表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
馴染な男  作者: 孤独
大学2年
9/52

育つ目標


夏という野球の季節。


「さぁー、ペナントレースも佳境ですが!タイトル争いにも目が離せません!!」


甲子園も盛り上がるが、プロ野球も熱いんだぜ。


「マウンドには鷲頭一稀世!!ここまで6回無失点!!一軍復帰戦にして、この好投です!!しかし!ここで怖い打者が!!この回先頭は、5番の鷹田花王の打席です!!」



一軍に戻って来た鷲頭は好投中。キッチリ試合を作っていたが、味方打線の援護に恵まれず。0-0で勝ち投手の権利が来ない。そこに鷹田花王。



「今シーズン、絶好調!8月現在までに、32本塁打!新人であった去年の28本塁打を超え!今年は本塁打王を狙っています!」


実況の熱もそうだが、”最強3世代”同士の対決は、どうしてかスタンド全体を熱くさせる。鷲頭も鷹田も、かなり意識をしている。

鷲頭がプロ野球選手としてみれば、小柄な部類だ。対して、鷹田はとても恵まれた体躯を持ち、完全なるパワースラッガーの風格を出していた。こいつ、まだ20になってないんですけどねぇ?というベテランの大打者っぽい風格。



「パワーなら、俺達の中で一番だな」


阪東はスコアブックを付けながら、観戦中。

鷹田は鷲頭を相手にここまで、三振が2つとカモられていそうであるが。この試合の鷲頭の奪三振はここまで2つ。

つまり、鷹田だけしか三振をしていない事だ。結構、不気味だ。

元々、フルスイングとパワーで押し切る打撃が持ち味。本塁打数も多いが、三振はもっと多い。

しかし、見逃し三振は少なく。バットを振ってくるという恐怖は投手を威圧してくる。



「デカいな。お前はよ。鷹田……」



鷲頭は乗らない。油断もしない。

鷹田の目がギラついていて、一球一球。バットが空を切っても、恐怖すら感じる。相手打線の中で一番怖い。



「お前がすげーからだ。一稀世」


スタメンじゃなきゃ、お前達から打てねぇ。楽しめねぇ。

一打席、二打席じゃ足んねぇ。

お前達と戦うにはパワーだけじゃ足んねぇ。

俺をヒットに抑えるまでは投手の勝ちだ。だから、俺は投手が誰だろうとホームラン狙いだ!



「鷹田は器用になったな」



荒っぽさと、豪快さは桐島以上だった。しかし、プロ入りからすぐにパワー以外の技術を身につけた。

堅い守備と複数ポジションに励んで、今シーズンは指名打者なしでフル出場中。外野守備は広くないが、上手いし、肩も強い。今シーズンからは、一塁と三塁も無難にこなしている。そこらへん、桐島と違っているな。

明らかに試合に出続ける事を目的としている。加えて



コンッ



『なんと鷹田!送りバントです!しかも巧い!!』



あの鷹田が送りバントをするなんてな……。バントが盛んな高校時代で桐島と同じく、まったくした事ない奴がな。

自分のパワーを活かすため、小細工するならバントだけってのも、奴らしいかもしれん。

”鷹田の貴重な送りバント集”なんて動画が結構な再生数を記録している。

バント回数はたった7回だが、成功率100%なのが笑えることだ。その中の1回はまさかのスクイズだからな。




「おっと、この3打席目。鷹田が何か仕掛けてくるか」



これまで、三振を奪った決め球はSFF。鷹田のパワーを警戒して、落ちる球で勝負するのは正解だ。

カウントを整えたら続けるだろうな。それまでに鷹田が仕留めるか。いや、逆に鷹田はSFFを狙うか?


観戦しているだけでも、疼いてくる。ちょっと、鷲頭。代わらない?って阪東も思ってしまう。



ガシャァァッ



「ファール!」

「ふんっ。チェンジアップか」


鷲頭の緩急はきついが、もう3打席目で慣れてきたぞ。ストレートとチェンジアップのコンビネーションならカットできる。ボール球を打つほど、油断もねぇよ。俺を打たせるなんて甘いイメージはしてねぇだろ。三振だろ。俺だって、それでいいんだ。

来いよ、鷲頭。全力でな。



「……相変わらず」



お前はデカいから。態度も、打者としてのスケールも。デケェんだよ。

腹立つんだよ!!木偶の棒が!!



