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プロローグ


 世に二人の天才がいる。一人は世に出て、もう一人は世に出ることはなかった。

 似たような系統の天才だった彼らが会うことはない。

 しかし彼らの子供は出会った。

 その出会いは大事件のきっかけとなる。

 被害を出し、科学の発展をもたらした出会い。

 被害が出たことに憤慨する者もいるが、誰もが事件を全否定はしない。

 なぜならば暮らしがさらに便利になったからだ。

 加害者が望んだことは特別なことではなく、被害者たちの望みもまた同じ。

 複雑な思いを生み出す事件の幕開けはまだまだ時間を必要とする。

 


 20XX年、新しい形のコンピューターが生み出された。

 記録と利用方法の多様性に優れたノイマン式コンピューターと違ったそれは、シミュレーションに特化したものとなっている。

 ただのシミュレーションならばノイマン式でもやれていることだ。しかしそれは画面上に起きていることを第三者の視点で見るといったもの。

 イクカワ式と呼ばれるようになったそれができることは、当事者として体感できる仮想現実を実現させたコンピューターだ。

 ブレインエリアという特殊空間を電子空間上に生み出し、そこに偽体と個人用に調整された偽脳を設置、それを操ってまるでブレインエリアにいるかのように振舞うことができ、五感すらあるという。

 体を動かすための命令を下すのは脳だ。外部からの刺激を受け取り認識するのも脳だ。その脳からの電気信号を偽脳に送り、肉体を操り、ブレインエリアが発する刺激信号を偽脳が受け取り脳へと発信。結果、脳は誤認する。

 この受送信を完成させるまで並々ならぬ苦労があった。軽く二時間ドキュメンタリーができるくらいには。意識して動かし熱や刺激を感じる体性神経と無意識に動いている内臓器官に関連する自律神経の区別をコンピューターが認識できず、安全に配慮したにもかかわらずテスターが心停止に陥ることもあった。

 イクカワ式はシミュレーションすること以外は、数世代も前のノイマン型にすら劣る。しかしノイマン型でそれらを補ってやるとたちまち最新鋭の代物となる。

 製作者は始めからノイマン型との共存を考えて作ったのかもしれない。プログラムの組み方や部品のあり方からもそういった意図が見えてくる。

 事実、イクカワ式単体で動かした場合、ブレインエリアは六畳にも満たない広さしか形成できない。だがノイマン型との共存コンピューターならばいっきに世界が広がる。それこそ計算上は地球以上の広さとなるのだ。

 当初、このコンピューターを歓迎したのは盲目や半身不随といった後天的障害を持つ者たちだった。ブレインエリアでは健康体でいられる。何の不自由もなく以前と同じように動き回れることは大きな喜びとなった。

 次に歓迎したのは役者だ。ブレインエリア内ではどんな場所も再現できたし、死すらも体験でき、どんな無茶も少ないリスクのみで経験できる。演技の幅が広がるのだ。仮想現実内の出来事とはいえ一度経験すれば、まったくのゼロよりも演じ方が違ってくる。

 そして次に目をつけたのがゲーム開発者たちだった。

 彼らはブレインエリアに、過去の多くの人が思い描いた夢を見た。すなわち、思い描いたなりたい自分になれるゲーム。現実では難しくとも、ブレインエリアでは可能なのだと思わせるゲーム。

 開発者たちの腕しだいで、プレイヤーから開発者まで多くの者が夢見たゲームを作ることができる、自分たちで生み出せる! 誰も見たことのない、遊んだことのない、まったく新しいゲーム。見事完成させると、待つのは最大級の賛辞と最大級の自己満足。

 開発者魂に火がつくのも無理はない。

 彼らは仕事仲間に声をかけ、人材を集めた。どうせ作るのならば最高のゲームを作ろうという心意気は誰もが持っていた。

 ゼロからの出発だ、難航するのは当たり前。職場に怒声が飛ばない日はなく、大歓声が上がることもしばしば。

 ノウハウを学ぶため試験的に作ったRPGは短いシナリオに関わらず、関係者にとって満足できるものとなった。いい年した大人たちが興奮して遊んでいたのだ。

 そして失敗と成功を繰り返し五年の月日をかけ、彼らは三つの多人数同時参加型オンラインゲームを作り上げた。

 終わらない戦争を続ける大陸の各国の兵士となり、作戦を練り、仲間と協力し、陣地を広げる。巨大ロボからレーザー銃まで使える未来型戦争ゲーム『サウザンドウォー』

 デフォルメされた動物や神話上の生物までありとあらゆる生物の住む世界で、彼らをパートナーとし開かれる様々な種目のコンテストに出場することを主な目的とした『ファンタズムアニマル』

 六つの世界で構成され、まとめて一つの世界とされる剣と魔法の世界。そこに存在する遺跡や洞窟に挑戦し、人々の依頼を受け、強敵と戦い、自らを鍛え続ける冒険者となる『ホワイトヒストリー』

 開発陣の渾身の作品となったそれら。面白くて当然だという自信に満ち溢れたゲームたちは、テスター第一陣、第二陣のおかげで不具合もほとんどなくされ、事実上日本国内オープンともいえる最終クローズを迎えた。

 抽選者数は各一万人。応募した合計人数は七万人を越えた。

 物語は、そのクローズ抽選に当選した少年が遊ぶ日から始まる。


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