第8章 七、久しぶりの
その日は、ちとせは遅番で、
出発便はあと最終便を残すのみ、
売上の報告をまとめたり
店仕舞いの準備をしていた。
人影に気付き、
いらっしゃいませ、と声を掛けると、
それは、いつものスーツ姿とは違い
私服姿の悠馬だった。
「やぁ松下さん、久しぶりだね」
「梶様……、お久しぶりです。
なんか私服だと感じ違いますね」
そうかな、と笑った悠馬は
すぐ真面目な顔になった。
「実は、札幌に異動する事になったんだ。
向こうで色々手伝いやってたら、
結局、営業所を立ち上げる事になって。
それで、明日引越し準備したら
明後日には、荷出しなんだ」
「そんな急に…」
「そして、その翌日には、俺は道民だ」
悠馬はおちゃらけて言ったが、
ちとせはそんな楽しい雰囲気にはなれなかった。
「なんだよ、暗いなぁ」
「す、すみません…残念です…」
しょんぼりするちとせに、
悠馬はイタズラっぽい顔で言った。
「もし、少しでも淋しいと思ってくれてるなら
最後にデートしてくれる?
明後日、荷出しが終わったら、
次の日の札幌便まで、俺ヒマなんだ。
明後日は仕事?」
「早番です」
「じゃあ、ちょうどよかった!」
そう言うと悠馬は、名刺の裏に連絡先を
サラサラっと書き、ちとせに渡した。
仕事中にゴメンね、と言うと
悠馬は去って行った。