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困ったときの管理者頼み

 占い師のいる宿から出た一行は、アイオールに先導されながら占い師から得た情報を聞いていく。

 裏市のようなものがあると聞いて驚き、人身販売がされていると聞いて憤り、必要資金の多さに焦りを覚え、チカを取り戻す準備時間が一日しかないと聞いて焦りが増した。助けるのは無理ではないかという思いも少し湧き始めていた。

「アイオールさんには、なにか考えがあるんですか?」

 急ぐように先頭を行くアイオールにミゼルが問う。アイオールは振り返らず答える。

「管理者を巻き込もうと思ってる。チカは管理者の子供だろう? 危害が加えられる可能性があると知ったら黙ってはいられないと考えてる。

 それと私たちには厳しい必要資金も、管理者なら簡単に用意できると思う。協力が得られれば正攻法でチカを取り返すことすら可能よ」

「いい考えなんだろうが、そう簡単に協力得られるのだろうか?」

 コールとしては管理者が動いてくれるか半信半疑なのだろう。

「管理者としてもバグや人身販売は見逃せないだろうし、動かないなんてことはないでしょうよ」

「その理由だと動きそうですね」

 セバスターがうんうんと頷く。

「このあと私は管理者に会いにグランドセオに行くわ。

 あなたたちはみんなを集めて、泡村で休んでて。集めたメンバーには今話したことを言っといて」

「ついていかなくて大丈夫?」

 ヴィオが聞く。

「大丈夫よ。むこうにはタッグとルーがいるわ。それに占い師から聞いた話するには直接聞いたヴィオがいないと」

「あ、そっか」

 転送門にたどり着いた一行は、グランドセオへと向かうアイオールを見送る。

「ヴィオとアヤネは先に帰っててくれ、俺たちは皆を集めてくる」

「ウォルタガ中に散らばってるんでしょ、大変じゃないか? 俺たちも手伝ったほうが」

「朝六時になったら一度泡村に帰るようになってるから、そこまで苦労はしない。集められる者だけ集めようと思ってる。きりのいいところで帰るつもりだ」

 セバスターとミゼルも同意見のようで頷いている。

 帰還時間を決めているのなら迎えに行かなくともいいのではないかとヴィオは思うが、なにかをせずにいられないのだろうと思い直す。

「じゃあ言葉に甘えて、先に帰らせてもらうよ」

「お先に失礼します」

 ヴィオとアヤネと銀丸は泡村へと帰るために転送門をくぐる。

 その場に残った三人はメンバーを探すために、仲間がいると思われる場所へと転送門を使い移動した。


 泡村へと続く道を二人と一匹が歩いている。時刻はすでに午前1時を回っている。日が昇ったばかりで歩くことに不便は感じない。

 小さく欠伸をかみ締めるヴィオ。日は昇っていてもいつもならばすでに寝ている時間だ。閉じ込められてからすっかり早寝早起きの生活となっている。夜更かししても大抵は0時前には寝ている。そこまで起きていてもすることがないのだ。

「久しぶりに午前1時まで起きてるな」

「そうだね」

「アヤネは眠くない?」

「そこまで眠気は感じてないかな」

「夜に強いんだなぁ。銀丸もそこまで眠くなさそうだな」

「ウォンっ」

 名前に反応した銀丸の頭をヴィオがなでた。

「チカちゃん、無事に助けたいね」

「皆動いてるし助けられないとは思えないな。管理者の協力も得られそうだし、大丈夫って思いが湧き上がってる」

「そうだね。皆の協力があるから安心だね」

 アヤネの表情に笑みが浮かぶ。

 さらに歩き続け、泡村が見えてきた。

 宿にはメンバーの一人、男の商人ルドルが落ち着かない様子で待っていた。

 ヴィオとアヤネが宿に入るとすぐに気づき、近づいてくる。

「おかえりっ」

「ただいまです」

「リーダーとかは一緒じゃないのか?」

「アイオールさんは用事のためグランドセオへ、ほかの人はウォルタガに散らばっているメンバーを探しに行ってます」

「用事ってのはチカ関連?」

「ですね」

 ヴィオは簡単に事情を話す。

 少しでも事情がわかりルドルは落ち着きを取り戻す。

 三人で話し合い、皆が帰ってくるまで交代で起きていることにした。けれども皆集合時間まで探し続けたのか、六時をすぎないと帰ってこなかった。中でもコールは大幅に集合時間を過ぎ、九時をすぎて泡村に帰ってきた。

