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反撃の狼煙


 ヴィオがパトロールの仕事を終え四日経った。今日パトロールに行ったのはデルカだ。そのデルカが帰ってきて皆を集める。連絡することがあるようだ。

「管理者からの通達を聞いてきたから、静かに聞いてくれ」

 注目が集まったことを確認するとデルカは続ける。

「三日後にプレイヤーキラーギルドを攻めることになった。参加する人はヴァサリアントの庁舎跡に集まってくれだとさ。あとヴィオは強制参加な」

「なんでさ!?」

「少し前に動物使って情報収集に役立ったんだってな? 今回もそれがなんらかの役に立てば、だってさ」

「行かなくていいなら行かないつもりだったのに」

 ヴィオのレベルは21へと上がっていて強さ的には中堅といえるようになっているが、同じようにほかのプレイヤーのレベルも上がっていて、プレイヤーキラーのレベルも上がっている。相対的に考えるとプレイヤーの中では低い方なのだ。エネミー相手だと問題はない、自分の実力にあったエネミーと戦えばいいのだから。これがプレイヤーだとそうはいかない。相手の強さは不明だし、かなりの確率で相手のほうが高い。だからプレイヤーキラーと戦うのは危ないとわかっているのだ。

 手と膝を床につけて落ち込むヴィオをフィスが慰めている。ヴィオとフィスはかなり仲良くなっている。意思疎通できるのだから仲良くなるのはわりと簡単だった。可愛いもの綺麗もの好きなリオンは、ヴィオの会話能力をすごく羨んでいる。

「レベルが低いっていったらちゃんと護衛つけてくれるさ」

 アイオールも励ます。

「俺が護衛についてもいいしな」

 タッグは参加するようで、護衛につくと宣言する。それでなんとかなりそうだと気を持ち直し、ヴィオは立ち上がる。

「フィスもアイオールもありがとう。

 タッグさんよろしくお願いします」

「任せとけ」

 どんっと胸を叩く様はかなり頼りになる雰囲気を漂わせる。

「ヴィオとタッグさんは当日になったら庁舎跡にいる管理者に会いに行ってください」

 二人は了解と頷く。

「プレイヤーキラーギルド本拠地の情報は、ヴィオたちが捕まえたプレイヤーキラーが吐いたんだとさ」

「よく仲間のことを話したな?」

 ヴィオは不思議そうに聞く。ほかの面々にも疑問に思う者はいるようだ。

「そこらへんは聞いてない。ただ本拠地の情報を話したとだけ言ってたし」

 管理者は一と十を比べ、十をとった。具体的に言うと、洗脳や自白剤に近いものを使った。それには副作用があり、よくて偏頭痛に悩まされ、悪くて脳に障害が残る。非人道的な方法といってもいい。だが早く対処しなければほかのプレイヤーに被害が広がる。普通に過ごしている多くのプレイヤーを助けるため、プレイヤーキラーの数人を傷つけていいのか悩み決めた。被害を抑えるため責任を取る覚悟を決め、少しの犠牲者を出す方法をとったのだ。

 そのおかげでいまだ強い勢力を保つプレイヤーギルドの本拠地をみつけることができた。

「今回のことを緊急回線で知らせなかったのは、あの連絡方法だとプレイヤーキラーにも連絡がいくからだそうだ。そんなことになれば逃げ出すのは確実でせっかく手に入れた情報が無駄になるからパトロール参加者のみに伝えたとさ」

 今回失敗すれば、再びプレイヤーキラーに洗脳など施さなければならない。さすがに管理者としても何度もそういったことをやりたくはなく、情報の提供に気を使っている。

「ヴァサリアントへの集合は何時頃?」

 アイオールが聞く。

「夜襲をかけたいから午後七時だそうです。これ以上のくわしい情報は現地で話すと言ってたっす」

「嬢ちゃんも行くのか?」

「ギルドメンバーが行くのに引っ込んでいるわけにはいかないだろ」

「嬢ちゃんが名乗り出るとリオン嬢ちゃんも出てきそうなだが」

「アイオールさんのそばなら安全そうだし行くかも」

 でも怖いしどうしようかと続く。

「さすがにリオン嬢ちゃんを連れて行くわけにはいかないだろ? だから嬢ちゃんは留守番しとけ」

 不満そうなアイオールにさらに続ける。

「ないとは思うが、出払っている隙にここがプレイヤーキラー攻め込まれる可能性もある。一番の主力でギルドの中心な嬢ちゃんは残って、万が一に備えておいた方がいい」

 正直考えすぎだとはタッグ本人も思っているが、ギルドメンバーを守るという点から刺激すればアイオールは責任感から動きは鈍る。

 タッグの予想通りアイオールは参加をやめた。アイオールは戦力として申し分ないことはタッグも理解している。けれど今回の討伐は不快な思いをしそうだと考え、アイオールの参加を止めたのだ。できればヴィオの参加も止めたいが指名されているので無理だ。ならばせめて近くにいてやろうと護衛をかってでたのだ。

