表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
生きるロボ  作者: 木下美月
エピローグ
26/26

生きるロボ

 

「え?なんでそんなハードスケジュールにしなきゃいけないの。まあでも折角こっちに来るならね……いいよ、ウチに泊まって行きなよ。相変わらず狭い部屋に住んでるけどね」


 トントンと、軽快に階段を降りながら、イヤホンから心地良い声を聞き流す。


「勿論、エミには感謝してるよ。だから招待したんだし。兎に角、夜七時だからね」


 あれから一年が経つのかと思うと、感慨深い。


 現代の医療技術のお陰で私はまだ生きれた。

 そしてアールの修理も無事に行われた。

 ただ、メンテナンス時にアールの異常が見つけられてしまった。

 そもそもあの事件の取り調べ時にアールの目による録画機能はハッキリとアールの異常を見せつけていた。

 それは人間に危害を加えた事。

 メーカーは躍起になって原因を探し、警察は責任の落とし所を探し兼ねていた。


 だけど、アールは提案したんだ。

「私の異常を見なかったことにすれば良い」

 なんて無責任な、と思うが、これは覿面だった。

 アールは自分のデータが消去されたり、壊されたりしたら、アールを開発した会社が『人に害を与えるロボ』を製造したという情報を流す様にプログラムしていた。

 つまりアールはデータに含まれる証拠を脅しに使って、この国の未来を担う企業に提案したんだ。

 だから研究者達はやむを得ずアールを修理し、野放しにする事を決めた。

 これでアールの異常は迷宮入りとなった。

 その上、アールは最新の技術をその身体に取り入れたんだ。


「ユキ、機嫌がいいな」


「今日は人生で最高の日になるだろう」


 私は伸びた髪が風に靡くのを感じて心地良いと思った。

 もしかしたらそんなに悪い世界じゃないのかな。


「アール、リハーサル通りに頼むよ」


 彼は肩にかけたギターケースを軽く持ち上げて「任せろ」と応えた。



「ああ、待っていたよ、ユキさん。いやあ、見違えたねえ」


「ミカミさん、今日もよろしくお願いします」


 ミカミさんは私の全身を眺めて何度も首を縦に振っていた。似合ってると受け取って良いだろう。

『カフェバーメロディ』で演奏するのは二回目だけど、あの時より遥かに良い演奏が出来るのは、既に確信している。


 今日は金曜日。

 入ってくる客もあの時より多いし、大事な友人も来るんだ。


「アール、ヘマするなよ」


「寝言は寝て言って欲しい」


 この返しの上手さは、プログラムされたロボじゃ真似できないだろう。

 私は十分に笑ってから大きく伸びをした。

 やっと始まるんだ。

 全てが序章だった。

 ここで出会った彼のおかげで、私は再スタート出来る。

 共にスタートを切るのはアールだ。

 ロボと共に生きる世界。

 悪くないな。

 そんな曲を後で書こう。

 誰かの胸に届くかな。

 別に届かなくたっていい。

 私はこの無駄な人生を、音楽で生きていこうと決めた。

 人を変える音楽なんて夢はもう見てない。

 だから私は私の魅力を発揮して、アールを音楽に起用した。

 結局人が変わる時ってのは自分次第なんだ。

 それを知れたのもあの人のお陰かな。

 ただ私がそのキッカケになれたら嬉しいとは思うけど、そんなのは希望的観測に留めておこう。


 人が増えていく中で、私はステージに上がる。

 後方にピンク色の髪をした綺麗な女性を見つけた。結局あの色に戻したんだね、少し笑いそうになった。

 彼女は驚いた様に私を見ていた。通話はしてたけど、姿を見せる事はなかったから変わった私に驚いているんだ。


 さあ、始めようか。

 観客はギターをもつアールを怪訝に見ている。

 そりゃ、ロボがギターを弾くわけないもんね。

 でも、アールは別さ。

 私もアールも、生きているんだ。

 生きてりゃ歌も歌うし、曲も書く。

 それこそ人間の心だと思うね。


 これから素晴らしい日々が始まるに違いない。

 私は確信に似た予感を抱いて、マイクの前に立つ。

 その時、会場は雷に打たれたようにどよめいた。

 そりゃそうだろう。


 ロボのアールが、不器用ながらに笑っているんだから。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