 遅すぎることに疑問を覚え、こんな時間になったことを聞くと、コールなりに裏市のことを調べていたからだという返答が返ってきたのだった。


 一人グランドセオにきたアイオールは真っ直ぐバッフェンスト城へと足早に歩く。

 歩きながらウィンドウを開き、タッグたちに連絡をとるとまだ城にいるようだ。

 見えてきた城門にルーが立っている。

「管理者たちが話しを聞きたいって、ついてきて」

「好都合ね」

 ペースを落とさず二人は歩き、以前バフのことを聞きにきた部屋に向かう。

「管理者たちにはどこまで話した? その結果どうなった?」

「話すって言っても、チカがさらわれたってことくらいよ。あとは仲間がウォルタガ中を探し回ってるってこと、占い師にどこにいるか探してもらおうとしてること。

 そういえば占い師はみつかった?」

「みつかったわ。チカの居場所も聞けた。詳しくは管理者と会ったときに話すわ」

 チカがみつかったと聞いてルーは安心したように笑顔を浮かべた。しかしいまだアイオールが厳しい表情であることに気づき、すぐに笑みは消える。

 目的の部屋の前にタッグが立っている。歩いてくる二人に気づくと、タッグは片手を上げてから先に部屋に入る。

 部屋の中には、バフと以前話した管理者がいた。タッグとルーはすでに自己紹介をすませており、管理者の名前がレヤアだと聞き出していた。

「バフ、久しぶり」

「うむ。元気そうでなによりじゃ」

「バフもね」

「すでにタッグさんたちには名乗りましたが、もう一度名乗らせてもらいます。私はレヤアと言います」

「レヤアさんですね。よろしくお願いします」

 頭を下げるアイオールにレヤアも頭を下げ返す。

「こちらそこ。

 早速ですが話にうつらせてもらってもいいですか?」

「ええ。そのために来たのですから。新たに得た情報も話します」

「助かります。

 斉藤さんの娘チカちゃんがさらわれたと聞いたんですが、なにか進展はありましたか?」

「はい。居場所がわかりました。取り戻すために協力を得たいのですが」

「喜んでと言いたいとろこですが、私たちも手伝えることはそう多くはないというのが現状でして」

「皆、日々の作業で疲れておる。それに彼らの偽体は荒事にはむいておらん」

「そうなの……本当は戦闘になった場合の手伝いも頼みたかったのだけど、それは無理と考えていいのね?」

 バフとレヤアは頷く。

「戦ったあとで大人しくなった者たちを隔離施設に送ることはできるが、戦闘はできるようになっておらんのじゃよ管理者の偽体は。死にはせんが傷つけられれば痛い、攻撃手段も持っておらん」

 管理者の偽体のことを軽く説明する。

 管理者で戦えるのは、バフのように冒険用の偽体を使っていて休暇中に閉じ込められた管理者のみだ。そしてそういう管理者は五人ほどしかいなかった。

「となると真正面から取り戻したほうが安全にことを運べるのね」

「チカちゃんの現状を教えてもらえないでしょうか?」

「えっとね、今はノースウッドの小鬼の森にいるらしいわ。そこで裏市が行われていて、人身販売も行われているんだと。

 チカは明後日くらいのオークションに出される予定」

「人身販売が小鬼の森で行われているのは本当ですか!?」

 レヤアとバフが真剣な表情でアイオールを見ている。タッグやルーもそんなことが行われると聞いて驚いているが、管理者たちの驚きはタッグたちの比ではない。

 その勢いにアイオールは若干身を引く。

「ほ、本当よ。オクトールっていう占い師が実際にさそわれたらしいし。

 管理者たちは人身販売のこと知ってたの?」

「はい。知ってはいました。いつごろからかNPCがいなくなるということが起きていたんです。そのことを調査しているうちに、噂を掴みました」

「だがの、連中は上手く隠れているようでわしらにはそれ以上の情報を掴むことができなかったのじゃよ。

 おそらくNPCだけではなくプレイヤーの中にも被害は出ているだろうと話し合ってはいたんじゃが、情報がなくては動きようがなくての。

 そうしているうちにチカがさらわれるという事態になってしもうた」

 情報を掴めないのは裏市関係者が上手く情報を規制できているからでもあるが、ゲーム総統括人工AIが管理者から隠しているおかげでもある。そのことを裏市関係者と管理者は気づいていないが。

「ですが! これで奴らを捕らえることができます!

