番外編 二、雨の路肩で
いえいえ、とんでもない!と慌てる女性に
松本も慌てて言った。
「俺、怪しい者じゃないです、
空港の職員です!
こんな遅い時間に、こんな山の中の
誰も通らないような道端に
女性を一人で置き去りにはできないです!
雨降ってるし、寒いし」
そういうと、心細かったであろう女性は
素直にうなずいた。
「俺、松本って言います。もしかして、
さっきの最終便のお客様ですか?」
「はい、出張で。
私は恵比寿絢華って言います」
「恵比寿さんですか、
車、カッコいいっすね!
若い女性なのにクラッシックミニって」
「思いっ切りミーハーで買っちゃったけど、
メンテ不足で、こんな事になっちゃって
お恥ずかしい限りです」
「サイドブレーキも壊れてたんですか?」
「え?」
「足で踏むブレーキが効かなかったら
サイドブレーキ引きませんか?」
「あ、その存在を忘れてました…
そっか、サイドブレーキか…」
「でも、まだここで良かった。
この先だと、しばらく下り坂だから
かなり先まで停まれなかったかも」
道がすいていたのか、
JAFは早めに駆けつけてくれた。
松本はささっと説明した。
「作業は15分もあれば終わるみたいです。
俺、明日早番なんで、このへんで…」
絢華は恐縮して言った。
「すみません、お仕事忙しいところ
ホントに何から何まで…」
ハハ、全然、気にしないでください、
と笑いながら松本は車に乗り込んだ。