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馴染な男  作者: 孤独
大学4年
49/52

選ぶ人生


生き方とは様々である。

出世を追い求める、血気盛んな者。注目を浴びるための者。のんびりと過ごす者。

各々に価値観があって、どれも正しいという事がある種の正解。




「大鳥はプロ志望届を出した」

「!」

「名神。お前に話は来てないが、出したらどうだ?」



進路に協力するのも監督の仕事。とはいえ、名神はもう進路が決まっていた。

監督の言葉は、ダメ元だった。



「同じ球団に入れるわけじゃないですし。実力不足も知ってます」

「……そーいうもんか」



プロへの道は諦めていた。これからは社会人……ではなく、


「独立リーグの入団。で、良いんだな?」

「はい!!」

「ホントに厳しい世界だぞ。1か月、体験しただろ」


最初は興味であり、その厳しい世界に挫折も味わった。だが、名神はあえてその世界に行く決心を、あの敗戦で固められた。

大鳥の悔しさをもっと知るためだった。

離れることになっても、大鳥のおかげで生きているという気持ちがそれを選んだ。



「”できたら”なんて言葉は使わず、プロになって……活躍する大鳥の球を受けたい」

「ははは、すげぇ夢」



ホントに短い。けれども、今こうして。野球を続ける意味をもたらしている。

大鳥にこれからのプロ生活に新たな出会いを求めるように、……名神も独立リーグでそんな出会いを求めてみる。

人間どこか分からないが、きっとある。



「ともあれ四国アイランドリーグ、”徳島インディーズ”に入団。おめでとうな」

「頑張ります」



大学卒業後、名神和の次の居所がそのチームであった。



◇            ◇



「独立リーグへの入団、おめでとうな」

「よせよ。宗司は、プロだろ?」



決して、褒められるところじゃあない。

大企業に就職が決まった人間が、中小企業へ就職する人間に拍手して祝っているくらいの……そう思える、悪い冗談だった。



「……続けてくれるんだな、野球」

「宗司が続けるんだからな。俺も頑張るさ」



嬉しかった事だ。

またもう一度、組もうって。先にプロに行ってしまうこと、世界が違ってしまうものだけれど。いつか、その世界を目指して



「宗司がピッチャーで俺がキャッチャー」

「!」

「きっと、ガキからプロ野球までそんなこと。例はないと思う」

「……そうだな」



夢を持つ、名神。それが夢と思いたくない大鳥。

志望届けを出してもらえれば、指名は確実という状況を知っていた。

先に行ってしまう、申し訳なさが表情を作っているのか。こーしてまた、大鳥の悔しさある表情を見てしまうと、名神の心が強く抵抗をしてしまう。



「すぐ追いついてやるからな!立ち止まるなよ!」

「もちろんだ。一軍で待っててやるよ!」



エールを互いに送り、嘘をついたまま。隠したまま。

時間は過ぎていく。それぞれ向かう新天地の準備、そこにある野球。

ドラフト7位とはいえ、大鳥が指名された時は地元は盛り上がった。


「地元からプロ野球選手が輩出されるぞ!!」

「すげーことだ!」


小さな町から日本中に配信されるプロ野球の世界に進出する人がいる。めでたく祝い、それに担がれること。

大鳥宗司は野球とは違い、忙しいものであった。

一方で、名神和も2月から始まる独立リーグのキャンプ参加のため、家捜しやら独立リーグでの生活のレクチャーを受けていたりと、大鳥と出会えない時間を過ごしていた。

メールや電話で会話はあれど、直接という事はなかった。


薄々、分かっていて。名神は会わなかったのかもしれない。

もし、




そのもしが、怖かったのかもしれない。



「……はい」


やっぱり、2人に信頼はある。思い強く、変わらないものを求めていた。



「!?正気か!?お前、……こんな。誰もが、求めている夢の話を捨てる気か!?」



ドラフト会議から1週間も経たない事だった。

その報せを受けたのは、九州国際大学の監督。当然、ここまで好意的な印象で、野球部全体にも良い影響を与えていたことだった。

にも関わらず。

そんな全てと裏切ってでも、たった1人だけ信頼できる捕手を選ぶ。投手という我儘であり、自分が選んでいた事。



「大鳥宗司は、入団を拒否する」




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