「くれぐれもヴィオのことを頼んだよ」

「俺の心配は?」

「心配しなくともそう簡単にくたばらないだろう?」

 これもある種の信頼なのだろう。

「帰ってきたらできるだけ美味しいもん食べさせたげるから、無事に帰っておいで」

 ルーはタッグの背を叩いたあと、ヴィオに好きな食べ物を聞いている。タッグには聞かずとも知っている。以前聞いたことがあるのだ。

 三日後の夕方、ヴィオとタッグは仲間に見送られヴァサリアントへ出発した。


 泡村を出た頃には赤く染まっていた空や野は、ヴァサリアントに着く頃には濃紺へと変わっていた。

 電灯のように明かりの灯された何本もの柱が、暗くなった街を明るく染めている。討伐に集まった人の多さのおかげか、イベントがあるわけでもないのにヴァサリアントに活気があるように見える。かといって楽しげな賑わいというわけでもないが。

 ヴィオとタッグは人の流れにのって庁舎跡へと向かう。

「管理者に会わないと駄目なんだっけ。どこにいるんだろ?」

「んー……あれじゃないか?」

 タッグの指差す方向に設営をしている人たちがいる。

「あのーすみません」

「はいはい、なにか御用で?」

 設営の手を止め管理者と思われる男は振り返る。

「強制参加って言われて、管理者に会えって言われたんですけど」

「あーお疲れ様。君はあっちの集まりに行ってくれる? あの集まりが今回の討伐隊指令系統のトップだから」

 一般参加組と区分けされた集団を指差した。

「そっちの獣人さんも強制参加組?」

「俺はこいつの護衛としてついてきたんだ。こいつはレベルがあまり高くないから。同伴認められるんだろうか?」

「んーどうだろう。とりあえず一緒に行ってくれる? たぶん大丈夫だとは思うけど、一応聞いて指示を受けて」

「わかった」

 二人は管理者に礼を言って、指差された集団へと足を向ける。

「すみません。強制参加と言われた者ですけど」

「いらっしゃい」

 出迎える人にヴィオは見覚えがある。数日前のパトロールで一緒に組んだ女剣士だ。

「七日ぶりでしたっけ? こんばんは、ラスツイスさん。あなたも強制参加組なんですか?」

「指揮の腕を買われてな。今回もよろしく頼む」

 ヴィオと組んだとき以外にもラスツイスは成果をあげている。そこから参加を望まれたのだ。情報収集に役立つだろうとヴィオを推薦したのも彼女だ。

「そちらの獣人も強制参加なのか……もしかしてタッグ殿か?」

 斧とフィスに目がいって誰かわかったらしい。

「久しぶりだな」

「タッグ、知り合い?」

「俺個人の知り合いじゃないけどな。ギルドでイベントに参加するたびにこの人のギルドと優勝を争ったんだ。そのときに何度か顔をあわせた。指揮が上手いんだこの人は。最近はイベントどころじゃないから会うことはなかったな」

「そうだな。ただただこの世界で楽しんでいたあの頃を懐かしく感じるよ。アイオール殿はきているのか?」

「うんにゃ、本拠地で留守番だ。なにかあった際の守りとして置いてきた。

 俺はこいつの護衛としてきたんだ。同伴許可もらえるか?」

「かまわないよ。突撃隊に入ってもらうことになりそうだから、むしろいてもらったほうがいい」

「プ、プレイヤーキラーとガチンコさせられる?」

 ヴィオは腰が引けている。

「いやいや積極的に戦えとは言わない。道案内役になるだろうなと。戦いは避けていい」

「なんだーって安心してる場合じゃないっ!? 突撃するなら避けられずに戦うに巻き込まれる可能性はあるってことだ!?」

「まあ否定はせんな」

「そのために俺がいるんだから、慌てなさんな」

「めっちゃ期待してますっ」

 アイオールからもらった死なずの紅玉があるとはいえ、二回目の死亡で本当に死ぬ可能性があるのだ、戦いを怖がるのも当然だ。しかも相手は同格か格上、不安が湧きあがらないほうがおかしい。

 二人は時間まで、強制組に集められた人たちと挨拶をし、どんなことで集められたのか聞いていく。距離に関係なく複数人数に声を送れるテレパシーの使い手や姿を隠すこのが上手いアサシンや補助魔法に天才の資質を持つマジシャンなど、直接攻撃を行う者より補助に優れた者が多い。