 必要なことを言ってくださいっ多少の無茶ならどうにかできます!」

「ちょっと不謹慎かもしれないけど聞いてもいい?」 

 ルーがおずおずとレヤアに問いかける。

「人身販売って言っても、当初はさらわれて売られたのはNPCばかりだと思うんだ。NPCなら代わりにいるし、そこまで気にすることなかったんじゃない?」

「たしかに代わりはいます。ですがなんというか、変だと思われるかもしれませんが、私たち管理者の多くは自分たちが作り上げてきたキャラクターを子供のように感じています。その子供たちがさらわれ好き勝手されていると思うと怒りが湧いてくるのですよ」

「わしもNPCの挙動が正常か調査に行くと、返事がないとわかってもつい話しかけてしまう。そういうことが自然とできるほど彼らに愛着を持っておるのじゃ」

「子供か……それなら我慢ならんのもなんとなくわかるな」

「タッグ、子供いるの?」

 興味と驚きをわずかに滲ませたルー。

「いないさ、だからなんとなくって言ったろ」

「これから動くにあたっての行動方針はどうなっておるのかの?」

「チカを取り戻すだけなら、オークションに参加して競り落とすって方向になるわね。

 そのための資金をそちらで用意してもらえないかって思っているわ。

 あとオークションに参加するのはヴィオとアヤネの予定」

 勝手にヴィオたちの参加を決めているが、これは仕方のないことだった。なぜならアイオールたちは、それなりに顔が知られている。裏市に参加できるコネがないことも知られているかもしれないのだ。それなのに参加しているとばれると、裏があると思われチカ救出どころではなくなってしまう可能性がある。変装術で一時的に顔を変えることはできるが、誰もそのスキルを持っておらず。スキルポイントを消費して取得してもスキルレベルの低い変装は違和感が残る。

 だからもっとも遅くギルドに参加し、顔が知られていないだろう二人を送り込む。もちろん知られている可能性も考え、裏市の近くにいつでも突入できるようにブラーゼフロイント全員を配置しておく。常にウィンドウでの情報交換もする。

