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第8章 九、初デート
それから、2人はちとせの車に向かった。
ちとせが運転席に乗り込むと、
悠馬は遠慮がちに助手席に座り言った。
「俺、女の子の運転する車に乗るの
初めてだよ。俺、運転しようか?」
「いいですよ、運転しますよ、
梶様、この辺の道、ご存知ないでしょ」
「その梶様と最上級の接客用語、
やめてくんない?」
「うっ、えっと、じゃあ、梶さん?」
「俺ね、悠馬っていうの」
「じゃ、悠馬さん」
「んー、まだそれ、こそばい。
ハルでいいよ」
「ハルさん」
「だから、さんがこそばいの」
「ハルくん」
「じゃそれで。松下さんは?
確か、C. Matsushitaって名札に書いてあった」
「ちとせです」
「ちとせちゃんかー、
じゃあ、ちーちゃん」
「イヤです」
「ちとりん」
「は?」
「うわ、こわ! じゃあ、ちとせちゃん、
んー、ちとせ、だな」
照れて無言になるちとせに、悠馬は
ちとせーと呼んでいた。