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ビギナーズガーデン

 ところどころに浮かんだ雲と星空、わりと近くに見える月明かりに反射する海、簡単な柵で囲まれた村、舗装されていない地面、黄土色のレンガで造られた家屋、道を行きかう現代風とは言えない服装の人々、そしてヴィオと似た感じの人が少し。

 これが転送したヴィオの目に飛び込んできた風景だ。

 夜? という疑問が湧くが、それを気にするよりもやっと遊ぶことができるんだという興奮に心臓の鼓動が早くなり、気にならなくなった。さっそく村の中を歩き回ってみようと第一歩を踏み出したヴィオに声がかけられる。

「こんにちはー」

 声のした方向を見ると、淡いレモン色のノースリーブワンピースを着ている少女が立っていた。

 ファンタジー風な容姿のヴィオと違い、その少女は現代風な容姿だ。背中まである艶やかな黒髪は風に揺れ、にきびやしみ一つない日焼けしていない肌は夜闇の中にあって白く眩しい、小ぶりな唇は笑みをかたどり、黒茶の目は真っ直ぐヴィオをみつめている。なんとなく活発的な雰囲気を感じた。誰もが美少女と認める容姿だ。

「こ、こんにちは」

 普段、男友達と馬鹿やっていることが多いヴィオは、女と話しなれていない。ましてや相手は可愛い子、少し緊張してしまう。事務的な話ならば緊張はしないだろうが、ただの会話となるとそうはいかない。

「な、なにか用事?」

「特に用事はないんだ。

 ただ少し話し相手になってもらえないかなって?」

「話し相手?

 それなら俺じゃなくてもいいと思うんだ」

 今もちらほらとプレイヤーが歩いているのが見える。

「ここで少し休憩していたら、たまたま君がやってきたんだ。

 それでちょうどいいかなって」

「タイミングがよかっただけか」

「そうそう」

「この世界のことを教えてくれるならいいよ」

「それくらいお安い御用だよ。

 じゃあ座って座って」

 少女は少し移動して座り、隣をポンポンと叩く。

 二人が座っているのは、石造りの円形の台座の端だ。

 アヤネと名乗った少女によると、この台座は第一歩の石床と呼ばれるものらしい。誰もがここから歩みだし世界へと旅立つので、こういった名前になったのだという。

 二人は何気ないことを話していく。主にアヤネが喋り、それについてヴィオが感想を言うといった形だが、楽しそうだった。

 話の内容はこの世界のことだ。システム的なことではなく、アヤネが見てきたこと感じたことなどだ。

「それでね、セントラルにあるドンドコ亭っていうお店の煮込みハンバーグがすごく美味しかったの」

「いつか行ってみたいなぁ」

「すごく人気のあるお店だから食べるのに苦労するかも」

「そこはNPCが経営してるの?」

「ううん、レックスさんっていうプレイヤーさんが経営してる。

 はじめは露店で売ってたらしいんだけど人気がすごくてね、料理を買うために集まった人の整理が大変だったんだって。そこで管理者側がNPC従業員つきのレストランを格安で譲ったんだ。

 お店の中なら空間をいじって収容人数を増やすことができるから、以前のような混乱はなくなったんだってさ」

 建物を格安で売ったのは問題解決のほかに、のちのち土地建物も買えるようになるというデモンストレーションも兼ねていたのだろう。世界各地にある誰もいない建物はそのためのものなのだろうと、プレイヤーたちは予想していた。

