隣国との戦の話 二日目
明けましておめでとうございます。
なかなか筆が進まずに更新が遅くなってしまいました。読み辛かったらすみません。
奇襲作戦の朝、やはりというか当然というか、敵軍が奇襲に備えた部隊を配置していたことが斥候の報告で分かった。
奇襲部隊(元陽動部隊)は森に潜み、機を窺う形となっている。
作戦と言えるか微妙なところだが、この部隊を討って、左翼が敵軍と衝突した後に奇襲を掛ける。
字面だけ見ると簡単そうだが、仕掛ける効果的なタイミングが難しい。
早すぎると奇襲部隊が孤立して攻められてしまう。
逆に遅すぎると左翼の助けにならない。
どう転ぶかは分からないが、両軍が進軍を開始したタイミングで作戦を開始することになった。
左翼の進軍を待っていると、敵軍の偵察がやって来た。
「・・・!?」
敵が声を出す前に見張りがやっつける。
「敵の斥候を仕留めました。二名です。」
部隊長に報告し、死体を片付けて待機を続ける。
どちらにしてもバレるので変わらないが敵兵は一人でも少ない方が良い。
それから暫く経って進軍が始まり奇襲作戦の第一段が開始する。
自分は月華を持ち、奇襲部隊でも実力に覚えがある仲間達と先兵を務める。
他の仲間は潜み、機が来るまで待ち伏せていた。
「手筈通り最初に見張りを倒す。次に優先するのは弓兵だ。行くぞ」
先兵部隊のリーダーの号令の元、作戦を開始。
ひっそりと近づき、見張りを仕止め、突撃する。
「敵襲!迎え討て!!」
これに気付いた弓兵より一斉に攻撃を受け、待機していた他の兵も攻めて来る。
先兵と共に弓兵を倒そうとするが、何人かは矢が当たり負傷。
俺は矢除けの加護のお陰で弓が当たらないらしいので俊足を活かし、弓兵に突進する。
「双剣の奴を優先して狙え!!」
「何故当たらない!?」
「アイツは化け物か!?」
「来るぞ!」
弓兵の叫びが響く中、敵の勢いを削ぐことを優先し、歩兵をすれ違い様に斬りつつ弓兵を順に負傷させて行く。
先兵が一通り掻き乱したタイミングで様子を伺っていた部隊長が叫ぶ。
「今だ!全軍突撃!!」
奇襲部隊で一斉に攻め入ろうという時に、敵隊長は間髪入れずに降伏を申し出た。
「待ってくれ!降伏する!全員、武器を置け!」
このまま抵抗しても勝てないと分かったのだろう。
だが、困った。
ここに縄で縛って置いていくわけにもいかないし、連れて行くわけにもいかない。
返そうかという案も出たが、敵隊長から敵前逃亡と疑われると困るので、捕虜として欲しいという申し出があった。
結論として、奇襲部隊の数名で本陣に捕虜として連れて行くということになった。
連れて行くのは主に負傷者から戦力的に乏しい者が選ばれた。
そうして、本来予定したはずの奇襲作戦を実行するため、移動を開始する。
我が部隊は左翼と衝突している敵の斜め後方に位置しており、戦いは既に始まっていた。
部隊長の号令の元、奇襲を仕掛ける。
「作戦開始!突撃せよ!!」
自軍の左翼と衝突している敵軍の右翼部隊は拮抗した戦いを繰り広げていたが、奇襲を機に瓦解を始める。
殆ど挟み撃ちの状態のため、敵は混乱し、急速に沈んでいく。
誇れるものでもないが、奇襲では一六人と戦い、討ち倒した。
先程の敵の奇襲対策部隊では七人。
昨日の戦いと合わせて八一人を手に掛けたことになる。
自軍の左翼の誰もが殲滅するのは時間の問題であろうと思っていたが、敵の中で一人だけこちらの味方を次々て倒している奴がいた。
そいつはデカい図体で大太刀を軽々と振り回し、振れば振るだけ味方がやられていく。
「この牛久慶吾がいる限り、勝ったと思うな!骨のある奴はおらんのか!!」
この一声で味方は怯み、敵の士気が上がってしまった。
「牛久様に続け!」
「持ち直すぞ!」
優勢だった左翼に少し、陰りが見え出した。
この状況を覆そうと敵と戦うが、なかなか倒れない。
身体に気を流して、疲れないように努めているが、そろそろガタがきそうな状態となってきた。
五人程倒したあたりで、牛久慶吾が自分の前に立ちはだかる。
「貴様、なかなか骨がありそうではないか。手合わせ願おう。」
そう言って、重い太刀を浴びせてくる。
「くっ…!」
月華と身体に気を集中し、陰の型で防御するも気を抜くと吹っ飛んでしまいそうな勢いだ。
切り返すも、守りが早く、刃が届かない。
「ほう、やるではないか!名乗るが良い!貴様の名をこの牛久慶吾が覚えておいてやろう」
「天貴だ…!」
陰陽の型を取り、月華に気を込めて切りつける。
グァンと鈍い音がして、大太刀にヒビが入った。
「気に入ったぞ!天貴とやら!貴様もその双剣も!貴様を倒し、俺がその双剣を貰い受けてやろう!」
牛久がやり返し、剣と剣がぶつかり合う。
俺の方は何とか堪えられているが、実はかなり余裕がなく、身体はガタガタで気合だけで耐えている状況だ。
「楽しませてくれるではないか!そらそらそらそら!」
ガン!ガン!ガン!
奴の攻撃の勢いが増し、次々と仕掛けてくる。
気も体力も残り少なく、心も折れそうでいつ倒れてもおかしくない状況だ…!
と、そんな時。
「敵将討ち取ったり!!!」
我が軍が敵将を倒したようだ。
「ふん、興醒めだ。天貴よ。また打ち合えることを楽しみにしているぞ、さらばだ!」
牛久慶吾を始め、敵軍が撤退して行った。
(勘弁してくれ…!あんたにはもう二度と会いたくない…)
俺は気身体を使い果たしたため、へたり込んでしまった。
この後は戦後処理が始まるのだろう。
自軍も帰還を開始する。
と、その時、戦場に悲鳴が轟き始めた。
遠目から見て、棍棒で敵味方を問わず、次々と襲い掛かっている奴がいる。
『あいつ』だ…!
不味いな…身体が動かない…
逃げる力が残っておらず、見つかったら終わる。
敵も味方も概ね退却ができており、こっちに来るのは時間の問題だった。
(来るなよ…!頼むからこっちに来ないでくれ!)
多分、一生でこれ以上ないくらい、心を込めて天に必死にお願いしている。
(見逃してくれ…!)
と奴を見て祈っていたら、目が合ってしまった気がする。
(あ、ヤバい…)
奴はゆっくりと歩き出し、そして段々と速度を上げて走ってこっちに向かってきた。
(死んだフリをしても無駄だろうな。せめて戦って逝くか…)
持てる気力と体力を振り絞って、どうにか立ち上がり、鞘の剣に手をかける。
数十尺程の距離まで近づいてきた時に、横から衝撃を受け、身体が宙に浮いた。
「え?何・・・!?」
「探したぞ!こんな所にいたのか!とりあえず、掴まれ!逃げるぞ!!」
部隊長が馬に乗って、探してくれていて、掻っ攫ってくれたことがわかった。
「助かりました…。死ぬと思いました…。」
「喋るな。舌噛むぞ。」
流石のヤツも馬の脚には勝てず、追うのを諦めたようだった。
立ち尽くし、ジッとこちらを眺めていた。
こうして、戦いは終わった。