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生きるロボ  作者: 木下美月
二章 美しいヒト
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「へぇ、初のソロだったんだな」


「うん……まあ、最初で最後のね」


 言った後でジントニックを口に含み、微かな辛味と僕の人生を重ねる。

 いつも辛い壁ばかりが僕の前に立ちはだかった。疎外感、欠落感、虚無感――。

 一体どれほどの困難に立ち会わなくてはならないのだろうか。どうして僕は周りの子みたいに上手に生きられないのか。

 そもそも上手とは何か。適応能力か。自ずと生まれる反発意識を抑える抑制能力か。いや、反発意識など誰も抱かないのか。周りの子が、僕が考えてる程世界に興味がないって気付いたのはいつ頃だったろうか。


「俺は良いと思ったけどな。ユキの中にある葛藤が耳から入ってきて、俺の心を強くノックしているみたいな。確かに昔の作品のオマージュかもしれないけど、そこかしこにユキが見る世界が表現できている」


 のぼせたような頭でシュウの言葉を咀嚼する。ああ、今までこんなに寄り添ってくれた人はいただろうか?胸が温かくなるのはアルコールの所為だけじゃないと思う。


「ユキ。脈拍数が増加している。あまり多量に摂取しない方がいい」


 アールのお節介が鬱陶しかった。こいつにはわからないんだ。壊れるまで呑んでいたい僕の気持ちも、シュウの言葉に惹かれる僕の感性も。


「そうか、疲れているのに誘って悪かったな。また会えると嬉しい」


 少し残念だけど、シュウの肩に乗った小鳥がアールと目を合わせている。赤外線で連絡先を交換しているんだ。


「じゃあ、いつでもメッセージ送って」


 シュウはそう言ってバーのマスターにカードを渡し、僕の分まで支払いを済ませると颯爽と店を出て行った。


「……僕らも行くか」


 アールに差し出された水を飲んでから立ち上がる。店内が空いていた為、ロボも入店出来たが、混雑時は外で待機させる事もある。もっとも、今時混雑するような店はあまり無い。


「ユキ、千鳥足だ。私の背中に乗るといい」


 店を出て、少し屈んだアールの背に言われた通り身を預ける。僕の大きくない身体くらいアールは軽々と持ち上げる。僕の背にはギターが背負われているけど、それこそアールにとって些事だ。


「シュウか……変わった人だな」


「確かに不特定多数の中で目立つ存在だ。ユキも似た所がある」


「そう?」


 その後は静かに、ゆっくりと流れる夜の中で僕は微睡んだ。

 美しい人だった。魅力的で。知性を感じた。

 彼は僕の音楽を肯定してくれた。ミカミさんは「歌唱力と声は素晴らしい」と批評したけど、僕が見て欲しいのはそこじゃない。

 シュウはちゃんとわかっていた。

 音楽という媒体を通して、僕が見ている世界をシュウも見てくれた。その事実がどれほど嬉しいか。

 きっと誰も理解してくれない。でも、それでいい。誰もが批判する音楽活動のお陰でシュウに出会えたのなら、それは僥倖。それだけで僕の今までが無価値ではないと思えた。


「ユキ、メッセージだ。今日はお疲れ様、ゆっくり休んでください、だそうだ。ユキのケータイに転送しておこう」


「シュウか。律儀だね」


 ユラリ、ユラリと心地良く揺れながら僕は眠りに落ちた。しかしアールは背負っている僕を揺らすほどヤワじゃない。きっと揺れていたのは僕の意識だけだ。

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