「豪勢な話だ。そうなるとレックスさんは料理作りに忙しいそうだね」

「調理のスキルアーツで作る速度上げているから忙しすぎるってほどでもないらしいよ」

 それでも毎日作り続けるのは飽きるらしく、週二日しか腕をふるわない。

 レックス曰く『俺は料理するためにこっちにきてるんじゃない! 遊ぶためにきてるんだ!』とのこと。当然の主張だろう。

 レックスがいない間は、NPCの料理人がレックスを真似た料理を出しているが、レックスには及ばない。それでもそこそこ美味しかったりする。

「そんなスキルアーツまであるのか」

「スキルアーツやクラスアーツはほんと多いから。

 この村の役所に初歩的なスキルやアーツが書かれた本があるから、時間があったら見るといいよ」

「そうする。

 あ、空が白み始めた。

 そういや外だとまだ昼頃なのにこっちだと時間の流れが違うんだね?」

 濃紺の空にすごく薄い白の絵の具を何度も重ねて塗るような感じで、空が少しずつ明るくなっていく。

「まったく違うってわけじゃないんだよ。こっちでは一日に二回日が昇る。十二時間で一周。そろそろ二回目の日の出ってことだね」

「なんでそんなことに?」

「夜だけのイベントとかあるんだ。でも時間の都合がつかなくて、参加できないなんてことがある。そんな人たちの都合に合わせるため、こっちだと夜が二回あるんだとか」

 休憩には少し長い時間が過ぎたことに気づいたのだろう。アヤネは立ち上がる。

「ついつい話し込んじゃった。ごめんね?」

「面白い話を聞けたから気にしなくていいよ」

「そう? ありがとう。

 じゃあ、私は行くね?」

「またいつか」

「うん。また会おうね」

 軽く手を振ってアヤネは走り去っていく。その姿はすぐに家屋に遮られて見えなくなった。

 再開を約束した二人は、約束どおりまた会うことになる。それにはわりと長い時間を必要とし、予想もしない形で予想もしない場所での再会となる。


「俺も行くかな」

 つい汚れてもいないズボンを叩きヴィオも動き出す。

 すぐ近くに村と周辺の見取り図が張られた看板があったので確認しておく。

 主な施設は四つ。管理者たちがいる役所。武器防具道具などを売っている雑貨屋。宿屋。軽食屋。ほかは休憩所だったり畑だったり厩舎だったりだ。

 だいたいの位置を覚え、とりあえず村を一周することにした。

 軽食屋を覗き、宿屋で記録して、次に雑貨屋へと行こうとした時、突然目の前にウィンドウが開いた。

『運動スキル熟練度60到達。

 スキルアーツ・ダッシュ習得』

 と書かれている。

「動き回ったから熟練度が上がったのか」

 確認してみようとステータスウィンドウを呼び出す。

 アーツの項目に触れると、常時発動の枠内にダッシュと書かれていた。その隣にはジャンプもある。

 ヴィオの指がダッシュの項目に触れる。

『走ることができます。

 走り続けることの出来る距離は体力×20メートル。全力疾走は体力×5メートル。

 走破可能距離を超えると、十五分間走れなくなります。走ることをやめ二十分経つと、蓄積走破距離はリセットされます。

 走り出すと進んだ距離を示すウィンドウが開きます』

 読んだあとついでにジャンプの項目にも触れてみた。

『跳ねることができます。助走をつけて跳ねるとより高く、長く滞空できます』

「ジャンプはなにも特別なことはないんだ」

 そう言ってその場で跳ねてみる。外で跳ねたときと同じような高さまで上がった。

 次に走り出す。始めはゆっくりと、次第に早く。ある一定の速度に達すると、距離を示すウィンドウに全力疾走の文字が浮かんだ。

「なるほどなるほどって雑貨屋通り過ぎてる!?」

 確認することに集中して、雑貨屋のそばを通ったことに気づかなかったらしい。

 同じような失敗をした人はこれまでに何人もいた。そうとは知らないヴィオは恥ずかしそうにしながら雑貨屋へと道を戻る。

「いらっしゃい」

 店に入ったNPCの店員がヴィオに声をかけてくる。

 ヴィオの目の前にウィンドウが開く。買う、売る、修理、話すの四択だ。

 ウィンドウから目を離し店内を見る。左の壁には盾や武器がかけられ、右には革製の鎧を身につけたマネキンが置かれている。カウンターにはガラスケースがあり、そこに説明を受けたときに飲んだポーションや見知らぬアイテムがあった。

 ヴィオを売るを選択する。ウィンドウは空白のものに変わる。

「なにを売るんだい? 売るものを出してウィンドウに触れさせてくれ」

「報酬の玉一つアウト」

 手の中に殴られ君との戦闘で得た報酬の玉が現れる。

「これを」

 そう言ってウィンドウに触れさせると、報酬の玉が消えウィンドウに『報酬の玉一つ 500s』という文字が浮かんだ。

「これなら500sで買い取るよ。これでいいか?」

 イエスorノーの選択肢が現れた。イエスに触れる。

「あんがとよ。金は振り込まれているはずだ。確認してくれ」

 ステータスウィンドウを開くとたしかにお金が増えている。

「ほかになにか用事はあるか?

