現れだした悪意
泡村に帰ったアイオールとタッグの問題解決ではなく死亡する可能性があるという話はギルドメンバーに暗い影を落とす。それでも閉じ込められたときほどではなく、アイオールが励まさずとも各自で乗り越えた。非日常に放り込まれ、少しだけ精神的に丈夫になったということだろうか。一回だけならば確実に防ぐことができるという保険もあるというのも安心材料の一つだろう。
第一回の通達があり、三週間ほど過ぎて人々の暮らしに変化が現れだした。世界全体に漂っていた不安な雰囲気が薄れだした。なくなったわけではない。けれども常に不安でいることもなくなった。人は慣れる生物ということなのだ。行動に注意深さが増し、必要以上に不安になることがない。大体このような感じで命を賭けた強制廃人プレイな日々を送り出す。街や村に引き篭もり安全に過ごすという暇な日常に耐え切れず、ゲームを進めだしたともいえる。実力が高いにこしたことはないのだ。実力が上がるということは死ににくくなるということなのだから。
いつものようにルーの作った朝食を食べていたとき、緊急回線が開く。内容は『連絡事項あり、午後三時までにバッフェンスト城大広間にこられたし。各首都に臨時転送装置あり』というものだった。
「今回は私も行きたい!」
ウィンドウを読んだとたんリオンが手を上げた。
「反対する気はないが、あまり羽目外すんじゃないぞ」
保護者のような物言いでタッグは忠告する。状況に慣れてきたので、今回は自分たちがフォローする必要ないだろうと考え許可をだした。
「わかってますよ」
「今回も二人だけしか入れないだろうし、俺は行かない。気をつけて行ってこいよ」
「まあ道中強いエネミーがいるわけでもなし。油断しすぎなければ大丈夫さ」
アイオールたちは十一時までのんびりと過ごし、グランドセオへと向けて出発した。今回もヴァサリアントに臨時の転送装置があるので、前回よりも遅くに出ることができるのだ。
アイオールが出る前にヴィオはセバスターに誘われ、泡村を出ていた。
「採取についてきてほしいってことだけど、具体的にはどこに行くんだ?」
目的地を知らされていないヴィオはセバスターに聞く。
「もう少し先に行ったらいろいろな薬草が生えてる群生地があるんだ。目的地はそこ。危険はないよ、何度も行ってるし。だよねミゼル」
「はい。ヴィオさんのレベルは17でしたよね?」
ヴィオは頷く。
「でしたら大丈夫です。私はレベル15のとき行って、たいして苦戦しませんでした。
あそこにいるのは黄色の蛇と五十センチのモグラです。蛇はダメージ毒持ちなので毒を受けた場合、事前に渡した解毒薬を飲めばなんの問題もなく回復します」
ダメージ毒には三種類ある。微毒、猛毒、致死毒だ。微毒は十五秒に体力1%のダメージ。猛毒は五秒に1%のダメージ。致死毒は一秒に1%のダメージとなる。今回ヴィオがもらった解毒薬は微毒用だ。
「モグラは地中から奇襲してくるので先制されやすいです。一度地上に出てしまえば頻繁に地中に戻ることはありませんので、一方的に攻撃されることはないはずです」
ミゼルと呼ばれた少女が注意点を述べていく。金髪をボブカットにしたヴィオとセバスターと同じ年ごろの少し固いところのある少女だ。背に弓と矢筒を背負い、腰に接近戦用のナイフを下げている。セバスターも同じような装備だ。似ていて当然だった、ミゼルはセバスターに戦い方を教えてるのだから。
泡村を出て一時間と少しして目的地の盆地についた。
早速セバスターは地面に座り込み採取を始める。ヴィオの目にはどれも同じ種類の草に見える。ミゼルも周囲を警戒しながら、ときおり地面にしゃがみ採取している。その手に掴んでいる草は、地面に生えているものと種類が違う。
「俺には手に掴んでいる草が地面に見えないんだけど、どうなってんの?」
「植物知識スキルがあれば種類の違う草が見えるようになるよ」
「セバスターのように秀才の素質があったり熟練化しないと、採れる種類は多くはないです。
