選択
人生は選択の連続だ。そしてそれはとても非情で残酷で希望がある不可解なものだ。尚且つそれは原則として他者への配慮が必要であり、また自分の心に本当にそれは必要な事なのか問いかける必要がある。
安易にその場の雰囲気に呑まれてしてしまった行動は選択ではないと言う人もいるかもしれない。しかしそれはその行動を選択したのではなく、その場の雰囲気に流されることを選択したこととなり、結局それも選択なのだ。つまり、僕達人間は選択というとても夢と希望に満ち溢れるとともに、大きな絶望を孕んだものの呪縛から逃れることは絶対に出来ないのだ。
僕は今、選択しようとしている。パソコンにはいくつものタブが表示されていて、それらはすべて僕が自殺する為に楽な方法が無いか調べた痕跡である。きっと、自殺をするなんて人生から逃げただけだと言われるかもしれない。実は先ほど長々と哲学のような事を頭で考えていたけど、僕も人生における敗者であると思う。しかし、これも選択であり、人間いや、生物全てが持たされている呪縛を終わらせる方法の一つなのだと僕は考えている。
「よし、、この方法にするかな、、、」
今から、自らの暖かい肉体が本当に唯の冷たい肉塊に変わるのかと思うと声が震えた。
震えるぐらいなら自殺するなよと人は言うだろう。しかし、もう僕には生きる事よりも皆んなと同じように冷たい肉塊になるほうがどうしても幸せに感じてしまうのだ。
僕には、家族がいない。いや、いなくなった。それを僕は見ていた。僕の家には屋根裏部屋があってそこは隠し部屋のようになっていて一見分からなくなっている。これは父さんの遊び心で作られた部屋だ。そして、僕の部屋だ。
僕は屋根裏部屋の床に小さな穴を開けている。そこから、父さんや母さんにイタズラをするのが好きだったからだ。
例えば、小さなその隙間から少量の水を垂らして、驚かせたりするのだ。僕の部屋は服入れの近くにあり、服を取ったりしまったりするときは必ず通る必要があり、よくこのイタズラを仕掛けていた。
今日も、僕はいつものイタズラを仕掛けようと準備をして、屋根裏部屋に入って両親の帰宅を待っていた。
ガチャガチャッガチャ
ガチャガチャガチャガチャガチャガチャ
ガッ、、バキッ!ガチャン
どう考えても帰宅音ではなかった。僕は恐怖に震えた。しかし、好奇心も芽生えた。僕は自らが開けた小さな穴(実は幾つか空けてある)から玄関付近が見える所に這うように進み、覗き見た。そこには斧を持った。顔面が爛れて歯が横から見えている化け物がいた。
僕は恐怖で叫び出しそうになるのを我慢したが、音を少し立ててしまった。
「ネズミか?この時間はまだあいつは居ないはずだ。さて、準備を進めるか。」
僕は、怖くて仕方なかった。しかも、あの化け物が準備と言った口調はとても冷酷で楽しそうだった。それが更に僕の心を凍て付かせた。
とても長い時間が過ぎたように思えた。一階では常にガチャガチャと何か音がして、僕の恐怖は限界に達しつつあった。
その時、父さんの車の音が聞こえてしまった。
そして、車から降りてきた父さんと母さんがクルマから降りてきて、壊れたドアを見たのだろう。強盗か⁉︎と驚く声とともに家に入ってきた音がした。
そして、バケモノと出会った。
ナゼかバケモノはオノをすてて父さんと母さんに話しかけた。
「分かるかな?父さん、母さん。僕だよ、息子の〇〇だよ。」
ボクのアタマはコンランした。どういう事なのだろうか。息子は僕だよ、そう言おうと声を出しかけた瞬間。
「〇〇生きてたのか。良かった。本当に良かった。俺たちは×××とか言う出来損ないをお前の代わりになるかもしれないと思い、育てていたのだが、やはり出来損ないでな。お前とは程遠くいつも何処にいるのかもよく分からない奇妙なやつを飼っていたのだが、お前が戻ってきたのなら処分出来るな」
父さんや母さんだと思っていたニンゲンはバケモノと楽しげに談笑し、暫くすると共に家を出た。
談笑の間に僕の話ももう一回だけ訪れた。僕の正体があのバケモノのクローンであると分かった。そして、ボクは101体目のクローンだったらしい。
ボクハボクトイウニンゲンデハナイ?ボクハバケモノトオモッタソンゾイノカワリ?
そこで、いったん意識が飛び、そのあと死ぬ方法を調べ始めた。そして、僕が死ぬ方法を決めた時、家の電気が停止した。僕は捨てられたと確信した。
僕は包丁で首を自ら切った。首からは血が噴き出した。紫色の血が。
実は、薄々僕だって気づいていたのだ。ネットは弄って良かったから好きに弄っていた時、人間の血は紅い色だったのを見たとき、不思議に思っていたからだ。
暫く血が噴き出し、床を紫に染めたのを僕は眺めた。
「ああ、僕は人間ですらないのか、、、」
僕は人間であることを証明する自殺の選択が出来なかった。