「そうですか……決めました。今回私たちは情報収集のみとしましょう。こちらからも誰か一緒に、いえ私が内部調査に出向いて顔ぶれを確かめるとしましょうか。

 そして十分に情報を集めたところでプレイヤーキラー討伐戦と同じように、包囲して一網打尽に」

 レヤアの中でこれからの行動方針が決まったようだ。

「一緒に行くって聞こえたけど、大丈夫なの? あっちに顔が知られてない?」

 プレイヤーを集めての報告会にレヤアは顔を出したことがある。そこから管理者だと知られている可能性が高いと考えたアイオールが問う。

「偽体のカスタマイズはできますから大丈夫ですよ。髪の色を変えて、身長を変えて、メガネをかければ印象は変わります」

 これは管理者の偽体のみに有効で、プレイヤーの偽体に手を出すことはできない。

「ならいいんだけど。

 それで資金なんだけど、だしてもらえるのかしら? 正直こっちは裏市に参加するだけで精一杯なのよ」

「大丈夫じゃよ。それくらいならちょっとデータ改竄すればいいだけの話じゃ。億単位でも兆単位でもどんとこいじゃ」

「威勢のいい話だな」

「事情が事情じゃしの、必要経費だろうよ。もっとも無事取り戻せたら、データをいじって消させてもらうがの」

 初めて聞く単位の資金の提供に驚く様子を見せるタッグに、バフはかんらかんらと笑いながら言う。

「どのように動くかを一度まとめましょう。

 実行日は……」

「明日から移動して明後日に小鬼の森に到着」

 日程を言ってなかったことにアイオールは気づいてレヤアの言葉に続けた。

「今日は十分に休んだり、行動に穴がないか確かめるってことですね。

 バフを加えたブラーゼフロイントの皆さんと一緒に私は小鬼の森へ。裏市に入るのは、ヴィオとアヤネというプレイヤー二人と私。ほかの方は待機。

 裏市に入る際になにか注意点はありますか?」

「ある程度の価値のあるアイテムを渡すことと、紹介者つまりコネの名前を言う必要があるわ。それはヴィオが知ってる」

「侵入したあとは、どのような品があるかという名目で歩き回り、内部を調査していきます。そこにいる人物の情報も同時に収集します。

 そしてオークションが始まると、チカちゃんを救出し、その後はチカちゃんを無事に護るため騒ぎにならないよう行動し、ブラーゼフロントと合流。

 これくらいでしょうか」

「注意点としては、チカと顔合わせしたときにギルド関係者とばれるかもしれないってことかしら。その場合はその場から素早く離脱しないとね。事前にチカに助けることを知らせることができればいいんだけど」

「ヴィオが動物を使えば可能かもな」

 動物を使い行動したときに一緒だったタッグが思いついたように口に出す。

「手紙を持たせてチカに事前に渡すとかできるかもしれん」

「ヴィオという人は調教師かなにか?」

「ここ一ヶ月に称号を取得して、なったばかりといってもいいがな」

「動物になにかものを運んでもらうという行為は、仲間にしたものにしかできないんですが、その人の仲間は小さく目立たないですか?」

 仲間にしたり移動手段とした動物は、動物知識スキルを取得していなくとも誰の目にも見えるようになる。裏市内を移動する場面をみつかると怪しまれるということを心配して、レヤアは聞いたのだろう。

「あー……あれは目立つな。エネミーだし」

「ヴィオとアヤネという者にも軽く変装してもらえばいいんじゃなかろうか。髪型を変える、めがねをかける、服装を変えるくらいしかできなさそうじゃが。

 裏市にいる間はチカに、知らない誰かにどこかへと連れ去られるという精神的負担をかけることになるかもしれんが、その場でばれることを避けるにはそれくらいしか思いつかんの」

「そうするしかないわね」

 アイオールもいい考えは浮かばず、バフの提案に賛成する。

「集合場所と時間はどうしましょうか」

「ここに集合してここから転送で小鬼の森にはいけるか?」

 またしてもプレイヤーキラー討伐戦のときのことを思い出しタッグが発言する。

「準備時間が足りず無理ですね。私たち管理者が使うだけならば簡単に使えるんですが、プレイヤーが使うとなると調整が必要となるんですよ。

 以前のプレイヤーキラー戦のときは、準備期間が十分にとれたから使えたんです」

「簡単そうに見えてそうじゃなかったんだな」

「はい。閉じ込められたことでいろいろと弊害が出ていまして、こういったことも弊害の一部です。

 今まで作業してわかったことなんですが、邪魔にムラがあるんですよ」

「ムラ?」

「ええ、常に作業の邪魔は入っているんですが、わりとスムーズにデータのやり取りができたときもあれば、非常に遅い作業速度となることも」

「一定間隔でそういったことが起これば、監視のローテーションが組まれているのかとも考えられるんだがのぉ。ランダムじゃからなぁ。ゲーム総統括人工AIの思考を解析できれば理由がわかるんじゃろうが、そっちは遅々として進んでないからの」

 やれやれとバフは首を横にふる。意思があるのはわかっているが、どれほどの知性があるのかは不明なのだ。もしかすると目的があるようにみせかけて暴走しているだけなのかもしれない、という考えも管理者の間で話されている。

「話を戻すわよ。場所と時間だけど小鬼の森にオークション開始三時間前。集団でいっきにいくと怪しまれるだろうから少人数でばらばらに。森に入った後、どこかに集合。これは連絡を取り合って集まればいいわ。

