さらわれた者の行き先
チカ誘拐の知らせを受けた四人はすぐに宿をチェックアウトし、転送門へと急いだ。途中でドンドコ亭の横を通ったので、ついでと予約を取り消した。明日中にグランドセオに戻ってくることは不可能だろうと予想できたからだ。
転送門にはセバスターとミゼルがそわそわとした様子で立ち、アイオールたちの到着をまだかまだかと待っていた。
「セバスター、ミゼル!」
アイオールが呼びかけると、二人は走り寄ってくる。
「チカがさらわれたってどいうことだい!?」
「詳しいことは俺らもわからないんですよっ」
「とにかく、ヴァサリアントに戻りましょう! そこにタッグさんもいますしっ」
セバスターとミゼルに手を引かれアイオールは急かされるように転送門へと連れて行かれる。早くリーダーを連れ帰って、行動指針を示してほしいのだろう。
ヴィオたちもあと追うようにヴァサリアントへと移動する。
ヴァサリアントに移動した六人は、ウィンドウを開いて、タッグを呼び出す。近くにいたタッグは五分もかからずに姿を現した。コールも一緒にいる。
「嬢ちゃん! 戻ってきたかっ」
「そりゃ戻ってくるさ」
「タッグ、チカがさらわれたってどういうこと!?」
詳しいことを知りたいルーがタッグに聞く。
「詳しいことはコールに聞いてくれ」
「説明してくれるかい?」
アイオールの言葉にコールは頷き、話し始める。
「今日の昼すぎ、俺は暇そうなチカをさそってホワイトサンの運動がてら散歩に出た。はじめの二十分ほどはなんともなく、チカの注文を聞いて速度を速めたりして楽しんでたんだ。
それが北の林そばを通りがかったとき、急に弓で射られた。急なことだったし、襲ってきた相手が巧妙に隠れてて避けることは無理だった。俺とホワイトサンに矢は命中した。そのせいでホワイトサンが暴れて俺とチカは振り落とされた。落下のダメージで呻いているときに、魔法で眠らされて情けないことに抵抗もできずに寝てしまった」
すごく悔しいのだろう、ダンっと石畳を強く踏みつけた。
落ち着かせるようにタッグが肩を軽く叩き、コールは続きを話し出す。
「大体三十分ほど寝て、エネミーに攻撃されて起きたんだ。
回りを見ても誰もいなかった。ホワイトサンもだ。ホワイトサンを連れ去ったのは、村に帰ってさらわれたことを伝えるのを少しでも遅らせて時間を稼ぐつもりなんだと思う。
一時間以上かけて村に戻って、さらわれたこと知らせたんだ」
ここからはタッグが引き継ぐ。
「チカがさらわれたことを知った俺たちはすぐに、探すために動き出した。
もしかすると村に戻ってくることもあるかもしれないから、一人村に待機させた。ほかは二人一組にわけて、情報を求めてヴァサリアント中に散った。正直捜索範囲が広すぎると思うけどな。なにもしないよりはましだろ」
「コール、相手の顔とか見なかった? なんでもいいから情報はない?」
すでにほかのメンバーにも聞かれたことだったので、アイオールの質問にコールはすぐに答える。
「顔は見てない。痛みに呻いている間に眠らされたから。でも声は聞いた、聞き覚えはない声だった」
「内容は?」
「これでお金に困ることはない、とだけ」
「ほかになにかある? 例えば特徴的な服装だったりしなかった?」
「ちらっと足は見たけど、前衛系なら誰でもはいてるような靴でした」
「情報がないわね」
「すみません」
「ごめんなさい、責めてるわけじゃないわ」
うなだれるコールにアイオールは謝る。
「二人はここで情報を集めてたんでしょ? なにか集まった?」
ルーの問いにタッグとコールは首を横に振った。
「ここにきたのかきてないのかすらわからない。きていたとしたらよほど慎重に動いたんだろう」
手がかりなしと場の雰囲気が重くなる。
「……つれさった人はさらえるなら誰でもよかったんでしょうか? それでもチカちゃんをずっと狙っていたんでしょうか?」
静かだったアヤネが口を開いた。
「どうなんだろう? 村から離れた林で狙撃されたんだから、待ち伏せしてたってことかな? だとするとさらえるなら誰でもよかった?」
