第7章 十、イレギュラーの後
航空券発売カウンターの夏帆は、
払戻しの処理にてこずっていた。
30分遅れの折り返し便の出発と入れ替りに
最終の到着便もほぼ定刻に到着し、
遅くまで応対していた係員たちも
夏帆と発券のリーダー、それと上司を残し
口々に労わりあいながら退社した。
なんとか処理を済ませ、
着替えてロッカーを出る頃には、
とうに23時を過ぎていた。
トイレに寄って帰る夏帆は、
発券リーダーとも別れ、
照明も落とされた建物内を
一人、トボトボ歩いていた。
はぁ、明日早番だよ、
今から帰って、24時前でしょ、
軽く食べて風呂入って、寝るの1時、
明日は6時から勤務だから、
5:15に家を出たら、ギリ遅刻は免れる。
4:45まで、ギリギリまで寝よう、
とすると、寝れるのは、3時間45分!
大きくため息をつきながら
夏帆が職員通用口から出ると、
雨はもう止んでいた。
すると通用口横の自動販売機の影に
動く物を感じ、驚いて立ち止まった。
「お疲れ様」
海だった。
「わー、ビックリするなー、もう!」
「驚かせてすみません」
「ホントもぅ! 何してるんですか?」
「明日、早番ですよね」
「そうですよ! さっき計算したら、
3時間45分しか寝れないんですよ」
そう言うと、夏帆はよろめいた。
それを海が抱き止めた。
「大丈夫ですか!」
「大丈夫」
一瞬、事態が飲み込めなかったが、
自分の状況を理解すると、
夏帆は海の腕から飛び出した。
「すみません! 興奮したらクラッと!
貧血っぽいです。目の前がぽやーっと…」
「大丈夫ですか、歩けますか?」
大丈夫、と言いながら、
フラフラ歩く夏帆の腕を、海が抱えた。
「そんなので運転なんて、危険過ぎる!
俺のホテル、すぐそこだから、休んで下さい!」
「そんなん、大丈夫よ…」
俺、襲いませんから、など海の声が遠くなり、
空港横のホテルへと夏帆は腕を抱えられて行った。