 ついでにいうとウィンドウに触れなくとも、口頭で選択できるんだぜ?」

「ちょっ!? もっと早く言ってくれっ。

 ったく。買い物をしたい」

 ウィンドウが開く。武器、防具、装飾品、道具の四つの項目がある。

「どうしようっか……まずは見てみるか。武器選択っと」

 ずらりと武器名が並ぶ。木製の武器が少しあり、あとはすべて石製の武器だ。だいたいの値段は50sから200sの間だ。大石槌と石斧と大石斧という武器が黒文字で書かれている。項目に触れてみると、装備するには力が足りませんとウィンドウがでた。

 次に防具。こちらは木製の盾と木製の大盾、革製の衣服、重ねた革製の衣服、革を固めた鎧があり、値段は50sから250sの間だ。木製の大盾も黒文字で書かれている。確認してみるとこれも力が足りないようだ。

 ここにある武具はどれも今装備しているものよりも、少しだけ性能がいい。数値にして装備しているものはオール1、ここにあるものは2と3だ。

 装飾品には、バンダナと革製の靴があり、両者ともに30sだ。こちらの防御力はともに1だ。

 道具にはポーションと毒消しと松明と小さな袋があり、四つとも50sだ。

「この小袋ってなに?」

「これは道標の粉っていってダンジョンに入ったとき使うと、歩いた道に白い粉がまかれるんだ。

 この粉は使った者にしか見えないから、ほかの冒険者が使った粉と混ざるなんてことはない。

 分量は三キロメートル分だ。使うのをやめたいときは、ボックスイン道標の粉と言えばいい」

「便利そうだけど、今はいらないなぁ。

 ……木製の盾一つ、ポーション二つ、松明一つ。これでおしまい」

 ウィンドウに言った品物が並んでいく。

「合計で200sになる。これでいいか?」

「うん」

「品物は袋に入れといたぜ。金ももらった。

 ほかに何か用事はあるか?」

「ない」

「ここで買った品物の耐久度が減ったとき、ここに持ってくれば格安で修理するぜ。

 また来てくんな!」

 買い物を終えたヴィオは雑貨屋の外へと出る。

 買ったものを確認するためウィンドウを開く。

 ポーションはすでに知っているので確認する必要はなく、松明は一時間明かりを灯すだけ。

 盾を袋から出す。ずっしりとした重さでナイフよりも重い。重いということは、中身スカスカではないということか。丸く切られた一枚板で、大きさは縦横二十センチに満たない。革で円周部分を縁取り、固定するため鋲が打ちつけられている。手に持つタイプではなく、腕に装着するタイプのようで裏にベルトが二箇所についている。

 ベルト巻くのは自分でするのかと、少し面倒に思って腕に持っていくと勝手にベルトが巻きついた。腕を振ってもしっかり固定されていてぐらつくことはない。

「外すときはどうするんだろう?」

 ベルトに手を持っていくと『外しますか? イエスorノー』という選択肢が出る。

 村の中では外しておこうとイエスと選び、袋にしまう。

「次は……役所でスキル確認しようかね」

 村で一番大きな建物へと向かう。大きいといっても平屋で、村の中の建物で比較的大きいというだけだ。


 玄関から入ってすぐに暇そうな受付を発見する。

「すいません」

「……っ!?

 暇すぎて寝るとこだった。

 あーえっといらっしゃい。なにか用事?」

 軽く頬を叩いてヴィオに話しかける。

「ここにスキルについて書かれた本があるって聞いたんですけど」

「本? あるある。あっちに本棚があるよね?