「そう決めるのは早いよヴィオ。ずっとチカを狙ってて、回りにいる人が少人数になるのを待っていた可能性もあるかもしれないし」
「でもそれだと、どこが目的地かわからない散歩の行き先を予想して先回りしたってことになるんじゃ? ピンポイントで予想できたとは思えないから、大人数配置しなきゃいけないだろ。チカ一人さらうのに、そこまで労力払うかな? そこまで人数集めるのも大変そうだ」
「そこまでしてさらいたかったと考えられるんだよ。
正直言って、可能性だけならどうとでも考えられるだけに厄介だねっ。情報がほしいよまったく」
アイオールが大きな溜息を吐く。
「もしチカちゃんを狙っていたとして、さらった人はどこから情報を得たのかな。
村に偶然きてチカちゃんの存在を知ったんでしょうか?」
「村にきた人って言っても、多くはないけど何人もいるし。誰が怪しかったとか覚えてないわ」
「まあルーの言うとおりだなぁ。
もしかしたら、あのときかもしれんが」
「あのときですか?」
どのときなのかアヤネには予想つかない。
「プレイヤーキラー討伐戦。
あのとき俺たちがチカを引き取るって聞いていた奴らがいて、そいつら自身かそいつらに情報を聞いた奴らがチカをさらったかもな。
可能性でしかないんだが」
「これから探すのに有効的な情報ではないね。
仕方ない、今皆がやってることを続けよう。各地を回って情報を集める」
「ちょっといいですか」
解散と言いかけたアイオールをミゼルが遮る。
「なんだい?」
「一つの噂を思い出したんです。的中率の高い占い師がヴァサリアントにいるって。
その人を探し出して占ってもらったらどうでしょう? なんの手がかりもなく探すよりはましなんかないでしょうか」
「あ、私も聞いたことある」
ミゼルの言葉に同意するようにルーも追従する。
「私はないけどねぇ。でもそんな人がいるなら助けてもらうのもいい考えだと思う。じゃあこの場にいる者でその占い師を探すってことでいいね」
「そういや、管理者にはさらわれたこと知らせた?」
解散と言いかけたアイオールを今度はヴィオが遮った。
「チカは管理者から預かってるんだから連絡しといたほうがいいと思うけど」
「探すことにばかりに熱心になってて忘れてたっ。
俺はグランドセオに行ってくる」
「私も行くよ」
タッグにルーが同行することになった。二人は転送門へと走っていく。
残ったのは、ヴィオ、アヤネ、アイオール、コール、ミゼル、セバスターの六人だ。
「この五人で占い師を探すよ。見つけたらウィンドウで知らせて」
今度は邪魔する者なく解散する。六人はヴァサリアントに散っていった。
時間は九時過ぎ、昼間ほど人通りは多くはないが、道行く人はいる。そんな人たちに声をかければ、わりとすぐに噂の占い師が実在することはわかった。いつもいる場所もわかり、話を聞きだしたミゼルとセバスターが先行し、占い師のもとへと向かった。しかし今日の商売は終わったのか、奥まった通路の行き止まりには誰もおらず、すでに帰ったあとだった。
いないと連絡を受けたアイオールは、ここにいないのならば宿に戻ったのだろうと考え、ヴァサリアントにある全ての宿を回るように指示を出す。中心都市なだけあって宿の数も多く、十を軽く超える。ランクに関係なく全ての宿をあわせると五十近くあるだろう。一人九箇所を目標に、六人は再び走り出す。
ヴィオが六つを回った頃、セバスターから発見の連絡が届いた。
占い師がいるだろう宿は、高くもなく安すぎもしない普通の宿だった。
ヴィオが到着すると、セバスターとすでに到着していたアヤネが誰かと話していた。アイオールとミゼルとコールは連絡を受けたとき離れた場所にいたのだろう。いまだ到着していない。
「二人ともその人が探してる占い師?」
二人が話しているのは戦闘系の格好をした男だ。
「違う。占い師の仲間なんだろうけど、今日の商売はもう終わったっていって、会わせてくれないんだ!」
