21 ノイエ国の双子王子
◇◇◇
エリックが王宮神官として派遣されてから一週間。エリックは言葉通り、暇さえあればティアラのもとを訪れるようになっていた。
最初はエリックが王宮神官として働くことを渋っていた王子二人だったが、すぐにその態度を改めた。騎士団の怪我の治療を始め、城で働くものたちの治療を積極的に引き受けてくれるエリックの役割は想像以上に大きい。また、その優しい人柄から瞬く間に城中から尊敬を集める存在となっていたのだ。
しかも、エリックもまた、大神官様をはるかに越える回復魔法の使い手だった。国内外から要人が集まっている今、その価値は計り知れない。
ティアラはエリックと一緒に庭を散歩するのが朝の習慣となっていた。朝食が済むとエリックの待つ城の祭殿に赴き、城内の庭をてくてくと散歩する。城の庭は、城内で働く人にも解放されているためかなり広い。
ティアラは普段王宮からもなかなか出して貰えないため、城の庭を散歩するのがいい気分転換になっていた。ただし、城には多くの要人が滞在しているため、思いがけない人物に出会う危険もある。
◇◇◇
その二人も、庭を歩く二人の姿をたまたま目にして立ち止まった。
「ふーん、あれがティアラ姫か」
黒いさらっとした髪にルビーのように赤い瞳の少年は、ティアラをみてニヤリと笑った。
「『月の光のように淡い金の髪にアメジストのような神秘的な瞳の美少女』って触れ込みだったけど、大袈裟だと思ってた!想像してた以上に可愛いね」
ニコニコと屈託ない笑顔を見せているのは、柔らかな金髪にサファイアのような、瞳の少年だ。
「まあなぁ。でも、まだ全然ガキじゃんか」
黒髪の少年は、相棒の素直な賞賛の言葉に、ちょっとふてくされたように、横を向く。
「素直じゃないなぁ。きっと、凄い美人になるよ。ジャイルがいらないなら僕が貰うけど?」
くすりと悪戯っぽく笑う相棒に、
「ミハエル!いらないなんていってねーだろ?」
と、慌てた声をあげている。
「素直じゃないなぁ?本当は気に入ったんだろ?」
「まあな。お前は、どうなんだよ?」
「僕?気に入ったよ。あの子なら、僕の花嫁に相応しいと思わない?」
「相変わらずすげー自信だな?」
「ジャイルも、だろう?」
「ああ。獲物は、うまそうな方がいいに決まってるだろう?」
顔を見合わせてクスクスと笑う二人は、色合いは違えどそっくりな顔をしていた。今回ティアラの婿として筆頭候補に上げられているノイエ王国の双子王子達だ。ティアラはその儚げな見た目だけでしっかり気に入られてしまったらしい。
◇◇◇
―――――そのころ、お婿さん候補達にこっそり見られていたことなど気がつかないティアラは、盛大なくしゃみをしたせいでエリックに回復魔法をかけられていた。
「ティアラ様!大変です!まさかお風邪を召されたのでは!?」
「嫌だわエリック様、大袈裟です。お兄様たちがうわさしてるのかも?」
「ヒール!さぁ、今朝の散歩はここまでにいたしましょう。大切なお体ですからね」
「えー?もう?今日こそエリック様の特別な魔法を見せて頂きたかったのに」
「また今度、お約束いたしますから」
「絶対に絶対ですよ?」
「はい。絶対に絶対です」
「それよりも、ティアラ様、どうか私のことは「エリック」とお呼び下さい。丁寧な言葉使いも必要ありません」
「ええっ!神官様のこと呼び捨てになんてできません。それに、目上の人にきちんと敬語を使わないとアンナに怒られてしまうわ」
「ティアラ様は私の遥か高みに存在するお方。問題ございません」
「え、ええーーーー」
「さぁ、どうか、エリックと!私を助けると思って!」
「え、エリック?」
「そう!そうです!」
満足そうに微笑むエリック。
(まぁ、本人が望んでるんだから、いっか)
こうしてグイグイくるエリックにも、着々と距離を縮められているティアラだった。
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