19 エリックの本気
◇◇◇
「先程は取り乱してしまい、申し訳ありませんでした」
院長室でカミールとアデルに向かい、全身を真っ赤に染めながら恥ずかしそうに謝罪するエリック。
カミールとアデルは、ティアラと子ども達、シスター達を裏庭に残し、エリックを連れて院長室で話を聞くことにした。院長先生にも、取りあえず席を外して貰っている。
「あ、ああ。ちょっとびっくりしたが。神官様は何故今日こちらへ?偶然ではないのでしょう?」
手早くお茶の準備をすると、カミールがやや顔を強ばらせたままエリックに尋ねる。アデルは窓に寄りかかり、庭で遊んでいるティアラ達の様子を見守っている。エリックはカミール自らお茶を入れてくれたことに恐縮しつつ、ゆっくりとお茶を口にした。
「はい、実はシスター達からティアラ様のお話を聞き、是非一度お会いしてみたいと思いまして……。はやる気持ちを抑えきれず、失礼を承知で押し掛けてきてしまいました。本当は、物陰からほんの少しお姿を拝見できたら、と思っていたのです」
申し訳なさそうに頭を下げているところをみると、傲慢な人間ではないらしい。
「それはやはり、ティアラを教会に預けるように、というお話でしょうか?」
それでも、気を緩めることなくカミールは問いかける。自然と声に力が入る。アデルも、外の様子を油断なく眺めながらも話の流れを気にしているのがわかった。
「確かに、ティアラ様のお話が耳に入れば、すぐにでも教会内部でそのような声が挙がることは考えられます。しかし、私は必ずしもそれが良いことだとは思っておりません」
エリックは、紅茶を一口飲むとカップに戻し、静かに首を振った。
「というと?」
「私も、私の仕えている大神官様も、女神の加護を利用する本国のやり方はあまり賛同できるものではないと考えています。」
「そうですか……」
「私たちは、誰でも女神アリステアの恩恵を受けることができる世の中を望んでいます。私たち神官は女神の忠実なる使徒であり、権力者の下僕ではありません」
エリックは、拳を握りしめ、声に悔しさを滲ませる。その言葉に嘘はないようだった。
「それを聞いて安心しました。私たち王家としても、ティアラが教会の権力闘争の道具として使われることを望んでいません」
カミールはふっと息を吐くと、紅茶を口にした。どうやら、ティアラを『聖女』に、という話ではなさそうだ。ところが、
「もちろんです!ティアラ様は、そのような俗物に利用されるようなことがあってはなりません。あの方は……あの方こそが、女神です!」
と続いた言葉にギョッとする。
「え、ちょっと待ってください。本気ですか?」
「もちろん本気です!あの方と出会えたことは我が生涯でたったひとつの奇跡です!」
「ティアラは、まだ8歳なのですが……」
カミールはごくりと唾を飲み込む。アデルも食い入るように見つめていた。
「年齢など何の関係もありません!私は、私の信仰の全てを、我が女神ティアラ様に捧げる所存です!」
力強く断言すると、窓の方を恍惚とした表情で眺めるエリック。
「そ、そうですか……」
カミールが顔を強ばらせたまま頷いた。ちらりとアデルを見ると、アデルも深く頷いている。
◇◇◇
城に戻ると、早速カミールとアデルは、ティアラの目を見て言った。
「ティアラ、神官様に近づいてはいけないよ?何をされるか分からないからね?」
「なぁに?カミールお兄様もアデルお兄様も変なの!」
ふふっと笑うティアラを心配そうに見つめる二人なのだった。
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あと、エリックはロリコンではありません(笑)
















