第10章 十六、2人で洗車
翌日の日曜日、
朝から2人は洗車場にいた。
水しぶきの中、
車をあわあわにして、流して、拭いて、
ワックスをかけて、
2人ですれば、あっという間に
車はピカピカになった。
それから凛は観光名所を案内し、
遅めのランチに海辺のカフェに向かった。
平日と違って、それなりに客はいたが、
遅めとあって、テラス席に通された。
日陰だと、海風が涼しく、心地よい。
「ホント、癒されますね。
何時間でもいられる」
「空港の人たちもよく来るんですよ。
まぁ大抵平日に来るから、
今日はいないですけどね」
食事をゆっくり済ませると
2人はカフェの前の浜辺に降りてみた。
コンクリート片に凛が腰掛けると、
旺太郎も続いた。
「はー、明後日には空港かー」
「そうですねぇ、
2ヶ月、お世話になりました、
社を代表してお礼を言います」
いやいや、そんな大袈裟な、と謙遜して
凛は続けた。
「最初は、ちょっと不安だったんですよねー。
純礼さんは話した事あったけど、
津田さんなんて、挨拶ぐらいしかした事ない、
人間関係躓いたら、毎日気まずい人と
逃げ場もない、同期はいない、
運賃体系もハンドリングも違う…
でも、来て良かったです。
あっちの空港だと、
一日中、発券カウンターに座ってたり、
あれー今日晴れてたんだっけーとか、
下っ端はゲート周り、上の人たちは発券、
とか分業されてて、
大人数の駒の一人に過ぎないけど、
こっちは、全部するでしょ、
出発・到着、発券、搭乗手続き、荷物預かり。
それはそれで楽しいですよ。
お客さんの一人一人に接客できるって言うか。
もちろん向こうの空港でも心を込めて
接客してましたけど、
こっちは、お客様の全部をケアできるでしょ。
沢山のお客様のちょっとだけより、
少ないお客様の全部、旅のお手伝いできるの
なかなか良いな〜って。
もちろん、向こうも面白い事もありますよ、
大きい飛行機のハンドリングとか、
525人乗り満席のお客様を定時で出した時の
達成感とかね、みんなで協力して。
大きな空港だと、私なんで歯車の一歯に
過ぎない事にも気付けたし、
歯車の一歯として大きな事をするのも
それはそれで楽しい。
でも、小さいなら小さいなりの
面白さもありますよね。
搭載のおじさん達なんて、普段
話す事もないから見分けもつかなかったのに
昨日も一緒にランチしたし。
搭載のおじさん達、3人いるじゃないですか、
マーシャリングの仕方、微妙に違うんですよ。
大きく振ってたり、ピョコピョコ振ってたり」
凛はおじさん達のマーシャリングの真似を
披露して、2人は笑った。
それに、と少しはにかみながら付け加えた。
「こっちに来なかったら、山中さんとも
仲良くなれなかったですしね」