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生きるロボ  作者: 木下美月
二章 美しいヒト
7/26

 朝日が窓から射し込んで、僕は目を覚ました。

 良い天気だ。

 正確性の高い予報によりそれはわかっていたが、朝になって改めて実感出来るのは、僕が生きている証拠だ。

 春が訪れた今日、僕はシュウに誘われていた。

 花見だ。

 桜なんていつでも見れるじゃないかとも思ったが、年中咲く桜の博物館のレストランは美味しくないし、仮想現実空間では、桜が見れても食事が出来ない。

 なるほど、きっと桜の下で食事をすることが目的なのだろう。それにどれ程の価値があるのかと思わずにはいられなかったが、シュウからの誘いを断るはずもなかった。


「おはよう、ユキ。スムージーができている」


 これから食事をする事を考慮して、軽くエネルギィを補給出来る物を用意してくれたのだろう。


「ありがとう」


 僕の言葉に少し静止した後、アールは部屋の隅に戻って行った。

 時々こういう事がある。

 大抵、そういう時は適切な対応手段が見つからない時だ。

 そりゃそうだろう。

 ロボットにお礼を言う人なんて想定されていないんだから。

 でも、近い内に成長型人工知能は「どういたしまして」くらい覚えてくれると思う。

 無意味な予測を立てながら、アールが用意してくれた朝食を嗜む。材料を入れてミキサーにかけるだけだから、不器用でも作れる。

 さて、片付けは頼んで僕は支度を始めよう。



「ユキ、こっちだ!」


 言われていた場所に行くと、既にシュウとその友人達が集まっていた。


「初めまして、ユキとアールだよ」


「へえ、人型ロボなんて珍しいな」


 シュウを含めて四人が一つのシートに座っていた。彼ら全員が、シュウと共通の趣味で知り合った仲間らしい。しかし全員が、別々の場でシュウと出会っている。つまり彼は多趣味なのだ。

 普段は他人ばかりの空間に行くのは拒んでしまう僕だが、今日はうまく馴染める気がした。


「初めまして、エミよ」


 最初に名乗ってくれたのは、桜よりも濃いピンク色の女性だった。クラブで知り合ったのだろうか。とにかく派手だが、見事に似合っている。嫌悪感を抱かないのはその為だろうか。


「俺はタケルだ」


「あたしはミツバ」


 残る二人にも会釈して、早速桜の下での食事会が始まった。

 この桜が幾つも咲いている地帯は、徹底的に薬をばら撒かれて、不衛生害虫が出ない事を約束された上で開放されている。開放といっても、入場料を取るのだから営業と言う方が正しい。しかし娯楽好きな現代人はこのロケーションが好きなのか、辺り一帯シートに埋め尽くされている。

 何のためにここで食事をするのか。

 マンネリ化した食事を楽しむ為か。

 花を愛でる事と食を楽しむ事を同時に行う、合理化か。

 そもそも花を愛でる事にどれほどの価値があるのか。入場料と同程度以上なくては、来た意味がないのでは。

 僕にはわからなかったけど、そんな理屈臭い話題は提起出来ず、なんとなく皆んなの話に耳を傾けていた。

 どうやらエミは本当にクラブで出会ったらしくて、僕も近々連れて行ってくれるらしい。

 タケルは美味しいレストランを知っていて、ミツバは古い映画が好きらしい。

 僕は特に話さず、聞きに徹していた。

 音楽の趣味なんて話せるわけがない。

 今だって、昔の人が桜を楽しんでいた理由がわからずにいる僕に、心を表現する音楽は向いていなかったんだ。

 話す事が出来ないし、食事も多くは喉を通らない。

 想像よりも少しだけ寂しい気持ちを抱いたまま、僕は解散の夕暮れ時までボンヤリしていた。

 それにしてもシュウは凄いな。巧みな言葉で皆んなの話を繋げて、会話に花を咲かせている。そのお陰で僕も花びらの一枚分くらいは会話に加われている。

 次はシュウと二人で話したいな。

 そんな事を考えてる僕を興味深げに見つめるエミを、僕は気付かないフリをした。

 今時、無闇に他人と関わるとロクなことがないからね。

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