鷲頭が投じた6球目。三振をとりに行く、SFFか。


「!!」


その裏。内角のスライダーで、詰まらせる狙い。完璧に決まったコース。



カァァァンッ



打ち取ったと言える打球音。高々と舞い上がって、全員が見上げた。


「レフトーーー!!」


打球はゆっくりと伸びていく。鷲頭は見上げ、鷹田は走っていく。決して速くない走塁で、二塁に到達した時。



ポー―ーーーンッ



「入ったーーー!!レフトスタンドギリギリに叩き込んだ!!っていうか、ねじ込んだ!?完全に詰まっていた打球をホームランにしたーー!!鷹田花王、今季33号!ソロホームラン!!貴重な勝ち越しーーー!!」



打球はスタンドに落ちた。とんでもないパワーで、鷲頭の投球を潰してみせた。確実に言えることだが、


「鷲頭が技術で勝っていた。だが、鷹田がパワーで技術を押し切った」


そんなホームランだった。力関係を見せつけた一発。逆もあり得たんだがな。

鷹田の奴、あのパワーも成長していたのか。




◇          ◇



プツンッ



試合は鷹田の一発で大いに沸いた。しかし、テレビの中継は電源を切るという行為で消える。

部屋で2人、テレビ観戦。奮えているのが1人。


「見たか今の……」



大鳥は頭を抱えていた。鷲頭が打たれたというショックというより、今の鷹田の一発がどれだけ、技巧派と軟投派の夢を打ち砕くものかと。



「芯外れてただろ!!全然、スカッとする打撃音じゃないぞ!!それでなんでスタンドまで届くんだよ!!どーいうこと!?」

「打球がセンターだったら、ただのフライだったろうな。強引に引っ張っていた。鷹田のホームランの大半はレフト方向だ」



一度、直に鷲頭の投球を見ただけに。あの時が不調であることを今知れた2人。

プロの壁もそうだが。自分達の世代の凄さというのを、よく知れた。先輩方や後輩はそれで委縮することも分かった。


「あの時は抜けスラだったが、飛び過ぎた。もちろん、全力投球を長く維持できる体力もつけないといけなかった」

「改めて、力の大切さを知れたな」


練習試合の収穫は勝敗以上に大きいものであった。

1年で鍛え上げた肉体をさらに、デカく作り上げること。筋肉の増量というシンプルなこと。また、さらに



ガツガツガツ……


「沢山、食う事」

「栄養面も考えろ」


肉食ではないが、魚食中心の大鳥と名神。

基礎の基礎であるが、食事からの体作りの見直しをやってみた。ただ練習を繰り返すだけではなく、見直しも重要。


「目標は何キロにする?」

「150……は盛り過ぎか」

「大鳥。関取にでもなる気か?」

「答えたのは体重じゃないぞ。俺の体重は68キロだから、5キロ増しで73キロぐらいまで良ければな」


さっき言ったのは、150キロか。

投手としてならそこが球速で目指すものか。

分かりやすくて良いな、投手というのは…………。捕手はどーするべきか。


「目標に向かって頑張ろうな、大鳥」

「ああ!まだ、スタメンが勝ち取れてないし。スクリューも完成してない。全体的なパワーもつけないと……」

「………そう、だな」


己が足りないところを求めること。難しいことをサラリと言葉にできるってのは良いことだ。

今の名神にそれはなかった。そして、それを大鳥に聞く事ができなかった。そんなことで輝いた目をしている彼を、曇らせたくなかった。

少しずつではあるが、名神と大鳥の意識違いが起きていた。

それにすぐに気付いた名神はこの事を、大鳥には秘密にし、あるところに相談をした。




コンコンッ



「ノックは要らんぞ」

「いえ、監督室ですし。すみません。俺なんかのために」

「監督だが、指導者でもある。部員の進路に関わることも仕事なんだ。で、なんだ?大鳥と喧嘩でもしたのか?女ができて困ったのか?」

「いや、そーじゃないんすけど。ホント」



監督である。

部員の悩みなり、生活の悩みを聞くのも監督の務めである。たまには俺の愚痴聞けよって。


「最近の大鳥が活発的というか、成長しているのに。俺と来たら……あんまり、目標が作れなくて」

「つまり、力関係が崩れたって事か?分からんでもないな」


質問する形はとても曖昧にしていたが、監督にはすぐに名神の気持ちが分かってしまった。


「確かに大鳥の好リリーフ。見事だったよ。あの采配をした俺も、かなり学長に褒められた。その後のウェスタン選抜との練習試合でも、3回5奪三振。人によくある、一皮むける成長が、今の大鳥にあるだろうな。それについて来れないわけか」