 挨拶を終えるとちょうどいい具合に時間となった。

 管理者が設営された台座に上がり、集まった人々の注目を集める。管理者の眼下に四百人近いプレイヤーがいる。

「時間となりましたので、説明を始めさせてもらいます」

 ざわめきがじょじょに消えていき、すぐに静かになった。

「今回の作戦は管理者が指揮しません。パトロールの際に上手く指揮する人がいたので、その人に頼んであります。詳しい作戦内容はその人からしてもらいます。

 私たちからの連絡事項は、あとで死なずの紅玉を渡しますので忘れず受け取ってくださいということです。すでに持っている人には、死なずの紅玉分の代金をお渡ししますのですでに持っていても紅玉を受け取る場所にいってください。

 もう一つは、この討伐戦でプレイヤーキラーを殺してしまってもそれは事故として扱うということです。隔離施設には送りません。ですがこれは殺すことを推奨しているというわけではありません。最後の手段として、殺すという行為を行ってくださいということです。

 相手は殺すことに躊躇しない人たちです。ですからきっと今回も何の迷いもなく武器を振るってくるでしょう。自身を守るためあなた方も武器を振るうことになります。そんな中、手加減すると自身が危機に陥ることがあるかもしれません。そんなときは躊躇わず、自己防衛のため全力を出してください。その結果、殺してしまうことになるかもしれません。そのことで私たちはあなたがたを罰することはありません。

 ではあとはラスツイスさんお願いします」

 管理者は台座から下り、代わってラスツイスが上がる。管理者の話で静かすぎるほどに静かになったプレイヤーたちを見下ろす。

「私が指揮を頼まれたラスツイスと言う。よろしく頼む。

 早速、今日行うことを説明しようと思う。

 管理者が手に入れた情報で、プレイヤーキラーは小さな村を本拠地としていることが判明した。そこにいる人数は約五十人。一人で行動しているプレイヤーキラーや、小さな集団だったプレイヤーキラーを吸収して、そこまでの大きさになったようだ。ここを潰せば被害はかなり小さくなる。諸君には気合を入れて行動してもらいたい。

 これから動くことでわかるように夜襲だ。移動する際はできるだけ静かに、明かりもつけないか小さくして目立たないように移動してほしい。

 人数は大きく二つにわける。突撃隊と迎撃隊だ。

 突撃隊は村に入って暴れてもらう役だ、危険も多い。よって実力の高い百人ほどはこちらに入ってもらいたい。そして一対一は絶対避けるように。かならず複数人対一で戦うように。多くて三人までだ。それ以上は互いが邪魔になり、相手に有利になる。村に入っても即暴れないように、静かに戦いできるだけ相手に気づかれないようにしてほしい。これはできるだけでいい。無理して静かに戦おうとして不覚をとっては意味はない。

 迎撃隊は村から逃げたプレイヤーキラーを討ってもらいたい。この人数なら六人一組が五十ほどできる。その五十組に村を囲んでもらう。突撃隊が目立ち始めたら、篝火を一斉に立ててもらう。迎撃はできるだけ遠距離から攻撃し消耗を抑えるように。この場合味方を誤射する可能性もあるが、それは管理者から貰う予定のオレンジの発光布を体に身につけてもらい判別できるようにする。

 以上が今回の作戦となる。質問はあるか?」

 何人かのプレイヤーが手を挙げ、組み分けはどう決めるのか、連絡方法はどうするのか、村はどこにあるのか、などと質問していく。

「組み分けはこれから君たちを簡単にわけ、臨時のパーティを決めていく。こちらの指示に従ってほしい。連絡方法は強制参加組の力を借りる。村は管理者が臨時の転送装置を準備してくれたので、それを使い向かう。

 質問は以上か?」

 とりあえず納得できたのか、これ以上の質問はでない。

「よろしい。ではこれからレベルごとに君たちをわけていく。私の指示に従って動いてほしい。

 まず私から見て右にレベル三十以下の者、目の前に三十以上五十以下の者、左に五十以上の者というふうにわかれてくれ」

 十分ほどかけて三つのグループにわかれた。

「今度は前に接近戦の得意な者、後ろに遠距離の得意な者」

 今度は五分で移動し終わった。

 わかれた六つのグループを見ると、レベル三十以上五十以下の接近戦の者が一番多い。一番少ないのは五十以上の遠距離の者。

「三十以上五十以下の接近戦の者の半分は、五十以上の者と合流してくれ。よし、まとまったな。君たちが突撃組だ。行きたくない者はいるか?」

 十人近くが手を上げた。

「ではその十名はレベル三十以上五十以下の接近戦の者と交代してくれ。

 突撃組は今のうちに適当に二人組になっていてくれ。そして互いになにができるか確認しておくように」

 十名は交代してもらおうと交渉し、その交渉は無事に終わった。

「次に残ったものたちは前衛同士、後衛同士で混ざって三人一組に」

 これには二十分かかる。

「できあがった前衛組、後衛組はてきとうにパーティーを組んでくれ」

 次々とパーティーができていく。後衛組の数が若干少なく、前衛組が余る。その面々は前衛同士で組ませた。

 こうして約一時間かけて準備が一つ終わった。ラスツイスはできあがった六人パーティーを縦五組、横十組と整列させる。突撃組の五十組も同じように整列させた。始めはばらばらだった人の集まりは、綺麗にまとまった。このあとの道具配布や移動がこれでスムーズになる。

