番外編 七、出発
「先程の係員さん、同期なんですよね」
眩しそうな顔で、絢華は言った。
「あ、はい、三沢は同期です。
あと一緒にいたヤツらも同期です」
「へー、やっぱ綺麗な方ばかりですね」
え、アイツらですか? どこが?!と
納得いかない顔の松本に、
絢華は笑いながら言った。
「松本さんって、お姉さんいらっしゃいます?」
「え?いますよ、姉と妹が。
なんで分かったんですか?」
「やっぱりー。何となく、沢山の女性の中でも
うまくやってる感じがしたから」
松本の1時間の休憩はあっという間だった。
「恵比寿さん、次のうちの便で出発ですよね?」
「はい」
「俺、タグ車でエプロンに出るんで、
手振りますね!」
「え?え? 何ですか?」
「あ、タグ車…って、トーイングトラクター、
飛行機押す車ね」
「え?車が飛行機押すんですか?
スゴイ大きい車なんですか?」
驚く絢華に、松本も驚いて、
もう少しで出発しそうな他社の飛行機を
指差して言った。
「いやー、そんな大きくないけど、
ほら、あの飛行機のギア、前の車輪に
くっついてる車がいるでしょ」
「え、あんなちっちゃい車で
あんな大きい飛行機を押せるんですか?」
「そうですよー、飛行機はバックできないんで
あの車が後ろに押すんです。
ほら、あの飛行機、頭の上に赤いランプが
ピカピカし始めた。もうすぐですよ」
絢華は指差された飛行機を見入った。
クラクションを短く鳴らすと、
トーイングトラクターは黒い煙を吐いた。
飛行機はゆっくりプッシュバックされた。
横向きになると、トーイングトラクターは
外され、離れて行った。
整備士たちに手を振られ、
滑走路へとタキシングして行く飛行機を
見送った絢華は少し興奮して言った。
「松本さんは、あんな風に飛行機を
押されるんですね!よく見ておきます」
楽しそうな絢華と、
もう少し話していたい気もしたが、
松本は後ろ髪引かれながら仕事に戻った。
勤務を終え、松本が携帯を見ると、
絢華から興奮冷めやらぬメッセージが
何件も入っていた。