私も植物知識は取ってますが、凡人の域なのでそんなに役立つものは採れません。そんなものでもセバスターはいくつか薬を作ってくれますから助かってます」
「こうやって護衛してくれるから、俺のほうこそ助かってるんだ。薬はそのお礼なんだよ」
「お互いに助かってるってことだな」
セバスターの採取は続く。エネミーも現れ、護衛の二人は仕事をこなしていく。遠くにいる敵はミゼルが弓矢で対処し、近い敵はヴィオが倒していく。ミゼルの言う通り、苦戦はしない。二時間ほど採取は続き、十分採ったと判断したセバスターは帰る前に昼食をかねた休憩を提案した。
「ルーさんに頼んで、おにぎりとからあげと卵焼き作ってもらったよ。麦茶もある」
「ちょっとしたピクニックですね」
「俺警戒しとくから二人は先に食べていいよ」
「いいんですか? それでは遠慮なく」
セバスターの正面に座りミゼルはわずかに嬉しそうな顔を見せる。変化が小さく、そして男二人はその表情を見逃したので気づくことはなかった。
同時に三匹のモグラが現れ食事が邪魔された以外は、問題なく食事を終える。出していた食器などを片づけたとき悲鳴が聞こえてきた。
「どっちから聞こえた!?」
セバスターは周囲を見回し聞く。
「おそらく南東かと。遠くはないはず」
「行く?」
短いヴィオの問いに二人は頷いた。
走ること一分弱。街道でプレイヤー同士で争っている。争うというよりは一方的な展開だ。五対二の戦いで、二人組のほうは分断され連携をとることもできていない。
セバスターとミゼルは止めるため、矢を放つ。当てるつもりはない牽制のためだ。これで五人はヴィオたちに気付く。引くぞという声がヴィオたちの耳にも届く。去る前に彼らは倒れて動けなくなっていた二人組に各々の武器を突き立てた。二人組の絶叫が周囲に響き、消えていく。すでに死なずの紅玉を使っていたのか、持っていなかったのか二人の姿は消えていく。死んでしまった。
ヴィオたちは走り去る五人組を呆然と見送る。林から出てきた誰かが五人組に合流する。五人組は何かを言ってそのまま走り去る。合流した者はヴィオたちを見て、一瞬動きを止めた。距離が遠く正確にはわからないが、苦々しい表情になっているように見える。彼は林を指さすと、五人組を追って走り去った。
「なんだったんだあれは」
かろうじてセバスターはそれだけ吐き出す。
「……あの五人組、笑ってました。同じプレイヤーにとどめをさすときも。どうして笑えるんでしょう? ゲーム内で死ぬことは危険だって知ってるはずなのに」
震えた声でミゼルが言った。
「林の中行ってみる?」
ヴィオの声は硬い。
「危なくないか? あんな奴らの仲間がいた場所だぞ?」
「……林から出てきた人と話したことがある。それどころか助けられもした。俺のほかにも助けられた人がいたんだよ。
そんな人なんだ。いい人だと思うんだ。
俺がコサブロウさんに気付いたように、あっちも俺に気付いたはず。だから意味なく指さすなんてしないと思うんだ」
「近くまで行ってみましょう。でもなにか危ないと感じたら引き返す、これでいいですか?」
それならばとセバスターは頷いた。
コサブロウが出てきた場所に近づくと、小さくうめく声が聞こえきた。誰かいると声をかけながらもっと近づくと、気絶しながら痛みに耐えているプレイヤーがいた。そのそばにはポーションが置かれている。
「大丈夫か?」
ヴィオが彼を揺らすが起きない。三人とも他人がどれくらいダメージを受けているが判別するスキルを持っていないので、どれくらいの傷なのかわからない。ポーションも対象が気絶している状態だと使えないのだ。治癒魔法ならば効果はあるが、これも習得していない。
「どうする?」
ヴィオは二人を振り返り聞く。
「どうしましょうか。疑がってかかれば、この人はあの五人の仲間で私たちの本拠地を知るためわざと怪我したとも考えられます。そんなことしてなんの意味があるかわかりませんが」
「ないかもしれないけど、可能性としてはゼロじゃないんだよな。
