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生きるロボ  作者: 木下美月
狂ったコト
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 あと、どれくらい空にいられるだろうか。

 不意に思考をよぎる疑問。

 恐れているのか?

 何度だって入り込める空間じゃないか。

 例えここで負けたとしても、再度ログインすればいい。だけど。


「最初見た時は天使と錯覚したけど、今は純白の翼をもった悪魔に見える」


 きっと彼と踊る空に価値があるんだろう。

 だからこの一瞬を大切に今日も飛ぶ。


「そっちは竜人?モンスターと化したの?」


 シュウはいつものドラゴンに跨っていなかった。代わりに彼を空に貼り付けるのは、背中に生えた竜の翼だった。


「そうさ。つまり今日は悪役対決。勝った方が魔王になれるのさ」


 そう言ってシュウは右掌をこちらに向けた。僕も右手に剣を創り出す。

 静寂。

 彼の手から炎の弾丸が飛び出した。

 戦いは既に始まっている。

 僕は瞬時に羽をたたむ。

 落下。目を丸くするシュウ。

 炎は僕の頭上を通り過ぎて霧散した。

 落ちる僕に再び炎を放つ。狙いは正確。

 仕方なく翼を広げ、惰性で躱す。

 宙返り。

 落ちた分、舞い上がる。

 まるで夢の中にいる様に身体が勝手に動く。

 死ぬのは面倒だから、惰性で生きている。

 迫ったトラブルからは仕方なく逃れる。

 敵意には、殺意を返す。

 この空は僕の人生を描くキャンバスみたいだ。

 背後を取った。

 スローモーションに振り向くシュウと、目が合った。

 高い位置に持ってきた剣を、そのまま振り下ろす。

 鋭い音が鳴った。

 良い反射神経だ。

 シュウの鱗に覆われた右手の先、竜の様に尖った爪が剣を防いだ。

 僕は鱗に覆われた背中を蹴って、彼が体勢を立て直す前に距離を取る。おまけで羽の弾丸をプレゼントするけど、鱗が硬くて大したダメージはない。

 それでも羽と頭部、関節は脆そうだと気付けたのは重畳だ。

 一定時間が経った。

 左手に剣を創り出す。

 シュウはすかさず僕に迫る。

 炎が飛ぶ。

 身を翻す。

 爪が迫る。

 剣で受け流す。

 炎が迫る。

 滑空。

 彼が追ってくる。

 重たい竜人は落ちる方向には早く進む。

 ならばと、僕は垂直に上がる。

 どんどん高く。雲の上に。

 白い靄の中でも炎の光は目立つから、躱すのは簡単だ。

 しかし純白の僕を、シュウは見失った。

 頬が緩み、無防備な背中に向けて剣を振るった。

 右手の剣で彼の右翼を。

 頑丈だが、数センチは切り裂いた。

 手数で勝負だ。

 左手の剣は、彼の膝に突き刺さる。

 右手の剣で彼の手首を切り落とす。

 左手で刺突、羽に穴を空けて。

 右手で脇腹を抉る。

 血を降らせながらシュウは振り向いた。

 僕の剣でその顔を傷付ける。

 美しいじゃないか。

 血が似合うのは、生きている証だ。

 首を狙って剣を振るう。

 しかし、僕の猛攻はそこで止まった。


「捕まえた」


 彼に掴まれた右手の剣は僕の手を離れ、下に捨てられる。

 そしてその手でシュウは僕の首を掴んだ。

 一瞬だけ苦しいと感じた。

 直ぐに解放された。

 何故だ?

 背中が熱い。

 そうか、翼を焼かれていたんだ。

 やはり僕は堕ちて行く。

 首を絞め上げられていれば、空で終われたのに。

 苦痛に耐えながらも空に拘るか。

 安楽を求めて地に堕ちるか。

 僕は、どちらを求めているのだろうか。

 自分がわからない。

 思考の海に沈んで行く。

 そしてもう直ぐ、物理的に沈む事になる。

 真下は海だ。

 僕は負けたんだな。

 敗因はなんだ?

 いや、そんなものはない。

 シュウは強者で、僕は弱者だ。

 これこそ自然の摂理。

 ならば僕が堕ちるのは予め定められていた運命。

 大いなる流れに逆らえる個人なんていない。

 流れを作っている人間ですら、定められた方向に流されているだけなんだ。

 だから僕は抗うことをやめよう。

 堕ちるなら、どこまでも。

 沈むなら、潔く。

 きっとその流れに乗れれば、少しは楽な人生になるだろう。

 だけど――


「やっぱり、ユキは人間の姿が似合うな」


 ボロボロの羽で飛びながら、傷だらけの笑顔を見せたシュウは、落ちる僕を受け止めた。


 僕は、彼がいるから空を飛びたいんだ。


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