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 宿を出たヴィオとタッグはこれから必要と思われる物、今の装備よりも上の物を買うため店に向かう。

 ヴィオは歩きながら会ったときから気になっていることを聞く。

「フィスってなに? マスコットとか?」

 名前が出て呼ばれたと思ったフィスがヴィオを見る。そんなフィスの頭を撫でてやりながらタッグは答える。

「フィスは斧から生まれた精霊だ。

 俺みたいに武器から生まれた精霊を連れた者を精霊付きというんだ」

「武器から精霊が」

「条件さえ満たせば誰でも精霊付きになるぞ。

 条件ってのは一つの武器を大事に長く使うこと。フィスの場合は、三ヶ月以上この斧を使い続けたら生まれたんだ。

 生まれた精霊は祝福、契約、変化のいずれかの願い一つを叶えてくれる。祝福は武器の強化。契約は武器の使い手に同行する。変化はちょっと特殊だ。事前に補助スペースに属性玉を入れてた場合、その属性玉にそった精霊人化を起こす。属性玉ってのは武器に属性を持たせるアイテムで、精霊人ってのは自分の属性に対する耐久性を持った種族だ。炎の精霊人なら炎に強い。だが水に弱い。陰陽五行って知ってるか?」

「木火土金水ってやつだよね?」

「そうそれ。この世界の属性はそれだ。世界の並びもそれだ。違うのは中心に無のセントラルがあるってことか。

 属性玉をはめてないと属性は無になる。無の精霊人ってのはいないんだ。

 精霊人への外装変化は元々の外装がベースになる。例えば俺が炎の精霊人化してたら毛は朱色になり、体の一部分が燃えているって感じだな。

 ステータスとかが劇的に変わることはない。変わるのは属性に関する長所短所ができ、外装が変わり、行ける場所行きづらい場所ができる、そんなところだ」

 この話を聞いてヴィオはヴァサリアントで見た人は、水属性に精霊人化したエルフの姿なのかと納得した。

「いろいろあるんだ」

「開発者たちが気合いれた結果なんだろうなぁ。そのおかげで俺たちは楽しめてる」

「フィスってなにかできる? それとも可愛いマスコット的な存在?」

「ときどき魔法を使って援護してくれる。俺は魔法関連はからっきしだから助かってる」

 その言葉を理解したのか、フィスは小さな胸をえっへんと反らす。愛らしい姿にヴィオとタッグは思わず笑い声が出た。

 話しながら歩いて着いた店は、ポンポコ屋泡村支店という看板を掲げた店。

「このポンポコ屋は冒険の必需品を売ってるんだ。廃村じゃなきゃどんな小さな村にも支店を構えている。本店はセントラルにある」

「ポンポコ屋ってなんかカワイイ名前だねぇ」

「始めは黒狸亭っていう名前だったんだけどな、俺たちプレイヤーがあまりにポンポコ屋ポンポコ屋って言うもんだから改名したんだ」

「黒狸亭がなんでポンポコ屋に?」

「それは店に入ってみればわかる」

 ヴィオはタッグに促され店内に入る。そこにはNPCの従業員が一人いた。

 そのNPCを一目見てヴィオは納得した。突き出た腹を持ち、どこか狸を思わせる顔の従業員がいるのだ。服を茶色にして、獣耳をつければ昔話に出てくるような狸そのままだ。ポンポコ屋というのは彼を指す愛称なのだろう。親しまれていると判断したから運営側も改名したのだ。ちなみに従業員の名前はポポンだ。

「なんとなく理解できた」

「だろう?」

 納得したところで買い物だ。

「買うものは二つ。袋と持ち帰りの札。

 今持っている袋は始めにもらったものじゃないか?」

 ヴィオは頷く。

「その袋は収容数が三十までなんだ。今から買う袋はその倍入る。

 持ち帰りの札ってのは死んだときに、金と持ち物をなくさないようにするアイテムだ。これによってデスペナルティはステータス低下だけになる。注意しなければならないのは、この札は消費タイプのアイテムってことだ。一度死んで買い忘れる奴がいるから、気をつけとけよ」

「その二つの値段は?」

「袋が2000s、札が1000sだ」

「高っ!?」

「今のお前には高いだろうが、必要だし金のある今のうちに買っといたほうがいい」

 タッグに促され買い物を始める。開いたメニューウィンドウには今聞いたアイテムのほかにもいくつか値段の高いものが並ぶ。今から買うものが一番安いのだ。そのことにヴィオは軽く眩暈を感じる。