「明日くればいいだろう? 別に逃げはしない」
午後十一時を過ぎているから、男の言葉にも一理ある。普通ならば、人を訪ねるのには迷惑とされる時間だ。一応とはいえ対応してもらえるだけ運はいい。
「急ぎなんだよ!」
男の声にヴィオはかすかに聞き覚えがあった。どこで聞いたのか思い出そうと首を捻っていると、アイオールが到着した。
「その人が占い師かい?」
「あ、あんたは!」
男はアイオールに見覚えがあるのか驚いたように指差す。
「いつかはありがとう!」
「えっと?」
誰だかわからず首を傾げるアイオールに男は名乗る。
「以前カッツェと名乗っただろう? コルオルジオ氷窟で助けられたときに」
「あっ! あのときの」
アイオールが思い出したのと同時にヴィオも思い出せた。
カッツェがアイオールを覚えていたのは美人で印象的だったからだ。アイオールのインパクトに負け、ヴィオのことは霞んで忘れていた。ヴィオもカッツェのことを忘れていたのでおあいこだ。
「そっか。あんたがいるのならあのときの恩を返さないといけないな。オクトールさんに用事があるんだろう?」
「占い師がオクトールっていう名前ならそう」
「間違いないな。なんとか頼んでみる」
カッツェは宿の奥へと歩いていく。
カッツェが戻ってくるまでに十五分ほどかかり、その間に到着していなかったミゼルとコールが宿に到着した。
「待たせた。六人か……あまりぞろぞろこられるのも迷惑だ。
アイオールさんともう一人だけきてくれ」
「それじゃあヴィオ、一緒にきて。
あのときヴィオも一緒にいたからちょうどいいだろうし」
「そう言われるとそっちの男も見覚えがあるような気がする。
じゃあ、ついてきてくれ」
「四人はここで待ってて」
四人は頷く。コールが少しだけそわそわとしているが、さらわれたことに対する責任感からくる焦りだろうと全員が考えた。
占い師の部屋までの通路でカッツェが口を開く。
「オクトールさんの占いはなんというか変だ。でもバカにしてるわけじゃないってことを覚えててくれ」
「変て。オリジナル言語で話し出すとか?」
カッツェの助言にヴィオは思いついたことを言ってみる。
「いや、そこまでじゃない。遠回りというのか。
正直、そこを直せばもっと評判もよくなって、多くの人に知られるようになるんだろうが。
リピーターがつきにくいんだ」
「今は、そこまで有名ではないのかしら?」
「知る人ぞ知るって感じだな」
各地から客はくるのだが、客が余り人に勧めはしない。これは評判の悪さからくる推薦のなさではなく、優秀さからくる推薦のなさだったりもする。一人占めしていたいと思わせているのだ。
その証拠に常連はついているし、占いの料金に大金やレアアイテムを置いていく者もいる。
「ついた、ここがオクトールさんの部屋だ」
カッツェはノックしてから扉を開いた。
部屋の中には、タイデルとホロワンズもいる。一人椅子に座っている男がオクトールなのだろう。
見た目、占い師というよりもシャーマンのように見える。シャーマンも占いはするので間違った格好ではないのだろうが。
ヴィオとアイオールはローブをまとって水晶を所持した姿を予想していたのだ。実際には、肌に染料で独特な模様を描き、体のあちこちに毛玉をつけている。
「あなたがオクトールさん?」
「いかにも。占ってほしいことがあるんだとか。なにを占ってほしいのかね?」
「探し人がどこにいるか。占えますか?」
「おやすいごようさ。探し人の特徴を教えてくれないか」
アイオールはチカの情報を事細かに話していく。
「わかった。それだけ特徴があるなら占いやすい。さっそくやろう」
そう言うとオクトールは目を閉じ、両手を胸の辺りで祈るようにあわせた。
この世界での占いは現実のものと違い、悩みを聞いて解決方針を示すというものではなく、超常現象で悩みを見抜き解決するといったものでもない。中にはそういう占いをしている者もいるが、システムとして認められている占いはしっかりと定められている。