 あそこの本棚に触れると、リストが出てくるよ。

 でも珍しいね、本を見たいって来る人なかなかいなんだよ」

「そうなんですか?

 俺はここに本があるから見てみるといいよって聞いたんですよ」

 受付は驚いた顔になる。

「そんなこと言う人がいたんだねぇ。

 ここに来る人の用事って、大抵がビギナーズガーデンから出て行くためだからね」

「ここに転送装置があるんですか?」

「うん。レベルが五になったら移動許可が出るんだよ。

 ここからセントラル、ノースウッド、ウォルタガ、フレムオン、メタリアナ、アスダーンの六つの世界のどれかにいけるんだ」

「雑誌でそんな名前の世界があるって読んだことある」

「どんな場所かは実際行ってみるといいよ」

「楽しみにしてます。

 じゃあ本見てきます」

「ごゆっくりー」

 ひらひらと手を振り受付はヴィオを見送った。

 ヴィオは本棚に触れ、リストを呼ぶ。世界略史、世界地理本、クラス本、アーツ本に混ざって目的のスキル本がある。

 スキル本という項目に触れて、出てきたウィンドウを読み始める。基礎編と書かれているだけあって多くの分量はなく、十五分もあれば読み終えることができた。

 ウィンドウを消すと、『スキルが追加されました』という別のウィンドウが開いて、すぐに消えた。

「なにかスキル取ろうかどうしよか」

「なに悩んでるの?」

 よほど暇なのか受付が持ち場を離れてヴィオに声をかける。

「カウンターにいなくて大丈夫なんですか?」

「大丈夫大丈夫。すぐ近くだから誰かきたらわかる。

 それでどした?」

「スキル取ろうかどうか迷ってて」

「あー迷うよね。このゲームの楽しみの一つだし。よくわかる。

 俺も迷ったもんだ」

「管理者さんも遊んでるんですか?」

「俺もこういったゲームを楽しみにしていた人間の一人だからね」

「外装はそのままってことは、ないかさすがに」

「このままだったらちょっとまずいからね。

 この外装は仕事用のもので、遊ぶ用は別に用意してある」

「だとすると仕事と遊びでずっとこっちにきてるってことになるような?

 健康上の問題で八時間がいられる限度とか聞いたんですけど」

「この体は君たち冒険者用と違って、簡略化されてるんだ。味を感じることはないし、痛覚もない。感覚が鈍い。パーティを組むこともできないし、戦闘も無理。イクカワ式の長所がわざと消されてる。だから体にかかる負担は少なくてすむ。

