!」
「みて!なんて美しい髪かしら。瞳もまるで宝石のよう」
「しかも、珍しい回復魔法の使い手とお聞きしましたわ」
「ほう、それはそれは。聖女様候補ということですかな?」
好意的な囁きとともに、「聖女候補」という声が多くあがる。ティアラが回復魔法の使い手と言うことは、想像以上に評判になっているようだった。
次にティアラは、王と王妃の前まで行くときちんと淑女の礼を取った。
「お父様、お母様、今日は祝いの席を設けて頂き、ありがとうございます」
王がデレッとだらしなく顔を崩すのを小声で注意しつつ、王妃もまた、嬉しそうにほほえみ返す。
「おおティアラ!すっかり見違えたぞ!小さかったお前も、いつの間にか立派なレディーになったなぁー」
「ティアラ、とても素敵よ。今日は楽しんでね」
「はい!ありがとうございます!」
「じゃあティアラ、お客様にご挨拶にいこうか?」
カミールに促され、今度は招待客一人一人と挨拶を交わしていく。アデルは一旦近くを離れ、二人が見える距離で見守るようだ。今日は国外の王族が多く招かれているため、普段はおてんばなティアラも自然と緊張してしまう。
◇◇◇
ちょうど半分ほど挨拶を済ませた頃、一際目を引く男性が進み出てきた。
「あれ、エリック様?」
ティアラは、夜会用の上質な衣装を身に纏ったエリックを見てポカンとしてしまう。
「本日はお招きありがとうございます。アリステア王国第二王子、エリック=ド=ラ=アリステアです」
「えっ!ええーーー!エリック様、アリステア王国の第二王子殿下だったの!?カミールお兄様、知ってた?」
「いや、初耳だ……『聖人』であるエリック様の情報は教会によって厳重に秘匿されているから」
「ふふ、別に私が隠していた訳では無いのです。神官に身分は必要のないものですから。でも、神官の格好ではティアラ様をダンスにお誘いできないので、今日はこちらの格好で来てしまいました。我が国の衣装はちょっと目立つのであまり好きではないのですが」
そう言ってエリックは優しく微笑む。腰まで伸びた長い白金の髪は今日はすっきりとひとつにまとめられ、ティアラと同じアメジストの瞳が優しく煌めく。神官の正装であるローブをきたエリックは、神々しい美しさを感じさせるが、アリステア王国の正装に身を包んだエリックは、妖しい色気すら醸し出していた。
「エリック様、とても素敵です!」
ティアラはエリックのあまりの美形ぶりに思わず溜め息を漏らしてしまう。
「ティアラ様もいつにもましてお美しい。後でダンスをご一緒頂けますか?」
「はい。喜んで」
和やかに微笑み合う二人を見てカミールは考える。アリシア王国の大神官の愛弟子であるエリックは、将来の大神官候補と考えていた。しかし、アリステア王国の王族となれば話は違ってくる。王族としての地位を保ちながら、神官であることが認められているのだ。
そもそも、アリステア教は創造の女神を崇める宗教のため、神官の妻帯が認められている。
(アリステア王国の第二王子は確か今年で16歳。今まで公の場に出なかったのは神官だったからなのか。ティアラとは8歳差……ない話では無いのか……)
「見て、お二人が並ぶとまるで一枚の絵のよう」
「溜め息が出そうなほどお美しいわぁ」
「美しいご兄妹のようにも見えますわね」
二人の並んだ姿にヒソヒソと噂する声が聞こえてくる。
「ではティアラ様、また後で」
エリックはティアラの手を取ると軽く口付けを落とした。
(うわわわ……)
思わず赤くなるティアラをにこやかに見つめるエリック。エリックの色気に当てられながら、なんとか淑女の礼を返すティアラだった。
◇◇◇
「何あれ?」
「アリステア王国の王子らしいよ?」
「おっさんじゃんか」
「面白くないね……」
ノイエ王国の双子王子が、その様子をじっと見守っていた。
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