「この死なずの紅玉と職人の魂と職人の心ってのは?」

 この店で上から高い順に三つを指差し聞く。死なずの紅玉が3万sで職人の魂が10万sで職人の心が5万sだ。

「死なずの紅玉は所有者が死んだとき、身代わりになり割れるんだ。体力は半分まで回復し、デスペナルティも受けない。ただし常に一個しか持てない。

 職人の魂は熟練化の数を増やせる」

「ああ、これがそうなのか。説明受けたときにアイテム使えば増やせるって聞いたよ」

「職人の心はすでに熟練化しているものに、スキルを一つ付け足すことができる。これによって称号名が変わることある。無駄になることもあるがな。

 例えばマジシャンは魔法スキル二つに魔法知識魔法技術を取得すると熟練化するか聞いてくる。そして熟練化したあとに、魔法スキルもう一つ取ったとして、それを熟練化にくっつけるとソーサラーに変化するんだ」

「くっつけるのに制限は?」

「職人の魂と同じで回数制限がある。熟練化したものに二回までだ」

 説明を受けたのち、袋と持ち帰りの札を購入する。ウィンドウに三ポイント獲得と表示された。これについてもタッグは説明する。

「ポンポコ屋で買い物すると、1000sにつきポイントが一つ溜まっていく。これが50溜まるとどれか商品一つ三割引になるんだ。

 どこのポンポコ屋でもポイントは共通だ。あとこのポイントを使って、くじ引きができることがある。一等はレアものだったりするぞ。ここらへんは運営が経営している店だからできることだな」

 ここでの買い物を終え二人は、武具屋と道具屋に向かう。そこでヴィオは藤甲という藤でできた軽く丈夫な鎧、これは古代中国で使われていたものだ。同じく籐でできた兜、青銅製の剣を購入。隣にあった道具屋でポーション四つ、毒消し二つ、松明二つを購入。これで合計2000sだ。残り所持金は2500sとなる。もう少しレベルが上がると、鉄製のブロードソードが買える。残りの所持金の大半はそれに消える予定だ。革鎧と石剣は使い出してそれほど長くはないが売った。最初から装備していたビギナーズナイフとクロースは耐久度が無制限なので、念のためにとってある。

 これから扱っていく武器は剣にしようと決めたので、刃物スキルも取得した。熟練度が上がるたびに、スキルアーツを取得し、少しずつ攻撃力が上がっていくだろう。

「装備整えたし、村の中も見て回った。時間あるからちょっと外でエネミーと戦ってみるか? 買った物の使い勝手を確かめたいだろう?」

「危なくなったら助けてくれ」

「任せとけ、と言っても通常フィールドに強い敵はそうそういないけどな」

 二人は村入り口で装備を身にまとう。

「でっかい斧だなぁ。その斧からフィスが生まれたのか」

「ジャイアントアックスって名前だ。一目見て気に入った斧なんだ。これを買うために金貯めて、購入したあと金がすっからかんになって困ったのもいい思い出だ。買ってしばらくステータスの関係で使えなかったのもいい思い出だな」

 それは本当にいい思い出と言えるのだろうか。

 タッグが手に持つのは両刃の斧。全長二メートル弱。刃もぶ厚い金属で、いかにも重量級武器といった雰囲気をまとわせている。少しだけ装飾されているが、戦闘用といった感が強い。そんな重そうな斧をタッグは軽々と扱っている。振るうたび起きた風が周囲の木の葉を揺らし、ヴィオの頬を叩く。ヴィオが苦戦した青い狼を軽がると一撃で屠りそうだ。

 こんな強そうな人がそばにいるのだからヴィオは安心して力試しに臨むことができる。

 エネミーを探すとすぐにあの狼が現れた。

「スキルアーツ・速度増加」

 今度はスキルアーツを使うことを忘れず、戦い始める。新調した装備、スキルアーツのおかげで、四分の一ほどダメージを受けただけで倒すことができた。一度戦っていたということも楽だった要因の一つだろう。