できることは探している人やアイテムやエネミーがどこにいるか、アイテムのドロップ率を一定時間増やす幸運付与といったものだ。行えることは管理者の業務の一部分と似ている。探すという検索行動が最たるものだろう。システム的には同じものを使っているのだ当然だ。スキルレベルの高いものは探すといった行為において、管理者を超える者もいる。個別の人物検索を管理者が行うのは難しい。管理者は大きな視点で動かなければ、世界を上手く運営できないからだ。一人一人の行動を監視している暇などない。ましてや今は管理者権限を完全に発揮できる状態ではない。
オクトールはそういったことのできる者の一人だ。
だがそれだけならば常連ができるほどでもないし、独り占めしたいとも思われない。
そう思わせるのは、オクトールのプレイヤー自身が持つものにある。彼は勘が鋭いのだ。当たりつきのアイスを百発百中で選び取ったり、ジャンケンで負けなしなくらいには。
彼が占い師をやっているのも、勘に従いスキルをとったからだ。結果、占い師に必要なスキルに秀才天才の素質が集まっていた。
その鋭い勘によって、占いにきた人に的確なアドバイスをしている。だからこそ常連がついた。
「きたきたーっ!」
目を開いたオクトールはリズムにのって、無理に高い声で歌いだす。
「お隣の森の隠れ里には咎人集まり、商売をしてるのさ♪
秘密、秘密の商売さ! 怖い怖い番人にも秘密の商売なのだよ♪
小鳥ちゃんが泣いてるね。ここはどこだと、おうちに帰りたいと泣いてるね。
おっとと危ない、助けは早いほうがいい。早くしないと連れて行かれちまうのさ♪」
歌い終わったオクトールは元の声音で話し出す。
「お隣の森ってのは、隣の世界ノースウッドのことだ。隠れ里ってのは小鬼の森の中にあるプレイヤー同士の競売場だろうな。番人ってのは管理者だ。商売は裏市場のことだろ。
つまり違法の競売場でチカって子供が売られようとしている」
「解説するなら歌いらなかったんじゃ?」
思わずヴィオは聞く。
「いつもは解説しないのだよ。今日は特別だ」
カッツェたちの驚いた様子から、オクトールの言葉は本当らしいとわかる。
「なんで特別?」
「それは秘密だ。少しだけばらすなら俺にも利益がある」
「その利益がなんのか想像つかないけど、解説はありがたい。
よければ続きを話してもらえない? どうして違法の競売場のことを知っているのかとか、人身販売なんかできないはず、といったことを知りたいのよ」
「競売場のことは、商売していたら知った。うちには金持ちの客もいるからね、そういった客が一緒にどうかと誘ってくるのだよ。興味はないから断っているが。
人身販売に関しては知らない。ただ勘が示すにはバグの一つではないかと。どういったバグなのかは予想もつかない」
バグに関心もないといった様子だ。
このバグは本格的にメンテナンスできていないことと、常に稼動していることで起きたものなのだろう。
「今はどのようなバグかは関係ないか。大切なのはチカの身の安全ね。
小鬼の森はたしか、ノースウッドで三番目に大きな街ティーテーブルの東にある森だったね?」
「そう。ゴブリンたちの巣さ。今はゴブリンキングはいない」
ゴブリンはRPGで雑魚として出てくるが、ゴブリンキングをその雑魚の王という認識で挑めば後悔することになる。数多くいるエネミーの中でも上から十数えるまでに入っているエネミーだ。一対一で戦う場合、レベル50でようやく五分に届くかどうかという強さを持つ。
厄介なことにほかのボスクラスのエネミーと違い一箇所に定住せず、世界を放浪していて思わぬ場所で出会うことがある。
ブラーゼフロイントが結成されたばかりの頃に、かちあい全滅したことがあったりする。
「いたらさすがに競売開くことなんか不可能だろうね」
対峙したときの圧倒的な実力差を思い出しながらアイオールが言う。
「競売側にも用心棒がいるだろうけど、ゴブリンキングも本拠地だから手下がたくさんつく。
プレイヤーのレベルが上がってきているから、一対一でならいい勝負できる人は多いだろうが、複数対複数だとわからないからな。
