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馴染な男  作者: 孤独
大学2年
6/52

投球は色


ワーーーーー   ワーーーーー



九州六大学リーグ。総当たり戦の形式であるが、実質の決勝戦とも言える試合。

九州国際大学 VS 福岡大学。



「いけーーー!!」

「打ってけーー!」



大鳥と名神はベンチ入り。とはいえ、4番手投手に3番手捕手の扱いである。

2年ながらスタメンを勝ち取った者もいるし、4年でもベンチの外だったりもする。


試合は互いが強敵と認めているだけあって、互角の試合を演じる。


先制は福岡大学。2回、1アウト1塁から6番打者が打球をレフトスタンドに運ぶツーランで、2点を先制。対して、九州国際大学は4回に犠牲フライ。5回にタイムリーで試合を振り出しにする。

九州国際大学は6回途中で継投に入った。大鳥がベンチに入れたように、投手の枚数はこちらが多かった。2番手投手が1回と1/3をパーフェクトに抑える。

対して、福岡大学は絶対的なエース。7回まで2失点と好投をしていたが、8回表2アウト。




カーーーーーンッ


「デケェ!!」

「伸びろーーーー!!」


球数が120球を超え、抜けたフォークがストライクゾーンへ。その失投を見逃さず、ソロホームランで待望の勝ち越し点を挙げた、九州国際大学。

残り2イニングを抑えきれば、九州国際大学の勝利。そして、春大会の優勝が決まる場面。

だが、そんなことを簡単に許すまいと、福岡大学の反撃が始まる。9番からの打順。代打を送って、ヒットと送りバント。四球を加えて、1アウト2塁1塁と逆転のチャンスを作った。

打者は左の3番打者。今日、1安打を放っている。



「………」



試合は終盤。

実績で考えれば、続投だ。しかし、3番と4番は左打者。こちらも左の大鳥に肩を作らせている。

ベンチ入りなんてまだ遠いと思っていたあの二人だが、掴み取ったのはここに来るためか。ここで投げるためのものか。どっちにしろ、ここが勝負だ。



「ピッチャーの交代をお知らせします」


監督が動く。

投手を大鳥。捕手を名神に切り替える。



「おおーーーー!勝負に来た!左投手を入れるぞ!」

「2年が投げるのか!一打逆転もある場面だぞ!!」



2人の公式戦初登板は、火消し。それもチームの行方を左右するほどの大事な場面での登板。


「緊張するな、名神。これが初登板だぞ」

「緊張が移る。落ち着け」

「シンカー投げるか?」


ポジションに付く前に打ち合わせをする2人。


「まだ完成してないシンカーは要求しない。この場面は、大鳥の実力で抑えるしかない」


左対左。

こっちが有利なのは分かっている。それに大鳥の新フォームは、走者を背負った時に発揮する。それがちゃんとできるかどうかで試合の出来が左右される。


「俺達が出されたんだ。勝てるって事だ。いつも通りにやろぉ」

「声が裏返ってる」

「いいだろー!もぉー!」



名神がホームへと戻っていく。打者は大鳥と名神を観察する。


「……………」


左対左で負けるほど、俺は優しくないぞ。

投球練習を見た限りだが、球速はない。ストレートに迫力もない。変化球、スライダーやカーブ、フォークといったものを投げるか?

どっちにしろ。後ろが頼りになる。球を何球か放らせて、出方を見てから痛打してやる。


打者の自信は相当のものである。しかし、投手と捕手も同じ。

ピンチを背負っていても、互いにお前がいてくれることが勇気になる。


「……………」


緊張するこの場面でも、和のミットはデカくて、安心させてくれるリードだよ。


「……………」


宗司の球なら絶対に抑える。俺は宗司を信じて、要求できる。



ズザァァッ



大鳥、新フォームからの投球。その第一球!

投じられるよりも先に打者は驚いた。




この場面でそーいうのはあり得ないと思えた。心の声が驚きとなって



「え」


口に出た瞬間。

それほど、反射的な速さが投球にある。だが、大鳥が投じている球にではなく。そのフォームにある。



パァァンッ



ブルペンで受けるものと、実際のマウンドで受ける球は違う。ストライクを要求していたスライダーは、調子を再度確認するため。球速でもないし、キレでもなく。制球をもう一回、名神は確かめた。



「ストライク!!」



コースは甘かったが、打者が反応していなかった。よし!これだよ!宗司!