「補助魔法スキル取ってたのか」

 戦闘を見守っていたタッグが話しかける。

「属性攻撃できるようになるんじゃないかって思って取ったら無駄だったよ。ビギナーズガーデン役所受付さんに教えてもらった」

「似たような話よく聞くな。店での値段交渉に有効とかと思って交渉スキルとったら、意味なかったとかな。

 まだまだ情報が出揃ってないからそんなこと起きるんだよなぁ。詳しい情報が公開されれば、もっとマシになるんだろうが」

 まだまだ調整中ということで、細かな情報は開発者たちが公開を止めていた。それでも個人で知りえたものをネット上で公開している人はいる。この情報が絶対正しいという保障はないが、そこを見ればスキルの勘違いは防ぐことが可能だ。しかしヴィオは楽しみが減るということで見ていなかった。

 このあともう一回戦い、現在の強さがだいたいつかめた。

「そうえばタッグってレベルいくつ?」

「おれか? 俺は二十八だ」

「どれくらいの強さ? ここらの敵は一撃っぽいってわかるんだけど」

「そうだな、ここらの敵なら十匹まとめてこられても苦戦はせんな。

 ウォルタガにはコルオルジオ氷窟って中級ダンジョンがあるんだが、そこのボスに一人で辿りつける程度か」

 ダンジョンには上中下の三ランクがある。下級ランクを一人で踏破するのにレベルは二十五ほど必要、中級は四十ほど、上級はいまだ踏破者がいない。あと一つセントラルにレカッセクー大迷宮という場所があるのだが、これは下層に行けば行くどランクが高くなる特殊ダンジョンだ。現在八十二階まで攻略されている。

 実際戦って見せた方が早いだろうと、タッグはエネミーを探す。みつかったのは木の上で警戒態勢のフクロウ。大きさが一メートル弱あり、爪は鋭く尖って掴んでいる枝に傷を入れている。

「ちょっとめんどいな。ヴィオお前がやるか?」

 鳥系エネミーは総じて素早い。斧は一撃威力が高い代わりに、小回りがきかない。タッグと鳥系エネミーの相性は悪いのだ。

「ごめんなさい! 鳥だけは勘弁! いやもうほんとに!」

 鳥をみつけた瞬間その場から素早く後退していたヴィオ。タッグの見立てではヴィオでも十分やりあえるのだが、この様子では戦うことすら不可能と考え自分でやることにした。せっかくだから派手に行こうとも考える。

「ヴィオ、そこから石を投げることくらいならできるか?」

「そ、それならなんとか〜」

「じゃあ地面にしゃがめば石がつかめる。それをあいつにむかって投げてくれ」

 石を投げて挑発すれば下りてくる。そこを叩くのだ。注文どおりヴィオは石を投げる。外れはしたが敵対していると認識させることに成功し、フクロウは枝から飛び立ち、石を投げたヴィオ目掛けて下りてくる。

「お前の相手は俺だぜ?」

 タッグは斧を構えたまま、逃げ腰なヴィオの前に移動する。

「クラスアーツ・スイングインパクト」

 唸りを上げて横に振られた斧がフクロウへと迫る。動作の大きさ故か外れてしまう。だがその余波に巻き込まれフクロウは飛翔から吹き飛ばされる形に変わり木に叩きつけられ地面に落ち、消えていった。

 使ったアーツは重戦士の称号を得ると取得できるクラスアーツ。体力の三分の一を使って放つ技で、命中した瞬間爆発したような音を出しエネミーを吹き飛ばすのだ。見たように余波だけでも雑魚を倒せてしまう。