 決めることはこれで一応終わりのはず。誰か言い足りないことある?」

 そう言って見回すアイオールを見返す顔はどれも意見なしといったものだ。

「あとで何か気づいたら、小鬼の森に集まったときということね。

 これで帰っていいのかしら? お金とアイテムは今渡す?」

「そうさな。今渡しておこう。リーダー、レヤアのそばにきてくれんかの」

 アイオールが近寄ると、レヤアはタッチパネルホログラムを呼び出し操作を始める。

 軽快に動いていた指が一度止まり、レヤアはわずかに考え込む仕草を見せたが、すぐに操作は再開された。

 作業は合計十五分ほど続いた。これでおしまいとレヤアは呟き、タンっと音がしそうな勢いでパネルを押した。

「ウィンドウを開いて確認してください、お金が十億sありますか?」

「あ、あるわね」

 0の多さにアイオールは少し引いている。覗き込んだタッグとルーも似たような反応だ。ちなみにこの金額を持ったアイオールは、現時点で世界一の金持ちになっていたりする。

「次はアイテムにエリクサーに入っているのを確認してください」

「エリクサー!? あははは、入ってるわ」

 自分の道具欄にエリクサーの文字が書き込まれていることが信じられない様子だ。一億sというお金を見た以上の驚きだ。虚ろな笑いすら出ている。

 エリクサーといえば、RPGでは定番の体力魔力完全回復薬だ。ほかにも万病に効く薬として登場することもある。どちらにしても高い効果を発揮する薬という認識だ。

 これはホワイトヒストリーでも同じ認識だ。けれど価値という点ではほかのゲームの追随を許さないのかもしれない。

 ホワイトヒストリー内でエリクサーの存在が確認されたのは五回。効果は体力技力完全回復と状態異常回復で、その点はほかのゲームと同じだった。

 少し話しは変わるが、このゲームで体力回復アイテムは四種類のみだ。ポーション、ハイポーション、オリジナルポーション、エリクサーの四種類。回復率は順に30%、50%、常時変動、100%。

 NPCが売っているのはポーションとハイポーションのみ。エリクサーは上位ボスクラスが1%以下という低い確率で落とすのみ。1%という数字を高いと感じる者もいるかもしれないが、上位ボスクラスを何度も倒せるプレイヤーが非常に少ないので、今は高い数値ではない。

 オリジナルポーションというのは薬剤師の称号を持つプレイヤーが作ることのできるポーションのことで、効果は体力回復。回復率は薬剤師の実力と作業工程と使用する材料によって変わる。

 この回復率を上げるためにいろいろな試行錯誤がある。それこそ冒険そっちのけでポーション作りにはまったものがいるくらい。そんな人たちの努力によって最大回復率は64,4%まで引き上げられた。そのオリジナルポーションは5千sという高値で取引されている。ちなみに偶然作られた69,2%のオリジナルポーションはオークションで10万sを超えた。

 話を元に戻す。エリクサーは体力のみならず技力と状態異常さえも完全に回復する。薬剤師たちは技力回復薬を作れても、体力技力を同時に回復する薬はいまだ作れてはいない。効果が低いものでさえ。

 ここまでいえばエリクサーの貴重性がわかるだろう。体力技力状態異常を完全に回復という珍しさ、数の少なさという点から売値が軽く百万sを超えたりする。まさに幻の薬といえるのだ。

 この百万sという金額は、四ヶ月前にあったオークションで出た金額で、当時の金持ちが持っていた全財産の三分の一だ。月日が経ちさらに多くのお金を所持する今、オークションにエリクサーが出るとさらなる高値がつくかもしれない。

 そんなものが自分の道具欄にあって、驚くなというほうが難しい。

「これはさすがにやめておいたほうがいいんじゃないかな?」

 引きつった笑みでアイオールはレヤアに言った。

 レヤアとしてはどうせ消すんだから思いっきり高いものを渡してしまえと思っただけなのだが、貴重すぎるものを渡せば目立って動きにくくなると諭され、納得する。

「ごめんなさいね。だとしたらこれなんかどう?」

 アイオールの道具欄からエリクサーの文字が消え、星屑の雫という文字が現れた。

「えっとこれは?」

 このアイテムに聞き覚えのないアイオールは首を傾げつつ聞く。

「これは召喚士の称号を得るために必要なアイテムですよ。伯爵級バンパイアが5%の確率で落とすアイテムです。取引価格は40万s」

「これくらいなら大丈夫かしら?」

 伯爵級バンパイアは最低レベル40ないと互角に戦えないエネミーだ。そんなエネミーが5%という低確率で落とすのだから、それなりに価値がある。

 渡されたアイテムに満足し、アイオールは頷いた。

 これで今日は解散となりアイオール、タッグ、ルーは泡村へと帰っていった。

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