とりあえず背負って移動する? 泡村に戻るんじゃなくここよりは安全そうな場所に移動して、目が覚めたら話を聞けばいいかな」
セバスターの案を採用し、三人は移動を始める。気絶したままの男はヴィオが背負う。
ミゼルの記憶でここらに住人のいない小屋があると判明し、そこに運ぶことになった。
林の中にあるその小屋は、ホワイトヒストリーが本格始動するとなにかイベントが用意されるのではと言われている場所だ。今はプレイヤーたちに休憩所として使われている。小屋の中までエネミーが入ってこないので、休憩するには便利なのだ。
セバスターの手を借りてヴィオは背負った男をゆっくりと下ろす。だいぶ痛みがひいたのか男はうなり声を出すことはない。もう一度声をかければ起きるかとヴィオは起してみる。予想は当たり、男はゆっくりと目を開けた。
「……ここは?」
「あんたらが襲われた街道から少し離れた場所にある、小屋の中だよ」
「襲われた? あっ! ほ、ほかに二人いただろう! あいつらは!?」
勢いよく起き上がり、ヴィオを掴み聞く。
無言で首を横に振るヴィオを見たあと、セバスターとミゼルを見て同じ反応が返ってくると、掴んでいた手を放しがっくりと肩を落とす。
「なにがあったのか聞きたいんだけど、無理なら」
「俺にもなにがなんだか。レベルを上げるために氷窟に向かってたら、いきなりあいつらに奇襲されたんだ。プレイヤーからの攻撃でダメージ受けることに驚いていたら、あっというまに分断されて逃げようと林に入った。でも追いつかれて、斬られたんだ。すまんなんて言うならあんなことするなよっ」
「謝ったのですか。
なにか彼らに恨みをかうようなことをしたとか」
「初めて会ったやつらだ。恨みとかかうわけない。知らず知らずのうちに恨みをかっていたとしても、死ぬことの危険性知ってるはずなのにこんな手段でるか? 普通の神経じゃねえよ」
恐怖や悔しさ怒りをにじませた声で、今はいない彼らに対して怒鳴る。
「とりあえず、これを」
セバスターが自作のポーションを差し出す。男の体力はいまだ危険域のままだ。置かれていたポーションは念のため渡さない。普通のポーションだが、心情的に考えていらないだろうと思ったのだ。
「ありがとう。そういえば助けられことに対してもお礼を言ってなかったな。それについても礼を言う」
頭を下げ、もらったポーションを飲み干した。
「これからどうするのですか?」
「仲間にこのことを知らせに戻る。そしてあいつらを見つけ出すっ」
復讐するつもりなのだろう、声に憎しみが込められている。男の雰囲気におされ三人はなにも言うことはできなかった。復讐はいけないことだと口で言うのは簡単だが、被害にあっていないからこそ言える言葉でもある。
男はもう一度三人に礼を言って、小屋から立ち去る。昼食を食べていた時のようなピクニック気分はとうに消し飛び、なんともいえない重い雰囲気が漂う。
三人も小屋を去り、泡村へと帰る。少しでもあんなことのあった場所から離れたかった。泡村に帰っても重い雰囲気はついて回り、ギルドメンバーになにかあったのかと心配されることになる。三人は思い出して気分のいいものではないので、なんでもないと誤魔化した。
夕方五時になり、ルーが今晩の献立に頭を悩ませているときに、でかけていたアイオールとリオンが帰ってきた。二人の雰囲気もあまりいいものとはいえなかった。
「嬢ちゃん、ついにリオン嬢ちゃんのべたつきに限界がきたのか?」
「そこまでしつこくつきまとってないないよ!」
「もう少しだけ離れてくれてもとは思うけど、そこまで気になってはないよ」
「じゃあなんで沈んでるんだ?」
原因はなんとなく予想はついているタッグだが、気晴らしのためわざとふざけた感じで話しかけた。
「今日の通達が碌なことじゃなくてね」
「ほんと胸糞悪くなるってのはあんなことを言うんでしょうね」
「リオン、胸糞悪くなるとか言わない!」
兄として妹の言葉づかいを注意するセバスター。
「だって聞いててほんと気分の悪くなる話だったんだから」
「嬢ちゃん、今日はどんな話だったんだ?」