「…………大鳥が俺よりもできる事は知ってました。長く付き合っている分、俺は分かります。ただ、俺といて、ホントにあいつのためになるのか」



隣で並んでいた時がとても楽しかった。しかし、大鳥がもし、自分と同じような歩幅で進んでしまえば、もし。自分の心の中にある大鳥への希望が消えそうだった。


「大鳥はエースになれる。でも、俺は……」

「大鳥がエースならお前がスタメンマスクを被れ」

「でも」

「大鳥って、お前以外で組んだ事がないんだろ?信頼関係ってのは、ただの実力じゃつかないもんだ。釣り合わなくなった、って他の捕手にも失礼だし。大鳥も力が出せないだろ」



自信を見失う部員は何十人と見て来た。監督は名神の状態がそれと似通っていると、判断し。



「名神。一つ訊く、ちゃんと答えろ」

「はい」

「お前は大鳥が好きなのか?野球が好きなのか?」



彼女かなんかかい!!

そんなノリの質問であるが、名神は大真面目に答えようとして


「投手の大鳥が好きです」

「そう来たか。大鳥が好きで良いんだな」


人の愛の告白を聞くのは辛ぇぇ……って、顔。はーってため息。頭を抑えるポーズは、二日酔い?


「んじゃあ、そのなんだ」


言葉だけでなく、その道を選ばないと大変であると監督は察する。


「大鳥は新球や新フォーム。改めての肉体改造と、トレーニングの日々だ。それは目標を持ってるからできるわけだ。人間、そーいうもんだ」

「はい」

「ひとまず、お前は。独立リーグに興味があるか?」

「独立リーグ……。それって、あれですよね。BCリーグや四国アイランドリーグとかの」

「そうそう」



プロ野球機構とはまた別の、NPBを目指すために作られた野球リーグの事である。プロの道を諦めきれず、若い者や元プロまで集うところ。

その存在はなんとなくだが、名神も知っている。



「独立リーグとは縁があってな。まだ野球をやりたいって奴いたら、紹介してくれって感じでよ」

「俺、2年っすよ。退学するなんてできない」

「はやるな。ただ野球をやりたい奴が行けるリーグじゃないんだ。確かに、名神。プロで活躍するビジョンがないというのなら、独立リーグで頑張ってみるのも良いんじゃないか?」



そーいって、監督が名神に手渡したのは独立リーグにある、1つの球団の入団テスト内容。



1次試験。


1.50m走

目安と注目個所。

タイムは6秒前半。走るフォームもチェックされる。


2.70m遠投

目安と注目個所。

70m到達するまでのタイムは2秒前半。送球するフォームやスピード、正確性、球の角度もチェックされる。



3.フリーバッティング OR ブルペンでの投球


フリーバッティング。

目安と注目個所。

バッティングピッチャーから15球打つ。打球はもちろん、打撃フォームもチェックされる。

目安はヒット性8本OR本塁打2本。



ブルペンでの投球

目安と注目個所。

練習で5球。それから1分間、自由に投球でアピールする。その後、1分間。クイックで投球。スピードガンでしっかりと計測され、投球フォームもチェックされる。



4.シートノック

目安と注目個所。

捕手の場合は、バント処理とキャッチャーフライ。バント処理の際の、送球タイムを計測される。二塁への送球タイムは2秒前半。




2次試験。


1.実践。

1次試験を突破した、投手と野手の実践。

野手は3打席。投手は3人の打者に投げる。



「名神なら遠投はクリアできるだろう。守備面じゃ、ウチの捕手の中で一番だ」

「むむっ……これは……」


自分も大鳥も、ここに入学セレクションでやってきたわけだ。かなり厳しいものであったが、なんとか合格ラインだった自分を思い出す。

またやるのか。という気持ちよりかは、その下の


「やれるかな」


この試験。全ての突破に対する不安。そんなものは


「これがお前の当面の目標で良いだろう。1次試験は全てクリアできるようにしとけ。目安は書いといた」

「でも、独立リーグに行くかどうかまでは……」

「野球を続けるんだろ?それぐらいの気持ちと目標がなきゃ、大鳥と組んでいられないぞ」

「50m走苦手なんですが。6秒80ほどですし。打つよりかはその……」

「自信を持て!まだ2年もある!!ミッチリ鍛えろ!!」


ドーーンって、監督室から追い出す形で。監督は、独立リーグの入団テスト内容の紙を名神に渡した。これが名神にとってはまた別の機会を作ることになる。

大鳥が様々な挑戦をしているだけに、自分も。確かに監督の言う通り。これらの課題をしっかりとこなせる選手を目指せば、大鳥と胸を張って組める捕手になれる気がした。



「というか、大鳥もこれ。クリアできるのか?」



知らんけれど。ずば抜けたもんがあれば、1次試験は突破するんじゃない?




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