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馴染な男  作者: 孤独
大学4年
51/52

馬か野郎


『それは本当なのか?』


『うん、入団拒否した』


『本気でしたのか?』


『本当に本当にした。めっちゃ怒られた。監督と大学、球団、親に至るまで……(笑)』


『……俺にも相談してくれよ』


『今、行くから』




◇           ◇



パラパラ……




地元を離れ、電車に乗って、辿り着いた街。



パラパラ……



あいにくの雨。

こちらから来た事も、待っている事も大変だった。



「悪い、和」

「いいよ、宗司」



どーいう顔している。そんなお互い様に思って、ゆっくりと話せるところに向かう。

そこまでの間。肝心な話をすっぽかして、


「地元のみんなはどうしてる?」

「あー、……せっかくの祝いが台無しだって」


名神は地元の様子や大学の様子を聞いていた。怒られること一杯だったが、それもそれで元気だったと、大鳥は伝えた。

みんなそりゃ怒るだろうって、名神は自分の気持ちをまだ隠して、大鳥と話していた。



「いらっしゃい!」



料亭に入って、一室を借りて。ちゃんと


「……ちゃんと話してくれよ」


真剣な話を要求した。

ここなら誰も2人を知る人はいない。本当の気持ちを、確かめたい。確かめ合いたい。


「……ビールでも……」

「頼むな!水で十分。ここの」

「厳しいな。一番怒らしちゃいけないの、怒らしてるな」


酒の勢いを使った言葉は辞めろって、それだけはダメだって。名神は厳しい表情と手で、大鳥にさせなかった。

諦めて、名神の命令に従った。言葉通りの気持ちだった。


「割烹系デスカ」

「定番のコースで良いだろ」



親友を多く持つタイプ。一定の親友と強い親交を深めるタイプ。

人は1人で生きていけないという、当たり前の事実を持っており、それが噛み当っている2人。店屋物に入ってのぎこちなさが、どーしても秘密を他人に語るには不適合と言える。

2人が注文を頼み。お冷と、すぐに来たお通しを食べながら



「俺が決めなきゃダメなのか」

「うぇっ?」

「俺は受ける捕手。投手の宗司が決めていいだろ」

「……今日の俺は謝る側じゃんか」



こんなにもこんな時が恐いんだろう。

話してみろって気持ちと、話さなくていいって気持ちを入り交えて



「ごめん。ここの飯、俺が払う!好きに食っていいから!」

「いつもの割り勘で良いだろ!」

「悪い。ホント、先送りで」


捕手らしく受ける構え。もう、名神はミットを構えているのだろう。

大鳥はあー、そのー、的な顔して、誤魔化しじゃない単純な時間稼ぎをしたい顔していた。

その口を切ってと、言いたげなのは分かって。



「飯、運んでくるからな」

「そ、そーだな」

「箸つつく程度じゃ、その口は語ってくれそうにない」

「悪い」

「”話し方”を考えてないな」

「それも見透かすか」


そんなことくらいで、俺達の信頼や絆が壊れたりしないからって、伝えていることは大鳥に分かる事だ。

その本心はちゃんと語るって、名神にも分かる。聞き飽きそうにないくらい、聞きそうだった。


「お待たせしましたー」


二人前の刺身コースが運ばれ、ようやく大鳥の口も動いた。

マグロの刺身にワサビ醤油をつけ、飯に乗せるところの名神。


「怒ってる、よな?」

「……………」

「プロに行って欲しいって、和の気持ち。和の夢。俺は分かっていたのに、俺は自分をとった」

「……………」


大鳥は頭を下げて、この分かってくれる気持ちを素直に声に出した。


「俺は変わらないさ。俺の捕手は和じゃなきゃ、ダメなんだ。お前が俺を投手として、見てくれなくなっても。俺にはお前しかいないんだ!」



即席マグロ丼を食べている。噛む回数が多いこと、名神も何を堪えているか。

沈黙が長くて、特に静かだった。

ゴクンっと飲み込んでから、



「俺だって、宗司が投手の方が良い」



謝る事があるとすれば、



「知ってたんだろ?俺がプロ志望届、出していないの」

「…………ああ」

「俺がプロで戦える力量はない。そして、プロに入れて。宗司と同じチームになる確率なんて、まずない。どっちみち、俺がこれから先で宗司とコンビを組む方法なんてなかっただろう」


名神和にとって、大鳥宗司に悪かったことがある。

頭を下げる大鳥も驚くほどの光景。向かい合う、名神は。これから大鳥に対して、大変に申し訳ないと伝える精一杯。

箸を置いて



「それでもな。……頭上げろ」

「!」



言葉のあと、大鳥は目の前を見た。


「……俺が、悪いんだ」


名神、座敷にこうべを垂れる。親友に対して、このような頭の下げ方はそれだけのものだ。

少し、言葉が出なかった大鳥。何がそーさせる?



「俺に宗司と組む実力がなかった事が、お前を傷つけた」

「!おい、馬鹿な事言ってんな!」

「宗司が色んな方面から怒られる事も、俺のためかよ!」

「俺のためだ!!頭をあげてくれ!!」



そんな言葉を聞いても、あげられなかった。


「宗司がプロに行けるのに、俺は……そこに行けない!行けなかった!勇気もなかった!そんな思いがお前を留めてしまった!」

「……親にも球団にも言った!俺は和と組むって!!野球やるなら!和がいることを望んだ!!」

「馬鹿!!組めなかったから!!お前は入団拒否なんかしたろ!!俺はみんなの夢、壊しちまったんだ!」



この信頼、破れないものだ。



「んな理由ないし。……きっと宗司がそう思っても、俺は支える。俺がそうなっても、宗司を支えた」

「ふざけんな!嫌だぞ!絶対に嫌だ!!」

「嫌でもよ!同じ世界にいる親友が、バラバラになるわけねぇだろ!!お前がそうした!だから、俺もそうした!」



分かっているはずだ。

この入団拒否の真相を、言わなくたって気付いている奴。



「プロで活躍する宗司、どこで野球するか分からない俺。もう組めないから。宗司が、俺なんかをとったって思われる悔しさがある」

「馬鹿。それが、俺の選択だ!」


選択だから。酷く傷つけている事実。

一緒にプレイしようぜって、野球少年の夢物語。そのまま進んでいくことが、どれだけ難しい社会か。



「頭上げろ。怒られるのは俺だ。頭下げるのも、泣くのも、俺だけでいい」


もう泣いている。


「和まで泣くなよ」


向こうも泣いている。




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