「プレイヤーキラーのことだったよ」
タイムリーな話にヴィオたち三人は顔を見合わせた。
「はじめは、問題解決の近況とか、長時間稼働していることでのバグについてだった。んで次がコロシアム以外でもプレイヤー同士の戦闘ができてしまうって話だったんだ。
問題はここから。すでにプレイヤーキラーが出始めているってこと。ただ邪魔するだけならまだ可愛いほうだ、なかにはプレイヤーを殺してしまうって連中もいるって話だったんだ」
これは管理者たちが予想していた時期よりも早い発生だった。そして殺してしまう者が出てくるのも、もっとあとだと思っていたのだ。さすがに殺しは躊躇うだろうと。プレイヤーの良心を信じていたのだが、裏切られる形となった。
「殺すって何考えてんだその連中」
「さあね、そんな奴らの心情なんてわかりたくもない。
それで各世界でパトロールをしようって話になった」
「そのパトロールの目的は? サーチアンドデストロイじゃプレイヤーキラーと似たようなものだぞ?」
「ある程度いためつけ動かなくするか、気絶させて管理者に引き渡せば隔離施設に放り込むことになってる。ゲームを止められるようになるまで、そこで拘束する。そうすることで被害が増すことを防ぐんだとさ」
「問題解決だけでも頭悩ませているのに、さらに問題が湧いて苦労してんだろうな管理者。
あ、その苦労を減らすためのパトロールか。プレイヤーの起こした問題はプレイヤーが対処する」
「だろうね、パトロールの話がでたのはプレイヤー側からだし」
「悪い奴もいれば、いい奴もいるもんだな。それでパトロールの詳しい話はどうなってんだ?」
「実行は明日から毎日、各ギルドから数名とボランティアを首都庁舎跡に、朝九時までに集合させることになってる。出す人数は所属する人数の割合によって変わってくる。うちは一人ずつだよ。
これからでかけるときは少人数での行動はなるべく避けてくれだとさ。大人数だと狙われたって情報はないらしい。
皆もこれら注意してくれよ!」
「もう遅いかも」
「ヴィオ? どういうことさ」
「今日ね、襲われた現場にちょうどいあわせたんだ。セバスターとミゼルも一緒だった」
「だ、大丈夫だった!?」
「襲われたわけじゃないよ。どこも怪我してない。悲鳴が聞こえてどうしたのかと思って現場にむかったら出くわしたんだ。俺たちを見たら逃げてった」
「それで三人は雰囲気が暗かったのか」
出会っただけではなく、断末魔や生き残った男の雰囲気にもあてられたせいでもあるが、それは言わない。
「どこに出たんだそいつら」
「南に街道がありますよね? それにそって歩いて一時間といったところです」
「そんなに離れた場所じゃないんだな」
「そこから西へ逃げて行きました」
「そっちに本拠地があるのか、それとも本拠地を誤魔化すためわざと違う方向に逃げたのか」
「わかりません」
あとを追えばわかったのだろうが、あのときの三人にはそんな勇気はなかった。
「そうか。そいつらはもしかするとここら辺を本拠地にしてる可能性もあるんだな」
「十分に気をつけないとね。皆も移動はなるべく一人でしないように」
マルチーナの言葉に皆頷く。
各地でプレイヤーたちのパトロールが始まり、プレイヤーキラーで捕まる者も少数だが出始めた。その少数のプレイヤーキラーはもとからそういった行為をしていて、通達に集まることのなかった者たちばかりだった。通達を聞きに行っていないのだから、殺すことでなにが起こるのか知らず、知らされたあとは自分のしでかしたことに震えるばかりだった。隔離施設に入れてもそれは変わらず、寝てもうなされ起きるというとても安静とはいえない日々をすごすことになる。
パトロールによってプレイヤーキラーの被害は減った。しかし警戒を高めた彼らはさらに捕まえることが難しくなっていた。特に過激なプレイヤーキラーたちは一定の被害を出し続けるが、慎重に動いていることで捕まることが少ない。常にまとまって動いてることで、おそらくギルド全体でプレイヤーキラーを行っているのではと推測されていた。