 それでも負担がまったくのゼロってわけにもいかなんだけどね。

 君たちのように遊ぶ時間が八時間ってのは無理。その半分くらい」

「なるほど。

 ……楽しめますか? シナリオとか知ってて面白みが減るんじゃ?」

「俺はシナリオ関連は知らないから、楽しめてるよ。

 ホワイトヒストリーのシナリオを知ってる奴もいるけど、そういった奴はファンタズムアニマルとかサウザンドウォーとか遊んでるし。

 それでスキルのことだっけ。俺の意見だともう少し様子を見てから取得してみたらどうだって思う。説明受けたと思うけど、スキルポイントはそれほど多く入手できないからね」

「そうですか。取得は後回しにします。

 先にレベルを上げてきます」

「それがいいかもね。村の外に出る前に宿屋で記録しといたほうがいいよ」

「それはしてます」

「いらぬお世話ってやつだね。

 村周囲のエネミーなら苦戦はしないから大丈夫だよ。でも浜辺や森の中はレベル四くらいまで上げて、防具を整えてからじゃないと危ないから」

「情報ありがとうございます。

 ちょっと行ってきます」

「行ってらっしゃい」


 村から出る前にナイフと盾を装備して、戦闘準備を整える。

 村周囲の敵ならば大丈夫だとは聞いていたが、それでも少しは緊張する。

「敵はどこかな」

 すっかり明るくなった回りを見渡すと、十メートル先に緑の物体が出現した。

 浮かび苔という名のエネミーだ。もっともプレイヤーたちには、その見た目からマリモと呼ばれることが多い。

 浮かび苔はなにをするでもなく、そのままふよふよと浮き続けている。

「これ敵だよな?」

 盾を前にして少しずつ近づくと、浮かび苔もヴィオに気づき動いた。勢いよく縦回転しながら体当たりしてくる。

 構えていた盾にぶつかる。殴られ君の体当たりの時と同じように体全体に小さな振動を感じた。体力ゲージも少しだけ減っている、数値にして四。

「殴られ君よりも弱いのか。たしかにこれなら大丈夫だ」

 今度はこっちの番だとナイフを突き出す。この一撃では倒せず、もう一度浮かび苔の攻撃をくらい、またナイフで斬り倒すことができた。

 浮かび苔が消え、代わりに掌よりも小さな苔の塊が現れる。

 拾い上げ調べてみる。売り専用のアイテムだとわかった。ほかにも使い道があるのかもしれないが、今のヴィオには売ることができるだけとしかわからない。

 このあと三回戦闘を繰り返す。戦ううちに浮かび苔の攻撃タイミングを見切れるようになり、かわすことができるようになった。体当たりの速度はそれなりに速いが、直線にしか攻撃できず、攻撃の前に回転しようとするのでそこに気をつけていれば避けることが可能なのだ。

 エネミーはアイテムを必ず落とすというわけではないこともわかった。

 そして四匹目を倒すと、レベルアップした。

 ステータスを確認すると、能力値がすべて1上がり、体力は68へ、技力は69へと上がっていた。スキルポイントの追加はない。

 レベルが上がったことで戦闘が楽になり、浮かび苔を一方的に攻撃できるようになる。さらに十五匹ほど倒すとレベルが四へと上がる。このレベルアップで浮かび苔を一撃で倒せるようになった。

「なんだか疲れたな」

 肉体的なものではなく、気疲れに近い疲労を感じ、村に戻り休憩することにした。遊びとはいえ臨場感ある戦いに緊張したのだろう。挙動観察などに集中してもいたのだ、そこからも疲れがきているのだろう。

 村に入り盾を外し、ナイフをしまったときに気づいたことだが、装備していたそれらが少し軽くなっていた。レベルアップにより力が上がったことで、重いものを楽に持てるようになっていたのだ。

 雑貨屋で一つ20sだった苔の塊をすべて売り280s手に入れる。

 木製の盾の耐久度が減っていたが、百から九十へと減っていただけなので修理はしなかった。

 石斧が装備できるようになっていたがそれは買わず、100sの石剣を買い、雑貨屋をあとにした。これで残りの所持金は480s。

 時間を見てみるとまだ一時間三十分ほど時間がある。

「軽食屋に行ってそこでのんびりしよ」

 軽食屋に入ると何人かのプレイヤーが話していたり、食べていたりしている。

 注文とかどうするのかと思っていると、入り口近くの看板に『座席に備え付けられているメニューに触れるとウィンドウが出るので食べたい物に選んでください』と書かれていた。

 空いている椅子に座り、メニュー触れサンドウィッチセットを頼む。店の中を眺め二分ほど経った頃、ウェイトレスがトレイにサンドウィッチとコーヒーとクッキーを載せ持ってきた。

「お待たせしました。ごゆっくりどうぞ」

「食べ終わったら食器はどうしたら?」

「そのままで結構です。食べ物などがなくなると皿は消えますから」

「ありがと」

「いえ」

 一礼しウェイトレスは去っていった。

 プレイヤーたちの話し声に耳を傾けつつ、のんびりと飲み食いしていく。味は薄いが、不味くはない。

 三十分ほどまったり過ごしていると、窓から見える空がほのかに赤く染まり始めていた。

「今日は帰ろ」

 脳内に夕焼けの歌が流れていた。

 ありがとうございましたという従業員の声を背に宿に向かう。

 宿で中断するという選択肢を選らんだヴィオの視界が黒く染まり始め、意識も遠のいていった。

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