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馴染な男  作者: 孤独
大学4年
45/52

孤高な人



「もぉー、遅いですよ!レイさん!」

「悪い。悪い。柚香ゆずか



九州国際大学 VS 慶応大学の死闘。

その激戦の裏で、今熱い野球選手同士のカップルがここにやってきた。


女性の方はこれから試合があるかのように、野球のユニフォームを着て。彼の遅刻を注意していた。

その男は女性選手よりも身長が低く、オシャレな服を着た若者といったところ。



「今日は私の大活躍を見て、帰ってくださいね!」



寺柚香てらゆずか。二つ名は”偶像アイドル

大学野球、唯一の女性選手。3年生。ポジション、セカンド。

女性にして、全国に出場するチームのスタメンを勝ち取った選手。

主に2番打者を任され、バント技術やチャンスメイクに関しては、十分過ぎるレベルを持つ。幸先と同じくチームを鼓舞できる性格をしている。

大学野球界のアイドルでもある。とはいえ、



「思ったより可愛くないとか言ったら、ぶっ殺します」

「誰も言ってない。言ってないぞ」



それはまぁ、今度ね。どーするか検討中。



「村井は元気か?」

「そりゃああいつ、仏頂面でバット振ってる馬鹿です。元気ですよ」

「どんだけ成長したんだろ。あいつ」

「あ、私の活躍だけ見てくださいよ!レイさん!あいつ、守備は怠慢ですよ!私にどれだけおんぶにだっこなのか……」



”最強3世代”、阪東の世代。

格は、桐島と鷹田、米野に匹敵する男、渡辺レイ。

個人の野球センスにおいては、最も優れた選手であり。”天賦”の二つ名に偽りなく、蔑まされるほど。ただただ才能のみで野球をしている選手。

この年はメジャーリーガーの仲間入りを果たしている。

女性選手である寺よりも低い身長、小柄な体型ではあるものの、メジャーの中。それも内野手というポジションで活躍をしている選手。


同ポジションの猪瀬とはまるで違う、天才であり、経歴の持ち主。



「お、良い試合をしてるね」

「もぉー、早く終わっちゃえ~……って、慶応が負けてる。意外」



2人が来た時。試合は7回の攻防をやっていた。



内野手という立場で違いこそあるが、彼と彼女は。大鳥と名神に似た、強い絆があってのも。その圧倒的な才能を持ってしても、野球をしていなかったら活かせないという、まぁ当然のこと。

やる気のどーこうも、練習とは違った力を出すものだ。


「あ。八木さんがサードやってるー。相変わらず、人の良い奴」

「……………」


寺の気付きはなんとなく。しかし、レイのそれは真剣な目でショートを守る猪瀬を見ていた。

当然、噂には聞いている。自分がメジャーに行った後、その後釜に付くと評価された男だ。自分とはまったく違う、恵まれた肉体の持ち主。見かけ通りのパワーもあるだろう。あの八木がショートから動いただけでも、十分に分かる猪瀬の器量。

そんな彼が今見ている、目はどこか自分と似ている境遇。




◇            ◇



猪瀬宇佐満は、



『あまりに突出している』



彼の父は野球ライターに語っていた。



『リトルの頃から一番。個人で行う野球のレベルは誰にも負けなかった。試合に負けても、個人の戦いでは負けた事は一切ない』


それで大将面をするわけなく。あるいは周りを鼓舞しようとする気もなく。

黙々と自分と戦う。いつしかそれで、自分の敵は自分しかいない。そんな思考に至る。

総合力の高さでは確かに誰にも負けてないだろう。


唯一、



『うめぇー、牛うめぇ!東北の牛、うめぇっす!猪瀬!こんなうめぇーもん、いつも食ってるなんて羨ましいっすよ!!』



鬼島郁也という自分とはまるで違う、突出した稀有な選手がいた事がその果てない戦いのモチベーションを保てた事か。

だが、本当の意味で。自分が認める選手とは対面できなかった。

世代の向こう側にしかいない。悔しさ。


そんな選手ばかり見て来た。そーあっていて、一際変わっていたものだ。


ライバルではなく、仲間として、親友として。

共に進んでいく者の強さ。



「そんなもの」



必要であったか?

自分と戦い続け。昨日の自分に勝つ、今日の自分。明日の自分に負ける今の自分。

強さに磨きをかけていた存在が、時折、不安に似た疑問を持たせる。

大鳥宗司と名神和が持っている、絆とか切磋琢磨とか。



天才と称される、孤高にある人が持たぬ。そんなモノ。



「九州国際大学、走者を出すも!セカンドフライで、凡退!!」

「7回裏の攻撃だーー!」



猪瀬の残りの打席は、1打席だろう。



「この回!猪瀬まで回すぞ!食らいつくぞ!」

「おおおおおーーーー!!」



7回裏は、5番からスタート。1番、猪瀬に回るとしたら、完全な得点圏って事だ。

唯一、大鳥を完全攻略をしている猪瀬に得点圏で回したい、慶応大学。

円陣組んで、気合を入れて臨む。それは確かに熱くなってくるものであるが、ちょっと違う。猪瀬自身から思うのは、言葉だけでしかなく。まだ過程の中にいる有様。


9人一丸となって、力を合わせても。”その強さ”では、きっと大鳥と名神のコンビの、たった2人でたった2人の最強の前では、足りないものだ。

スカウターみたいな数値化する機械、なくても分かるもんだ。




ガツッ



「サードに転がった!」

「スラーブで引っ掛けさせた!」



このレベルに達すれば、勝ちたい思いは誰だって平等なものだ。

差が顕著なのは、仲間への信頼。こんなにも強く変われるほど。伝え合う声が要らないほど熱い心。



「1アウト!1アウト!」



このイニング。回ってこない。

そんな信頼が自分に合った。たった1人、足を引っ張ってしまうかもしれない。



「5番から1番まで回るか?」

「!八木さん」



スーパー1年生にレギュラー獲られて、腐っちまうような人であれば、その世代に名を連ねないだろう。

八木は猪瀬の隣に座り、



「とりあえず、ツーベースを打てよ。猪瀬」

「はい?」

「サイクルヒットのリーチじゃねぇか」

「……試合に関係ないですよ。試合に負けたら」

「俺は。お前がお前に勝てって言ってるんだよ。記念になるだろ」



ムード✖とは言わないが。野球という団体競技を、個人種目であると考えすぎる猪瀬。しょうがなしと思えるのは、さすが八木である。

個人の強さがここまで突き抜けているのは、同ポジションの大天才であった、渡辺レイと彷彿させた。

お前ホント、投手じゃなくて良かったと思ってやれる。


「さっきはヘマしちまったが、俺がチームを勝たせる。カッコいい事、俺にくれよ」


自分はそんな信頼を思った事はなかった。

だが、ここにいるチームメイトは、猪瀬への信頼が厚いこと。分かっている。どれだけお前が凄いかを分かっている。



「まだ試合中。腐るなよ、猪瀬」

「……八木さん。お互い様じゃ、ないですか?」

「おー、恐い恐い。次はねぇって、面してんな」


あまりに強く、それ故に、弱さを持つ。

猪瀬自身の課題はまだまだ。終わりなど見えてこないほど、あるものだ。



怒涛の、8回裏の攻防が始まる。




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