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馴染な男  作者: 孤独
大学2年
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交流は稀


”最強3世代”、その世代の1人が苦しんでいた。


「焦る気持ちがあるのも事実だ。鷹田や米野、桐島、レイ、叶が活躍してるのにな」



高校時代のスーパースターが1人。

プロの壁と、己の障害に苦しんでいた。



その男の名は、鷲頭一稀世わしずいちきよ。小柄な投手であるが、最速150キロに7種類もあるという変化球を投じられる、完成度の高い投手。

そんな投手がプロの世界で苦しんでいる。


「そー言われても、高卒新人で7勝も挙げてんだろ……」

「防御率だって3点台前半。先発ローテは合格ラインだぜ……」

「米野と桐島、鷹田が怪物過ぎるだけなんだよ……」



1年目でローテーションを勝ち取って、完封も1度記録。鷲頭は確かに1年目こそ通用していたが、2年目は苦しんでいた。ペナントレースという長いロードは、高卒上がりの鷲頭の体力で乗り切る事は辛く、相手からの研究や怪我にも泣かされるという厳しい現実が待っていた。

2年目は春に1勝をしてから3連敗。2軍落ちし、フォームの調整をするも。中々実らずに、夏場まで来てしまった。


そんな中で同世代が目覚ましい活躍を続けていたら、プレッシャーも相当ある。高校時代は肩を並べた存在であっただけに、この差を感じずにいられない。



「まだ1年だけだろう。お前はこれから先、活躍できる未来があると思うぜ。お前次第だがな」

「……そーかい。未来の監督さんが言うなら、ホッとするけどな」



鷲頭の不調に、同期にして、引退したての阪東が声を掛けに来ていた。


「鷹田もお前の事を心配してたぞ」

「ホームラン争い中の選手に余計な心配を掛けさせるか~。獲れなかったら、俺のせいにされるか?」

「あの鷹田に限ってそれはないだろ。お前の心配もできる余裕の表れだよ」



鷲頭は米野や阪東などと違い、体格に恵まれていない。

高校での完成度は確かにプロに通じるものであったが、それ以降の成長には限度がある。早熟してしまった選手だった。阪東はそれに気づいており、鷲頭は気付かないようにする。



「肘の故障には気を付けろ。プロなら何でもな」



速球派のイメージが強いが、鷲頭は軟投派であると阪東は思う。

球1つ1つの質は軽いが、多彩な投球で打者を翻弄する。阪東も鷲頭ほど様々な変化球を投げられる投手は出会った事がない。故に故障との闘いもある。



「ところで登板する予定はあるのか?お前を視察したいんだがな。中継がないとなれば、現地に行くしかねぇ」

「調整試合で、社会人と大学で投げる機会はあるぜ」


プロ野球の2軍、3軍は社会人や独立リーグとの練習試合が組まれる事もある。もちろん、大学との練習試合もある。

今は2軍で調整中であるが、”最強3世代”の1人が偶然にも、アマチュアの世界にやってくる機会があった。




◇          ◇




「まず、驚くなよ」



それと時期はやや前になるのだが。大鳥と名神が在学する大学の監督は、ある吉報を選手達に届ける事となる。


「もうすぐ、春のリーグ戦が始まるわけだが。今年こそ、優勝する事はもちろんの事だが、なんとだ。その優勝チームには、プロとの練習試合が組まれる事になるそうだ」

「!!」

「プロって、プロ野球のですか!!」



それ以外、何があるという。



「そうだ!大学野球レベルの向上という名目、プロとの交流も大事であるという事でな!シーズン中であるため、1軍選手との出会いはないだろうが、ウェスタン(二軍)選手の選抜との練習試合だ!プロの実力を感じるには良いチャンスだ!張り切って、リーグを制覇しようじゃないか!!」



かなり特例的なプロ野球との交流。(8月にやるので、できなくはないが)

こんな美味しい話に監督も、選手も。盛り上がって当然であろう。ただの1チームではなく、ウェスタンリーグ全体の選抜選手による交流試合だ。



「観戦以外じゃ、プロを直に見た事はないな」

「ああ」



とはいえ、ベンチ入りしているだけの大鳥と名神。二人以外だって、プロとの試合はやりたいものである。こうして手合わせするために



「リーグ制覇に行くぞ!打倒、福岡大学!」


九州六大学リーグは基本的に2強である。

九州国際大学と激しく争う福岡大学。

その2校との優勝を決める試合が、もうすぐ始まろうとしていた。

そんな中であっても、2人は試合に出ることができず。ベンチを温めていく日々。



パァァンッ



「今のはダメだ。棒球だ。試合で投げたらホームランだぞ!」

「悪い。しかし、ムズイな」



新球、シンカーに挑戦中の大鳥。

武器となれば強力であるが、モノにするには予想以上の時間が掛かると挑戦して感じる。新フォームと同時であるため、本当に高い挑戦である。


「シンカーに気をとられて、スライダーまで見失ったらダメだからな」


別の球である以上、手先の感覚とリリースの違いにより、全体の球の質は落ちるだろう。

その上、フォームもクイックモーションからの投球。完全に力を捨て、技で行く投手の道。



ググッッ



「!!」



打者の手元で鋭く沈むシンカーになれば、



パァァンッ



大鳥と名神が理想とするシンカーの完成。今の変化は鋭く曲がり、ミットに収まった。



「よーし!今の!コースは甘かったが、今の変化で良いよ!」

「ケチがついたな!」



少しずつではあるが、理想のシンカーへの完成が見えて来た。ブルペンで調整し、実践形式の場面での投球はもう少しとなりそうである。そして、もう一つに大鳥の投球時の足の動き。投げる球を意識するだけでなく、投げた後の守備の構え。一見では球やフォームばかり見てしまい、分かり辛いところであるが、名神はしっかりとチェックしている。

受ける球も、投げる大鳥も、投げ終える大鳥も。




パシィッ




「セカンッ!!」


フォーム改造、その2。

全体練習のノック時に、この効果が現れる。

投手がホームに向けて、投球をした瞬間に始まるノック。

守備練習という形式状、そのフォームは投手が地道に作っているフォームや、フォームを軽んじて、すぐに守備の体勢が作れるようにやっていることが多い。だが、大鳥はしっかりとしたフォームだけでなく、素早い守備への体勢を素でとってしまう。

豪腕、速球派の投手では、軸足の溜めや腕や腰の回転などで投球そのものに力を入れるが、大鳥は投球と守備の両面を活かせるクイックモーションが現在の投球フォーム。



「おっ!」



元々、大鳥は左利きだから投手をやっていたという経緯を知っている名神。

反射神経も良く、捕球からの送球も正確かつ素早い。右利きだったらショートの名手だったろう。

バント処理を素早くこなし、セカンドへの送球は誰よりも上手い。

素早く守備に移れるフォームだから、打球反応もさらに上がっている。そして、




パァァンッ



「ピッチャー返しを捕ったーー!」

「センターへの打球だぞ!スルーしろよ!」

「いや、目の前に来たから……」


強いピッチャー返しへの反応。これまで経験した事ないほど、余裕を持って捕球できた。

この打球を処理した時、大鳥は名神が思い描いていた自分のフォームの意味を知れた。そーいう意味でさらに名神を信じられた。



そして、この大鳥の変化を監督も気付くことができた。

もしかすると、大鳥と名神にも出番がやってくるかもしれないと。



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