パトロールが始まり約一ヶ月。今日はヴィオの参加の番だ。参加はこれで二回目だ。
ヴァサリアント庁舎跡地には、百名近い参加者が集まっている。ここから十人近くの集団にわかれ、管理者が用意してくれた臨時の転送装置を使ってウォルタガ各地へと飛ぶ。
パトロールは暗くなる前まで続けられる。暗くなると移動するプレイヤーは少ないし、プレイヤーキラーたちも睡眠を必要とするので、夜の被害はとても少ない。
転送装置で飛んだヴィオたちは囮役と隠れながら移動する人に分かれる。このとき互いになにができるか、どれくらいの強さか確認することを忘れない。互いのをことを知れば拙いながらも連携はとれる。それに低レベルの者を囮にしては死にに行かせるようなものだ。ヴィオはいつも隠れて移動するほうに入っている。最終クローズ組は大抵こっち側だ。
装備のランクを下げた三人の囮役が街道を歩いている。パトロールが各地を巡回していることは既に広く知らされているので、相手も警戒は高い。手を抜いた警戒をしてレベルがあまり高くないように見せかける。ほかの者は近くにある林の中を静かに移動している。
そんなことを続けた昼過ぎ、ヴィオの耳に聞き捨てならない動物の声が聞こえてきた。ヴィオはせっかく動物の声が聞こえるのでこの長所を生かそうと、動物知識スキルをとって野生動物の姿を見えるようにしていた。森や野原などでみかける動物に食糧を与えると、簡単な指示を与えることができたり情報をくれると、動物たちと何度か話し判明している。これによりヴィオの周囲の状況を捉える能力は格段に上がっていた。人と共にいる動物ならば動物知識がなくとも誰にも見えるが、野生動物ならばそうもいかない。ヴィオはそんな野生動物に頼んで動物知識のないプレイヤーに気付かれずに動いてもらうことができる。
今回は頼んでいないので、偶然動物たちの声から情報を得たことになる。
「皆さん、俺たちのほかに隠れている人がいるようです。位置はこの先。詳しいことはわかりません、少し時間をいただければわかるかも」
「頼めるか。囮役の奴らには進むペースを落とすように指示するから」
もしかすると囮を見張っている人がいるかもしれないと考えての発言だ。おかしな動きを見せると警戒され、囮が無駄になる。連絡をとる方法は超能力スキルのアーツ、テレパシーを使う。事前の打ち合わせで、テレパシーを使うと決めてあったので囮役の人たちは突然の連絡にも驚いた様子は見せずに、自然にふるまっている。
その間にヴィオは周囲に見える鳥以外の動物と交渉し、近場でどこにどれだけの人間がいるか調べてもらう。
二十分ほどかけて戻ってきた動物たちによると、だいたいこの先、人の足で早足で歩き十分ほど行ったところにプレイヤーキラーたち七人が隠れているらしい。そのうち一人が囮を見張っていたが、動物たちと入れ替わるようにこの場からいなくなった。
「こちらから奇襲をしかけよう」
情報を聞いた女剣士が提案する。
「具体的には?」
聞き返したのはこのパーティで一番レベルの高い魔法使い。レベルは三十三で、魔法スキル三つを持つソーサラーの称号を持つ。魔法スキル二つではマジシャンで、四つではウィザードの称号となる。アイオールはウィザードだ。
「あなたは広範囲で威力の高い魔法は持っているか?」
「火の魔法で円範囲で炎が地面から噴き出す魔法は持っている。しかしここは水属性の地ウォルタガで火の魔法は若干威力が削られる」
「ほか遠距離攻撃を仕掛けられるものは?」
「僕は弓を鍛えてる」
狩人風な少年が手を挙げた。もう一人遠距離攻撃法を持つ者いるが、囮役として参加していた。
「その二名を動物の声が聞こえるの者が案内し、挟撃する形で攻めるというのはどうだ?
魔法を使うのに少しのタメが必要だろう? あらかじめ移動しておくことで、即座に使えるようにしてすれば隙は少ないと思うのだ。弓にもためることで威力の上がるアーツがあったずだ。それをもってなくともしっかり狙えるのは有利だろう?