ゲーム内での死が現実での死に繋がりかねない今、そんな不安な状態で競売を開きはしないだろ。開かれているということはいないってことだろうな」
タイデルもアイオールに同意見のようだ。
「エネミーの心配はしないでいいとして、問題は競売場に入り込めるかどうかだね」
「普通に行って入れはしない。
聞いた話では、五十万s以上のアイテムを役員に預け、紹介人の名前を言うと入れるようになる。
アイテムはそれだけのものを所有し、なおかつ簡単に他人に預けることで失っても懐が痛まないと示すことで、財力の高さを証明する。
紹介人の名前を言うのは、噂を聞きつけてきた者を受け入れないためだ。もしかすると管理者の手の者かもしれないからな」
ブラーゼフロイントには二つともない。アイテムも高いもので二十万sだし、それは武器で失うと厳しい。紹介人などツテすら思いつかない。
ヴィオとアイオールは忍び込むしかないかと頭を悩ませる。
「警備は万全、腕のいい魔法使い雇って結界はってるだろうから、忍び込むのは不可能に近いと思うが?」
二人の思考を読んだオクトールが駄目だしする。
「正攻法で行くしかないのか。どうしようかねぇ」
「紹介人のほうはなんとかなる。俺を連れて行こうとした金持ちの名前を出せばいい」
「いいの?」
「かまやしない。もしばれて文句を言われても知らぬ存ぜぬで通す」
どうしてここまでしてくれるのだろうと、ヴィオたちは内心首を傾げる。
オクトールはそれを見抜いているが、理由を話すことはしない。
「アイテムはそっちでどうにかしてくれ。
正攻法で取り戻すのならば金も必要になるが、それははっきり言って無理だろ。人一人の価格が二百万sに届くこともあると聞いた。五十万sを用意するのに苦労するなら競売に参加するのは無理だ。だとすると取れる行動は」
「奪い返すのみ」
アイオールの言葉にオクトールは頷いた。
奪い返すということは荒事になるということ。運がよければ知られずに救いだせるかもしれないが、かなりの幸運が続かないと無理だ。
戦力的には向こうのが上。競売側の傭兵だけではなく、金持ち連中の護衛も敵に回るだろうからだ。
「対策を練って暴れてくれたまえ。ただしゆっくり準備している暇はない」
残る日数は移動日を入れて二日ほどだとオクトールは告げる。競売場に行くだけで丸一日潰れる。準備期間は一日しかない。
一日ではなにもできないのではとヴィオは思う。アイオールも同じ思いだが、諦めるわけにはいかない。諦めるということは大事な仲間を見捨てるということなのだから。
「今日は助かりました。これから動くため、ここらで失礼させてもらいます。上手くいけば後日お礼に」
「礼は別にいい。一度言ったけど、あんたらが動くことで俺にも利益があるのだよ」
「それでも助け出せたら一度はきます」
頭を下げアイオールは部屋を出て行く。ヴィオも同様に頭を下げ、出て行こうとする。そのヴィオにオクトールが声をかける。
「ついていきたいと申し出る者がいたら、その同行を断るな」
「はい?」
いきなりな言葉にヴィオは疑問の声を上げた。
「アドバイスというか、むしろそうしろという命令だ。
それを果たすことで俺への礼になると思えばいい」
「えっと、わかりました」
釈然としないながらも、もう一度ヴィオは頭を下げ、部屋を出て行った。
二人が出て行き、五分ほどしていなくなったことを確認してタイデルが口を開いた。
「あそこまで肩入れするのは珍しいな?」
「兆しがあった」
「兆し?」
「脱出のさ」
オクトールの言葉が頭に浸透し意味を理解したとき、三人は目を見開き驚いた。
ゲーム内に囚われている現状が終わる、そのきっかけをヴィオたちから感じとったとオクトールが言ったからだ。
本当かと問う三人にオクトールは頷く。肯定の仕草に三人は喜びの声を上げた。
だから聞き逃した。オクトールの『人の敵は人』という言葉を。
脱出がスムーズにいかず障害が立ちふさがると見通していた。




