第8章 十、尽きぬ話
2人は海辺のレストランで食事した。
話は尽きなかった。
悠馬は事業部の所属で、ちとせの住む
エリアの地区の担当していたが、
北海道は、冬に缶詰めになったり大変で
家族のある社員が担当したがらないので、
独身で身軽な悠馬が掛け持ちしていたらしい。
営業部門の社員たちが
札幌営業所を立ち上げる手伝いを
ここ数ヶ月していた悠馬だが、
北海道エリアに詳しいので
結局異動する事になったのだった。
話しても話しても、話し足りず、
2人は24時間営業のファミレスに移った。
コーヒー片手に、
なんて事ない話を取り留めもなくしていた。
「俺、ちとせが飛行機乗る前に
いってらっしゃいって言ってくれるの
すきなんだよな」
「あぁ、ご出発のお客様には言いますね」
「なんだ、俺だけじゃないのか。
嬉しくて、行ってきますとか言い返すのに。
でもそしたら、またちとせが返してくれる」
「あー、お気をつけてとか返しますかね」
「そうそう! あれ、なんか良いよね」
いつもの仕事を認められたようで
ちとせは嬉しかった。
気付けば、外は白々と夜が明けていた。
「朝ですね」
「朝が来たね」
「うちでシャワーだけでも浴びますか?」
「んー、ちとせの家…
行きたいのはヤマヤマだけど、
やめとこうかな」
残された時間、
1秒でも一緒にいたい。
恐らく2人に共通した気持ちだった。
9時半過ぎのフライトだ、
荷物の預けもあるし、
このファミレスを8時半前には出たい。
ギリギリまで2人は喋っていた。
後ろ髪を引かれる思いで、
車で空港へ向かった。
いつも、毎日、通勤で通う道を
こんな想いで運転する事があるなんて…
そんな事を考えながら車を飛ばした。