第7章 十三、漂う緊張感
狭い空間に2人、
海を車に乗せたのは初めてではないのに、
昨日の事があり、何となしに緊張が漂った。
「昨日の事は、誰にも言いませんので…」
「そうですね…」
そこに他社の飛行機が到着した。
滑走路横の職員用駐車場からは迫力ものだ。
「中型機でも、ここから見ると迫ってきますね」
少し興奮したように海が言った。
「俺、小さい頃、初めて伊丹の滑走路エンドで
飛行機が頭上を通り過ぎたら時、感動したん
ですよね。鉄の塊が浮かんでるんだなって。
多分それが、今、俺がここにいる原点です」
それから、しばし海の話を聞いていた夏帆が、
あくびをかみ殺した。
「コーヒー飲んだのに、
何か眠くなってきたんだけど…
何か盛った〜?」
夏帆は笑いながら言った。
「盛ってはないですけど、
すみません、すっかり引き留めちゃって」
「トラックの運ちゃんみたいに寝て帰るか、
頑張って急いで帰って寝るか…
明日休みだから、もう帰りたいよな〜、
自分の布団で寝たいよ〜、
小牧君、責任取って運転してよ〜、なーんて」
「すみません、俺、運転します…」
「ウソウソ、冗談よ! 大丈夫ってば、
こんなのしょっちゅうですから!
丸本さんは、這々の体で家に辿り着いて
そのまま運転席で力尽きて、目が覚めたら
おでこにホンダのHが付いてたとか、
福原さんも中央分離帯に激突したし、
河出さんは田んぼにダイブしたり、
そういうのは、よくあるんですよ」
ヘラヘラ話す夏帆の話の内容に、
海は軽く引いていた。
「ちょっと待ってください、
俺、それ絶対に運転させませんよ。
自分の布団で寝たいなら、俺運転します!
席、代わってください、降りて!」
海は助手席から降りると、運転席にまわり、
ドアを開けた。
迫力に押されて、夏帆は運転席を降り、
助手席に追いやられた。