第9章 一、プロローグ
お盆休みの喧騒も落ち着いた8月の下旬、
つい10日ほど前の混乱が嘘のように
空港には穏やかな時間が流れていた。
早番終わりのミーティングも終わり、
小松純礼は帰り支度をしていると、
教育担当リーダーの新山と話している
所長の白石に呼ばれた。
「繁忙期も落ち着いたところで、
9月から運航支援の岩瀬君が、
旅客課にも入る事になってね。
それで、新山さんの座学が終わったら
OJTは小牧さんにお願いしようと思っている」
「はぁ、そうですか…」
「詳細は新山さんに任せてあるから、
相談してください」
「はい、わかりました…」
以上です、と言われ、
純礼は新山にトレーニング室へ誘われた。
「小松さんは、新入社員のOJTもついてるし、
同じようにやればいいから大丈夫よね」
安心したように言う新山に
申し訳なさそうに純礼は言った。
「岩瀬さん? って、私、
あまり知らないんですけど…」
「え? 岩瀬さん、知らない?
ディスパッチ(※1)の、ほらー、
いつもニコニコしてる人。
ホーントいつもニコニコしてて、
言われてみりゃ旅客に適任だわ。
でもディスパッチのスゴイ人よ、
天気の予報とか、すんごい正確なの!
だから運航も手放さなくて、
異動じゃなくて兼務なんだろうな…」
「え、そんなスゴイ人のOJT、
私でいいんですか?」
「大丈夫、大丈夫」
「その方、おいくつぐらいの方なんですか?」
「えーっと、34かな」
「えー、そんな年上の方、
私がOJTするんですか?!」
(※1)ディスパッチ: 運航支援