それに初めに大打撃を与え、囲んでしまえば戦意もいくらか下げることが可能ではと思う。あとそちらが奇襲してくれれば、相手の詳しい位置もわかり攻めやすい」
「ふむ……俺はそれで構わない」
魔法使いが賛成の意思を示す。ほかに反対意見は出ない。ヴィオもそれでいいかと考える。
「じゃ、それでいくって囮役にも伝えるぞ?」
テレパシー持ちの男が最終確認とばかりに聞き、皆頷く。
そうと決まれば、ヴィオたち三人は急いで奇襲位置へと向かう。ヴィオの肩には案内役のリスが乗っている。そのリスから詳しい位置を聞き、プレイヤーキラーにみつからない位置へと陣取る。このとき魔法の届く位置にも気をつける必要があったのだが、うっかり忘れていた。だが運よくぎりぎり届くという位置に移動できていた。全速力で移動したため現実ならば息切れしててもおかしくはない状況で、攻撃役の二人は準備を進める。その準備がすんだ二人に、プレイヤーキラーのいる詳しい位置を話していく。こうして準備は終わる。その一分後、囮役の姿が見え始めた。まだ少し遠く魔法を使うには早いと判断した魔法使いは、もう少し引きつけるため使わない。徐々に近づいてくる囮役の顔が緊張からか強張っているように見える。その表情がはっきりとする位置まできたとき、ヴィオはプレイヤーキラーのいる茂みがかさりと揺れた気がした。そして魔法使いは魔法を放つ。
「ヴォルケイノ!」
茂みに炎が上がる。木の葉や木は燃えないが、爆風に煽られ激しく揺れる。効果音と同時に悲鳴が上がる。なにごとかと出てきたプレイヤーキラーたちのうち三人を矢が射抜く。それを合図として、隠れていたプレイヤーたちも出てきてプレイヤーキラーたちに突撃する。
奇襲する側が奇襲され、慌てている。ここまで完全に奇襲されたことはないのだろうと思わせるくらいの慌てぶりだ。これだけ動揺すれば、パトロール側は苦戦することもない。人数的にもパトロール側が有利だ。瞬く間にプレイヤーキラーたちは傷ついていき、降参していく。痛みから気絶する者もいる。逃げ出そうとした者は女剣士が目ざとくみつけ逃がさなかった。
今回の戦いはパトロール側の完勝だ。ついでにここ最近では捕獲した人数が一番多い。
「ちっくしょっ! なんで俺たちの位置がわかったんだ!?」
「こちらの作戦勝ちということだ」
「獲物のくせにっ大人しく狩られてればいいのによ!」
「……それは本気で言ってるのか?」
女剣士は人ではなく別の生き物を見る目でプレイヤーキラーを見る。パトロール側の人間は皆同じ目だろう。
「本当に命がかかっているんだぞ!? なんでそんなことが言える!」
「だから面白く狩れるんじゃないか。この手で命を消せるたまらない遊びだったぜ?」
「お、お前は」
いくども殺してきたことで、命がかかっていると知っても楽しんでしまうようになった人間がここにいる。人として踏み込んではいけない領域に足を踏み入れた者たちだ。彼らが浮かべる笑みは、ヴィオたちに嫌悪感しか与えない。
手足をしっかりとロープで縛られ、軽量化の札を貼られ引きずられ運ばれるプレイヤーキラーたち。その中にヴィオは見覚えのある顔をみつけた。セバスターやミゼルと一緒にいたときに見たプレイヤーキラーだ。じっと顔を見るヴィオをにらみ返す、どうやら相手はヴィオのことを覚えていないらしい。
七人という多さの捕獲者を連れて戻ってきたヴィオたちを、ほかのプレイヤーたちは歓声で迎えた。これで被害がさらに減るのだから、喜ぶのは当然か。
「たしかに預かりました」
管理者の一人が、プレイヤーキラーたちを隔離施設へと転送する。
「彼らから新たな情報がもたらされれば、お知らせします」
そう言って管理者も消えていった。
これで今日の仕事は終わりだ。集まっていた者たちは、各自のねぐらへと帰っていく。ヴィオもヴァサリアントで夕食を食べてから泡村へと帰っていった。




