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第１章 九、北の大地へ
航空会社の社員として空港で働く唯、
医師を目指す紘太と、
遅めの夏休みを取った。
夏休みを迎え、うだるような暑さの中、
空港はウキウキと楽しげな空気をまとっていた。
お子様一人旅の生意気なチビッコどもにも、
全便満席のクラっとするような予約情報にも、
電車感覚で出発の5分前に来る乗客と走っていても、
もうすぐ紘太に会えると思えば、
唯は楽しくて仕方なかった。
紘太の夏休みは、結局遅れに遅れ、
9月になってしまった。
夜勤明けの紘太と待ち合わせ、
唯は残暑の残る職場から北海道へ発った。
飛行機で2時間もかからないのに、
朝晩は、すっかり涼しく、
富良野、トマム、旭川、
北の大地をゆったりと流れる時間に、
二人の夏の疲れは癒やされていった。
「紘太は半年前に北海道に来てたけど、
また来て良かったの？」
「あの時は一人だったし、厳しい冬の北海道を
放浪してたけど、今回は旅行だからね」
「前のは旅行じゃないの？
あれは予定のない放浪だね」
紘太は、大学の頃も、
1年休学して、世界を放浪していた。
復路の飛行機で、唯は、
半年前は、紘太が知らせずに到着し
すれ違った事を思い出していた。
また、紘太がどこか放浪し、
唯の手の届かないところに行ってしまわないか
不安な気持ちがよぎった。
しかし今は、同じ便で、隣で寝ている紘太の
かすかな寝息に、幸せを噛みしめる唯だった。