「かっこつかねーな」

 タッグは外したことに苦笑いを浮かべ斧を肩に担ぐ。

「そんなことないよ! 十分強いってわかった!」

 自分だと何度か斬り合う必要がありそうなエネミーを余波だけで倒したのだ、この戦闘だけで十分強さがわかった。

「いつか当てたとこを見せるから楽しみにしといてくれ」

「楽しみにしとく」

 二人はここらで練習は十分だと考え村に戻ろうと来た道を歩く。その途中で馬に乗った女に出会う。

 その女のことをタッグは知っているらしく片手を上げて挨拶する。ヴィオもその女に見覚えがあった。クレープを作っていた料理人だ。

「大きな音がしたからなにかと思ったらタッグさんが原因?」

 馬から下りて話しかけてくる。

「スイングインパクト使ったんだよ」

「音からして、たぶんそうだとは思ったけど。ここらであれ使うほどのエネミーっていないよね?」

「ヴィオにレベル二十八の実力を見せていたんだ」

「ヴィオって新人さんの名前でしょ? この子がそうだったのね」

 顔見知りといった反応を見せる女にタッグは意外そうな表情を浮かべた。

「なんだ? 知ってるのか?」

「ヴァサリアントで私の料理買ってくれたのよ」

 縁ってのはあるんだなとタッグは感心している。

「クレープ美味しかったです」

「ありがとう。

 私はルー。料理人でブラーゼフロイントのギルドメンバーよ。これからよろしくね」

「はい。こちらこそ」 

 差し出された手を握り返答する。

 三人が宿に戻ると、出て行ったときよりも人数が増えていた。

 宿に帰ってきて一時間経ちパーティの準備が終わる。来ることは無理だと連絡が会った人三名とログインしていないらしい二名を除いて、合計十一人が部屋にいる。

 皆は思い思いの場所に座り、その前にヴィオが立ち短い自己紹介をする。歓迎の拍手が贈られた。そのあとは騒ぐ、ルーが中心となって作った料理を食べ、酒も振舞われ、誰かが楽器を弾いている音もする。

 楽しげな宴会はヴィオたち朝からログインしていた者たちが、中断しなければいけないときまで続いた。


 ヴィオは楽しい日々を送り出す。ギルドの誰かと一緒にエネミー討伐に向かったり、ダンジョンの浅い階層に連れて行ってもらったり、世界最強と名高い千鱗の色龍と呼ばれるボスエネミーに死にツアーをしてみたり、一人で依頼を受けてみたり。

 その過程で会ったことのないギルドメンバーと顔合わせすることができ、親交も深めることができた。アイオールと外でも知り合いだということに嫉妬を抱かれもしたが、概ね問題はない。嫉妬を抱いた二人もアイオールの迷惑になるようなことは嫌うからだ。

 ギルドに加入して一週間でレベルは十に達した。そこからさらに上げるためには条件がある。依頼を一つでも受けて達成していなければいけないのだ。これについてはヴィオは問題なかった。すでに三つ依頼を受けて達成していたからだ。こういった条件はレベル三十、六十、百といった箇所にも設けられている。レベルが高くなるほど、条件も厳しくなる。条件を満たせない限り、いくら敵と戦い、生産を成功させてもレベルは上がらない。

 レベルが上がることでステータス以外に変わることがある。それは熟練度の上限が変わってくることだ。基本的に熟練度は100で頭打ちだ。だが熟練化すると200まで上がるように例外がある。こういった例外はほかにもあって、それがスキルへの資質。人間誰しもなんらかに素質がある、という言葉を実現しているのだ。

 資質には、平凡、秀才、天才、天然の四つがある。平凡は誰もが当たり前のように持つ資質だ。秀才と天才もまた同じ。一人につき秀才は五つ、天才は三つの資質がスキルにランダムに振り分けられている。天然は与えられている人がすごく少ない。千人に一人以下の割合だ。

 平凡は熟練度100まで上がる状態を指す。秀才は250まで上がり、天才は300まで。天然は上限なしだ。

 熟練度の成長速度にも違いが出てくる。平凡と天然は同じ成長速度で、秀才と天才は早い。ただし平凡と秀才と天才の三つは、該当するスキルを使って熟練度を成長させるのだが、天然は該当するスキルを使わずとも常に成長する。スキルポイントを振り分けないと成長を始めないという点は皆同じ。

 レベルによる熟練度の上限の変化は、レベル十までは熟練度も100までしか上がらない。レベル二十までは熟練度200、レベル三十で300。レベル三十以上は制限なしとなる。

 レベルが十一となったヴィオも熟練度の上限が上がった。それにより基本スキルである会話の熟練度が上がり始めたのだった。ウィンドウが突然開き『会話スキル熟練度100オーバー。会話制限一部解除』という文字が浮かんだときに、資質についての説明を受けた。

 三つの資質のうちどれかということも問いかけてみたが、それは誰にもわからなかった。成長速度で違いが出てくるのだが、会話スキルは常に使うものでかつ、基本スキルは成長が早めなのだ。そんなスキルの成長速度を計ることは難しい。結論はレベル三十になれば天才か秀才かはわかるだろうといったものだった。天然スキルはありえないと誰もが言った。


 そんな楽しかったり騒がしかったりするゲーム内の日常をヴィオだけでなく、多くの者が過ごしていく。

 しかし日常を破壊するカウントダウンはすでに始まっていた。

 カウント0は夏祭りイベントの日だ。花火が上がっているときそれは起きた。皆等しくそれを感じた。


 その日、六つの世界は変わった。

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