お前なら絶対にできると思っていたフォーム。絶対に通じる。


名神は大鳥の調子の良さと、打者の驚きに拳を作った。ボールを返球する事を少し忘れてしまった。対して、打者はまだ驚いたままである。気付いた者はまだそんなにいない。


「おい!手を出せよ!」

「難しいコースじゃなかったぞ!」


打席に立って、よく分かる。

大鳥の新フォームの特異性。左のオーバースローが珍しいわけがない。何度だって対戦しているが、大鳥が初めてであり、最速であった。出会ってきた投手の中で誰よりも、最速。

構え。投じる。



「ちょっ!」



なんだこいつのクイックモーション!?滅茶苦茶に速ぇっ!!

球は遅いがこの速さにビックリした。すり足クイックで投げんのかよ!?



色々な投球フォームがある。

投げる球に力を込めて投げること、打者から出どころを見づらくして投げること、球持ちをよくして投げること。

大鳥の新フォームは2番目の印象が強い。構えから投げるまでの動作が際立って速く、打者の対応が通常のフォームと違って遅れている。

球の速さは球速だけじゃないってのを見せつける投球。



ズパアァァッ



球速はわずか、136キロのストレートではあったが。打者のインハイを的確に突き、打ち辛く、振り遅れにさせるものであった。



「ストライク!バッターアウト!!」



なるほど。なるほど……。そーいうわけなんだな、和。すげーよ!


大鳥はこの三振でさらに自分のフォームの特性を知り、左手を握った。実践的に打者と対峙したのは今が初めてだった。その一回だけで急激な成長をするのは、今がピンチであるからだ。



クイックモーションというのは走者を刺すための投球かと思っていたが、打者をねじ伏せるためにも使えるんだな。セットして、打者を見る。牽制を挟んで間をとるも良し。


「……………」



打者も人間だ。打ち気ってのがある。モーションが遅いと、打者の集中力を溜められちまう。それが溜まり切る前だったり、あるいは……


「……この」


早く投げろよ。


「!」


打者の集中力が乱れた瞬間、いきなり投じる!!最速のクイックで一気に和のミットへ!



パァァンッ



「ストライク!!」



名神も気付く。それは大鳥が気付いた事ではなく、大鳥がそーやっている事で気付けた事。実際のところ、そーいう効果までは考えていなかった。大鳥との差をまた気付けてしまった。


「宗司」


打者の打ち気を感じ取って、クイックで投げ込む。そんなことまで俺は考えていなかったよ。

ただ、この投球フォームの方がお前がスバ抜けているコントロールと変化球、守備力が活きると思ったんだよ。クイックもすぐに習得すると思っていた。だけど、クイックモーションで打者をねじ伏せる発想。

俺にはなかった!

お前はやっぱり、俺とお前が思っている以上の選手なんだよ。



カーーーンッ



「セカンッ」


4番の当たりは、舞い上がったセカンドフライ。

この試合の大鳥は新球のスクリューを投じることなく、ストレートとスライダー、スラーブのみでピンチを脱する。それはまだ未完成でも、このピンチと舞台を抑えられる実力を持っていること。

9回も続けてマウンドに上がり、ヒットこそ許すが。



「…………」


なんて、クイックモーションだ。盗塁なんかできる隙がねぇ。

おまけに投球からすぐに守備の構えをとる動き。あの反応ができる投手に送りバントは厳しい。警戒されている中で決めるのは無理がある。

この大鳥という投手のピッチングは、走者を進ませない投球。それは打者に対しても同じ。


打たせる気もない。

右打者にぶつけると思わせる、キレキレのスライダー。

新フォームによって、縦スライダーの曲がりがやや狂ってしまったが、スライダーとスラーブはそれ以上の力を発揮していた。



パァァンッ



打者が手を出せない見逃したスライダーに。審判は腕を上げた。



「ストライク!!バッターアウト!!ゲームセット!!」



九州国際大学。死闘の末、勝利を収める。



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