「今の位置を覚えていてほしい。何度かこうして並んでもらうのだから。

 では今から道具の配布を行う。死なずの紅玉と目印の布のほかに、松明とそれを置く台、ポーションと技回復薬も配る。

 取りに行く順番は六人パーティの右端から。終わったら次は突撃組の右端。受け取る場所は管理者が三人いる場所だ。すまないが担当の管理者は手を上げてくれないか」

 ラスツイスの言葉に応え、道具を渡す管理者が手を上げた。

「あの三人は受け渡すものがそれぞれ違うので、受け取り忘れがないように気をつけること。受け取ったら今の位置に戻るように。

 私たちはこれから先行して様子を探る。帰ってくるまで互いになにができるか話し合っていてくれ。

 最後に。この討伐戦は決して褒められたものではない。プレイヤーキラーとやることは同じだからだ。しかし私たちは傷つけることを楽しんではいないっ。彼らの行いの後には悲しみと憎しみしかない。私たちの行いのあとにも悲しみがあるだろう。だがそれだけではない! 今ここにはいないプレイヤーの安全がっ私たちの平穏がっ今日これからの戦いで得られるのだ! 義は私たちにある! ならばっ正義を行う私たちに負けはない! 正義は悪に勝つものなのだから!

 集った勇気ある戦士たちよ! 力を貸してほしいっ。明るい未来のために私と共に戦おう!」

 ラスツイスは最後に手を振り上げた。それに応えるように討伐隊もヴァサリアント中に響く鼓膜が痛くなるような大声を上げ、手を振り上げた。士気は十分に高まった。人と戦うことに不安があった者も皆と共に戦うのならば大丈夫だと不安を晴らす。

 ここにいる者ほぼ全員に不安はあった。世界の平穏のため正義を為すためといった志を持ち参加はしても、平和な現代日本では戦争や紛争はなく、命を賭けた戦いなど誰もが未体験だ。緊張と不安があって当然なのだ。それがない者のほうがこの場では異端。例えば敵討ちに暗い思いを燃やしている者は不安を感じず、やっとこのときが来たと戦いを心待ちにしている。一人では仇さえみつからずに無駄死にすると考えていてところに今回の作戦だ。この機会を逃しては復讐を果たせない。そんなふうに考えている者が何人かいる。

 ラスツイスは道具を受け取るように指示を出し、台座を下りた。そして誰にも見えないように小さく安堵と不安の混ざった溜息を吐いた。

 いくら指揮に優れているとはいえ、この人数に指示を出すのは初めてだ。さらにいままでは遊びの中の自分も楽しめる指揮だ。今回の指揮は人を傷つける、できればやりたくない。ラスツイス自身が不安を抱えていた。人を傷つけるということにもだが、味方に被害が出るということも不安にさせる。戦うのだから被害は出て当たり前。しかしその感覚は戦いを生業とする人種のものだ。ラスツイスはそういった人種ではないし、ここにいる者たちもそうだろう。そんな人たちを戦いに駆り立てるような発言に迷いを感じているから出た不安の溜息。それを隠し通せたことの安堵の溜息だ。

 強制参加組が口々にお疲れ様と声をかける。それに笑みを浮かべ応える。トップが不安を表に出しては駄目だと考えているからだ。ラスツイスが不安を感じているとわかれば、この集団にも広がっていくだろう。そして動きが鈍り被害が増すかもしれない。自分のせいで余計な被害を出すわけにはいかない。内心、厄介なことを引き受けたと考えていた。

「聞いたように強制参加組は先行し、情報を集める。

 君たちの道具は先に受け取っているので、今から渡す」

 ラスツイスは一人ずつに印の布と死なずの紅玉とポーションなどを渡していく。通常一人一個しか持てない死なずの紅玉を複数個持っているのは、管理者から渡された特製の道具袋に入れているからだ。

 ヴィオも受け取った布を上腕に巻き、ポーションを道具袋に入れる。死なずの紅玉はすでに持っているので、お金をもらった。

「全員準備はできたか?

 よしっ出発だ」

 ラスツイスの号令で先行隊は臨時の転送装置に入っていく。

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